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丸の内コンフィデンシャル 楽天社長ワンマンに拍車、IIJ外様登用の裏で、ENEOS会長ご乱行退任の陰で沈黙する女性社外取、富士フイルムHD「不発」

日本の経済の中心地、東京・丸の内。敏腕経済記者たちが“マル秘”財界情報を覆面で執筆する

★ワンマンぶりに拍車

楽天グループ(三木谷浩史会長兼社長)が不祥事に揺れている。2019年から物流事業で担当幹部が不正な便益供与を委託先に求めていたことが判明した。水増し請求の総額は46億円にのぼるという。楽天はこの幹部社員を解雇している。

携帯電話事業の先行投資が膨らみ、楽天グループの今12月期は4期連続の巨額赤字となる見通しだ。すり減った自己資本を増強するため、11月には傘下の楽天証券における2割の株式をみずほ証券(浜本吉郎社長)が800億円で取得する。グループとしてもメインバンクのみずほ銀行(加藤勝彦頭取)に対する借り入れ依存度は高く、「みずほフィナンシャルグループ(木原正裕社長)が見放したら楽天は立ちゆかない」と金融関係者の間で囁かれている。

期待する携帯電話事業の先行きが見えないのは、「三木谷氏のワンマン経営に拍車がかかっているから」(楽天関係者)という見方が少なくない。3月末に楽天モバイル社長の山田善久氏が退任したのがその象徴だ。三木谷氏と同じ興銀出身の山田氏は楽天トラベルの社長を務めるが一度辞任。10年に楽天に復帰しグループのCFOなど要職を担ったものの、「極端な成果を求める三木谷氏のわがままについていけなくなった」(前出・関係者)という。4月から「家庭教師のトライ」を展開するトライグループ(二谷友里恵社長)の代表取締役を務める。

代わりに楽天モバイルのCEO職が三木谷氏からタレック・アミン氏に移り、山田氏の後継は矢澤俊介氏となった。アミン氏は技術畑のため、実質的に経営を仕切るのは矢澤氏とされる。05年入社の矢澤氏は「楽天市場」の営業で成果を残した典型的なたたき上げで、三木谷氏への忠誠心も人一倍高い。矢澤氏の決裁経路にはグループ副社長の百野研太郎氏がいるが、三木谷氏の決定を追認するだけと言われ、もう一人の副会長で金融部門を統括する穂坂雅之氏も三木谷氏の前ではまったく発言権がないという。

通話品質を上げるための基地局投資の原資が、いつ底をつくのか。そうした不都合な情報は三木谷氏に上がってきていないのかもしれない。

★外様登用の裏で

国産デジタル通貨を推進するIIJによる人材スカウトが話題を呼んでいる。

1992年に日本初の商用ネット接続事業者として誕生した同社の創業者は、会長兼共同CEOの鈴木幸一氏。有数のクラシック音楽の愛好家としても知られ、霞が関とのパイプ作りが趣味と言われる同氏は、大物財務次官の勝栄二郎氏を招聘し、2013年に社長の座を譲った。

通信業界を驚かせたのは、総務省で総務審議官など要職を務めた谷脇康彦氏の招聘だ。谷脇氏は、NTT(島田明社長)の再編や携帯料金引き下げを主導した通信行政の中心人物。接待問題で懲戒処分となり総務省を退職するや、今年1月にIIJ顧問に就任し、6月から副社長となった。

谷脇氏と並ぶもう一人の副社長は民間出身の村林聡氏だ。三菱UFJフィナンシャル・グループ(亀澤宏規社長兼CEO)元専務で、4月からデジタル通貨事業を手がけるディーカレットホールディングス(HD)の社長を務める。

オールジャパンで挑む国産デジタル通貨事業は、IIJが旗振り役となり、メガバンク3行に加え、三菱商事(中西勝也社長)や関西電力(森望社長)など計80以上の企業や団体が参加。法人間の取引・決済での活用のほか、参加企業のDX推進をはかるべく開発が進められている。

ここでもIIJは大物を取り込む。元金融庁長官の遠藤俊英氏だ。昨年4月にディーカレット(社名は当時)の特別顧問として招聘し、今年4月から非常勤取締役となっている。現在、検討中であるデジタル通貨の法制度について、遠藤氏の知見を活かし、リードしたいとの強い意志がうかがえる。

こうした華々しい外様登用の一方で、生え抜きの活躍が聞こえてこない。デジタル通貨事業において、ディーカレットHD社長に村林氏が就く際、生え抜きの時田一広氏が専務に降格される人事が行われている。度重なる大物の一本釣りは、人材が育っていない裏返しとみる向きもある。

★沈黙する女性社外取

ENEOSホールディングス(齊藤猛社長)の会長だった杉森務氏(67)による沖縄のクラブでのご乱行。8月12日に「一身上の都合」で退任してから週刊新潮にすっぱ抜かれるまで、1カ月、同社は隠蔽し続けた。企業体質が問われる事態であるが、社外取締役、なかでも3人の女性たちが女性蔑視の極みのような杉森氏の暴挙に沈黙を守り続けているのはなぜか。

3人の女性社外取締役は、エコノミストの大田弘子氏、元バレーボール日本代表の三屋裕子氏、経営コンサルタントの岡俊子氏だ。

政策研究大学院大学学長の大田氏はいくつもの上場企業の社外取締役に就き、2014年6月から20年6月まで、みずほフィナンシャルグループ取締役会議長だった。

一方で、小泉政権時代から竹中平蔵氏らと共に規制緩和の旗振り役となり、安倍・福田内閣で経済再生担当大臣、第2次安倍政権では規制改革会議の議長を務めるなど、「政府の御用学者」との批判も少なくなかった。

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