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怒りと裏切りのウクライナ 古川英治

電力なき極寒の中での猛烈なミサイル攻撃――なぜそれでもプーチンは勝てないのか?/文・古川英治(ジャーナリスト)

 私はこの原稿をロウソクの灯りを頼りに書いている。

 ロシア軍は2022年10月以降、ミサイル攻撃によりウクライナの民間インフラの破壊を繰り返しており、全土で電力供給が著しく低下した。私が住む首都キーウは、計画停電を実施しており、暖房や水の供給が不安定になっている地域もある。みな電気があるうちに携帯電話やコンピュータを充電し、料理や洗濯に取り組む。前線に近い町では電気もガスも水道もない生活を強いられている。

 だが、ロシア大統領ウラジーミル・プーチンが真冬に停電を引き起こすことでウクライナ人の戦意をくじこうとしたのならば、うまくはいっていない。市民から聞かれるのはこんな声だ。

「自由の見返りだと思えば、たいしたことはない」

 容赦ない無差別攻撃、占領地域での残虐行為、食糧やエネルギー供給への打撃まで、プーチンがウクライナ人を痛めつけようとすればするほど、侵略者に抵抗する士気は高まる。

 最新の世論調査によれば、ウクライナの勝利を信じる国民は95%に達した。2014年からロシアが不法占拠するクリミア半島を含むすべての領土を解放するまで戦いを続けるべきだと大多数が答える。(1)1991年独立時の領土の回復、(2)損害賠償、(3)戦争犯罪人の処罰……これが国民のコンセンサスだ。

ウクライナの地下鉄シェルター ©時事通信社

ロシアへの恐怖、アメリカへの不信

 22年2月24日にロシアが全面侵攻を開始した時、ウクライナのここまでの戦いぶりを誰が予想しただろうか。3月にキーウの攻防に勝利し、欧米の支援を受け、9月には東部ハルキウ州からロシア軍を撤退させ、11月には南部ヘルソン州の州都を奪還した。敗戦を重ねたロシアは9月に予備役30万人を動員し、ミサイルや無人機による攻撃を繰り返しているが、戦況を打開する見通しはたたない。

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