見出し画像

【イベントレポート】 文藝春秋100周年×ヤプリ シリーズカンファレンス「真実の瞬間」 「リテールテイメント」の到来 - 実店舗でしか味わえない「体験」、新たな顧客との信頼関係のカタチ -

リテールテイメントとは、「リテール(小売り)とエンターテイメント(娯楽)」を融合した言葉として誕生した。実店舗での購買体験にエンターテイメント要素を取り入れた新しい概念である。

店舗はこれまで、商品を手にして試すということが主たる目的となっていたが、購買行動の変化や生活様式が多様化する中、購買意欲のさらなる喚起や顧客のロイヤリティ醸成、LTVの最大化の起点として、実店舗でしかできない体験が注目を集めている。

「店舗での楽しい体験からブランドのファンになる」「店員とのコミュニケーションから生まれる偶然の出会い」「一過性の体験ではなく、オンラインでもつながる仕組みでLTVの向上を図る」など、リテールテイメントに取り組むことで顧客との新しい関係、持続的な絆を築いていくことが重要となっている。

第3回目を迎えるシリーズ「真実の瞬間」では、「リテールテイメント」に焦点を当て、流行の背景や全体像、実際の取り組み事例などを通じ、顧客体験の最大化について考察した。


■基調講演

消費者にワクワクを届ける 、ファミリーマートのリテールテイメント
~ お客様にわかりやすい、スタッフにも優しい店舗づくりとエンゲージメント ~

足立写真

株式会社ファミリーマート
エグゼクティブ・ディレクター CMO 兼 マーケティング本部長
足立 光氏
1968年生まれ。株式会社ファミリーマート エグゼクティブ・ディレクター CMO 兼 マーケティング本部長 
シュワルツコフ ヘンケル 社長・会長、日本マクドナルド 上級執行役員・マーケティング本部長、ナイアンティック シニアディレクター等を経て、2020年10月より現職。I-ne社外取締役、スマートニュースおよび生活協同組合コープさっぽろのマーケティング・アドバイザーも兼任。

コンビニエンスストア上位3社の既存店日商前年比推移において、ファミリーマートは2021年4月以降16ヵ月連続で競合他社を上回っている。既存店客数の前年比推移でも、同期間において継続して競合を上回っている。マーケティングにおいて「WHAT=何をするか」「HOW=どう伝えるか」。今日はこの2つを伝えたい。

◎WHAT=何をするか
2021年春に訴求の方向性=キーワードを、①もっと美味しく ②たのしいオトク ③「あなた」のうれしい ④食の安全・安心、地域にもやさしい ⑤わくわく働けるお店 この5つに定めた。“おいしさ”は店舗に行く理由になるが、中食全体では競合他社に比べて知覚品質・イメージの差が大きかった。そこで、特定の領域=定番品の強化とチキン/スイーツ/パンの3つにカテゴリーを絞って、重点強化策を立案し実行した。

ファミマ5つのキーワード

例えば、“もっと美味しく”施策としては、プライベートブランド商品を「ファミマル」ブランドに刷新・統一し、重点カテゴリーのチキンにおいて「クリスピーチキン」を発売、スイーツでは「バタービスケットサンド」や「ファミマ・ザ・クレープ」など新作を多数投入した。パンでは「ファミマ・ザ・メロンパン」「ファミマ・ザ・カレーパン」などを、おむすびでは「SPAMむすび」などを投入した。

“たのしいおトク”では、定番商品の「40%増量作戦」や、ドリンクを1個買うと1個もらえる施策を実施。“「あなた」のうれしい”についても、パン・スイーツの「懐かしの看板商品復活祭」などさまざまな施策を行った。

販促効果UPには、“大きくて、熱い分野”での施策が欠かせない。“たのしいおトク×売上・客数の多いカテゴリー”施策としては「ファミマのボトルキープ」「コーヒー(TOP GUNコラボ)」「缶コーヒー(プロレスコラボ)」といったドライ飲料関連のキャンペーンを実施。来店目的の拡大のために衣料品のプライベートブランド「コンビニエンスウエア」を導入したり「アニメキャラクターやゲーム/ゲームアプリとのコラボ」のキャンペーンなどを実施した。

◎HOW=どう伝えるか
全メディアを総動員し、SNS利用で話題化し、尖った広告を打っている。オウンド(自社)/アーンド(稼ぐ)/ペイド(広告)の各メディアの全てを同期させ、オウンド⇒ペイドまで全てひとつの流れで一緒に考えるようにしている。例えばクリスピーチキンでは、Pボード・什器状POPから雑誌ラック、Twitter、PR イベント(40周年記念発表会)までを一気通貫で考え同じ言葉やビジュアルを使い実行した。

ファミマは、広告(ペイド)投資額が競合より少ない。よって、オウンド/アーンド・メディアの強化が必須になる。話題化(施策の認知率アップ)のためにツイッターを特に強化している。ツイッターは話題の“着火点”かつ“ブースト装置”だ。ツイッター⇒他のソーシャルメディアやネット掲示板⇒オンラインメディア⇒マスメディア、という流れで話題化していく。例えば「カレー祭り」に合わせて全国で3店舗だけをカレー色の看板にするなどの施策で話題化し、拡散効果を上げた。「日本のトレンド」入りも連発し、ツイッターのフォロワー数は2年で倍増している。

尖ったコミュニケーションの例では、「そろそろ、No.1を入れ替えよう。」「負けていたのは、イメージでした。」「ファミマは日本で2番目に人気のチキンのお店!」というコピーの広告などが話題になった。

「WHAT=何をするか」「HOW=どう伝えるか」、これらを毎日、毎週、毎月、やっている。ファミリーマートのマーケティングはある意味“お祭り”だ。おむすび祭り、パン祭り、カレー祭り……が毎週続く。それを楽しく、お祭りだから大きく伝えたい。日商(日販)、既存店客数、パン、スイーツなど商品の売り上げも伸びている。好調のおむすび、ドライ飲料、コンビニエンスウエア関連の施策もさらに強化していく。

画像3

2021年の顧客体験価値ランキング(日経クロストレンド誌)のコンビニ部門では首位を獲得し、同年の日経Webブランド調査(日経BPコンサルティング調べ)でのランキングでも前年の56位から19位に上昇しコンビニ首位となった。

ファミリーマートの特徴=5つのキーワードを継続的に、話題になる尖ったコミュニケーションで、全メディアをフル活用し、効率的・効果的に、「大きく」伝える! それがリテールテイメント、まさに感覚としては毎日ずっとお祭りである。それがお客様と店舗で働くスタッフに楽しんでいただけて、よい結果につながっているのではないだろうか。

■事例対談

アルペン最大の旗艦店舗の価値を変える
「リテールテイメント」とは?
~ 顧客との信頼関係は、“エンタメ“で育む時代へ ~

蒲山さんサブ

株式会社アルペン
執行役員 デジタル本部長 兼 情報システム部長
蒲山 雅文氏
大手Sler、コンサルティングファームを経てアルペンに入社。レガシーシステムからの脱却を図る一方で、各種ツールを組み合わせた内製化シフトを推し進め、会員900万人・年間1億件のビッグデータの分析を可能にする仕組みの内製構築に成功。2022年からはEC事業を管轄。事業の拡大に加えOMOなどの施策を通じた顧客接点のデジタル化を牽引。

伴さん

株式会社ヤプリ エグゼクティブスペシャリスト
伴 大二郎氏
小売業界においてCRMの重要性に着目。一貫してデータ活用の戦略立案やサービス開発に従事した後、2011年にオプト入社。マーケティングコンサルタントを経て、15年によりマーケティング事業部部長として事業拡大に向けた組織作りに着手。マーケティングマネジメント部やOMO関連部門等々を立ち上げ、統括しながらエグゼクティブスペシャリストという立場から社内外への発信活動を行う。21年6月、ヤプリに参画。

前段として、ヤプリの伴氏がリテールテイメント(リテール+エンターテイメント)について改めて概説。“EC(電子商取引)で何でも購入できる時代の店舗体験の再構築”を表す言葉として米国で使われ始め、最近は、①商品を触る/試す体験型店舗(スポーツ/アウトドア/コスメ) ②デジタルのエンターテイメントをシームレスに引き継ぐ店舗(SNSキャンペーン/コラボ)③ライフスタイルやイベント型(公園+店舗/イベント+店舗)、などに言及する際にも使われる用語であると紹介した。その後アルペンの蒲山氏を迎え、掲題の対話が進んだ。以下は発言要旨。

「スポーツやアウトドアへの愛情が深いほど、道具へのこだわり・依存が強いジャンルほど、スポーツ用品店への市場ニーズは高い。EC全盛だが、実店舗とECサイト双方を有し“スポーツをもっと身近に”をパーパスに掲げ、全国約400店舗で900万人超の会員プログラムを持つアルペンにとってもデジタルの価値は大きい。」(アルペン蒲山氏)

「ネイティブアプリのスピード開発、運用、データ分析、アップデートがノーコードで自社でできるアプリプラットフォームが「Yappli」。年間200以上の製品アップデートをしており、最新の機能をすぐに使っていただける。アルペン様にも導入・活用いただいている」(ヤプリ伴氏)

「店舗の重要性の認識が高まり、都市型・体験型店舗の旗艦店として2022年4月新宿に10フロアに当社の3業態が入る『Alpen Tokyo』をオープンした。『SPORTS DEPO』の店内には、本物のマテリアルにこだわり、新国立競技場のトラック素材や新有明テニスの森のコート素材を使ったフロアがある。『GOLF 5』には最新型の弾道計測器を備える試打スペース、パター専用の試打スペースを用意している。 いずれも買い物自体を娯楽に昇華させることを目指している」(アルペン蒲山氏)

「店舗の提供価値とは、①圧倒的な品揃え、VMD(店内演出)による没入感 ②使用イメージの想起によるワクワク感×スタッフとの共感、スタッフの知見の共有 ③“試せる”ことによる納得感・安心感。店舗の販売が主力である当社がお客様に届けたい価値(=競合との主な差別化要素)は、あくまでも物理的な世界に存在する。その一方デジタルには“お客様と従業員双方のストレス(Pain-point)を極限まで軽減する”という大きなメリットがある。例えば、デジタル利用により、お客様は情報収集や持ち帰りの面倒臭さが、従業員は事務処理による時間のロスや売り場整備の作業時間が軽減される」(アルペン蒲山氏)

対談資料

「それはDX活用の好例ですね。お客さまの手間を省き、店舗スタッフが接客など“人しか出来ない”業務に集中できる。OMO※を実行し、顧客のデジタル体験とリアル店舗での体験をつなげて価値を高めることは有用であり素晴らしい」(ヤプリ伴氏)

※OMO=Online Merges with Offlineオンラインとオフラインの併合・融合

「お客さま対応では“OMOの具現化”がテーマ。例えば店舗で注文・決済し、(店からではなく)倉庫からご自宅へ直送する。商品探し~商品が自宅に置かれるまでのあらゆる購買行動に店舗or ECという選択肢を持たせる。従業員対応では、“内製化&クラウド化”がテーマになる。例えば、クラウドで統合管理したデジタルサイネージによって売り場演出の可変性を促進する。仕組み化にかかる時間を最大限短縮し、ITが足かせから加速装置に変化する」(アルペン蒲山氏)

蒲山さん

「大きく高価な買い物は“失敗したくない”もの。旗艦店のテント試し張りスペースは大好評で、常に人だかりで行列が出来ていた。他人に見られるのは恥ずかしい、長時間待ちたくない……というストレスを覚えるお客さまもいるので、アウトドアチェアの座り心地を確認しながら3つのスクリーンでテント張りの動画が見られるスペースを設けたり、LINEの待ち時間通知システムを導入して待ち時間に別フロアでのお買い物を楽しんで頂きストレス軽減を図った。これらはまさに顧客接点のデジタル化により実店舗の新たな価値を創造した事例だ。」(アルペン蒲山氏)


■特別講演

ファンケルらしいOMO推進による体験価値の最大化

佐藤様

〇株式会社ファンケル 上席執行役員 店舗営業本部 本部長
佐藤 由奈氏
1970年、鹿児島県生まれ。Kendriya Hindi Sansthan(インド留学)を経て、95年、東京外国語大学卒業。同年 ファンケル入社、化粧品商品企画、事業企画・営業企画・店舗管理に従事。化粧品商品企画部 部長、顧客接点推進部 部長を歴任後、2013年 執行役員、20年に上席執行役員 化粧品事業本部 本部長に就任。22年1月より上席執行役員 店舗営業本部 本部長(現任)。プライベートでは3人の男の子の母、趣味は現代アート鑑賞、エイサー。

◎ファンケルについて
化粧品や健康食品を製造販売するファンケルが「どうやって “ファン化”の取り組みをしているか」をお話したい。創業の原点は“化粧品の不の解消”。1970年代に化粧品の皮膚アレルギー問題が起こり、1980年代にアレルギーを起こす可能性がある成分について、製品への表示が義務づけられた。当社は「キレイにするための化粧品がキレイの妨げになってはいけない」という創業者の思い入れのもと、82年に無添加化粧品を発売した。

創業理念は「正義感を持って世の中の『不』を解消しよう」。経営理念は「もっと何かできるはず」。これらは従業員に広く深く浸透し、現在の活動につながっている。当社の強みは、研究・企画⇒製造⇒販売⇒研究・企画~という、お客さまの声を新たな製品開発につなげる循環型製版一貫体制だ。いつでも、誰でも、どこでも手にしていただけるよう、原点である通販や直営店舗、流通(ドラッグストア・コンビニなど)のマルチチャネルで販売を行っている。

もう一つの強みがファンケルらしいOMO(Online Merges with Offline)だ。通販200万人、店舗100万人のデータを活用し、メンバーズアプリでつなぐお買い物&様々な体験・情報コンテンツを持っている。またSDGsにも真摯に取り組み、例えば店舗関連では特例子会社との協業で容器の回収・洗浄をする、段ボール什器を採用する、といった事例がある。

◎ファンケルの店舗について
 店舗チャネルは1995年にオープン以来、現在全国に198あり、商業施設の顧客特性に合わせて「FANCLショップ」「FANCL New me」など、業態を変えて展開している。店頭での顧客体験やスタッフの接客体験はリアル店舗の最大の強み。コロナ禍で2020年3月以降多くの店舗が休業したが、店舗会員アプリでのECサイト(通販)案内により、直営店舗の顧客で通販を始めて利用した新規顧客は、20年4月~6月の第1四半期では前年同期の6.5倍に増加した。

 コロナ禍での店舗においては、AIパーソナル肌分析など“非接触で完結”できる、体験メニューを拡充。ライブショッピング/オンラインカウンセリング/オンラインイベント/スタッフブログなどOMO施策を推進した。また、原点回帰=リアルな絆作りも行った。接客データをシステムで一元管理・全店共通化し、手書きのお手紙を送付したりしてコミュニケーションを図った。

画像9

その結果として来店促進にもつながった。自社調査のNPS(Net Promoter Score)調査では、やはり店舗利用のほうがロイヤルティがかなり高いことが分かった。改めて店舗や店舗スタッフの役割は何なのか、を再定義して進化していく必要があると考えた。

◎ファンケルらしい新たな取り組み
店舗は、ファンケルブランドの世界観を体験・体感する場所=「ファン作りの場」である、と改めて定義づけた。お客さまとショップスタッフの共感が“絆”を深める。体験強化のための機器として、「カロリーバランスナビ」や日本初の「AIパーソナル角層解析」などを店舗に導入。店内イベントも充実させる。個店ごとに地域のお客さまニーズに合わせたイベントを定期的に開催し、美容と健康軸からの顧客アプローチを行っている。

体験強化

体験・接客を通じて顧客との接点を増やした効果は現れている。店舗での体験機器利用ユーザーは継続率が7%アップ、化粧品・サプリ併用提案(内外美容提案)を受け入れたユーザーは継続率が20%アップした。なお、接客力強化のために店頭の各種デジタル機器を一つのタブレットに集約。一人一台提供することで、接客・販売・教育・業務の効率化とコスト削減も実現していく。

OMO強化施策として、2021年10月に店舗・通販でそれぞれ展開していたアプリを統合。通販・店舗の垣根をなくし、ファンケルらしいOMOの本格展開に取り組んでいる。当社の通販・店舗併用の顧客は、継続率・LTV(Life Time Value)が高い。継続率は1チャネル利用ユーザー比で約1.5倍、年間購入金額は3倍である。今後は通販と店舗の相互送客の取り組みをさらに強化。「足を止めたくなる」「足を運びたくなる」「伝えたくなる」──お客さまが主語の“したくなる”コミュニケーションを人とデジタルを融合させて展開していく。

ファンケルの店舗のコンセプトは「Be honest.肌とからだ、こころがいちばん私らしくなれる場所。」五感を通じたリアルな体験で、気づきやワクワクをファンケルのある暮らし、ファンケルのある未来にもたらしたい。共感で広がるファン作りを行っていきたい。

2022年8月29日(月) オンラインにて開催・配信

ここから先は

0字
noteで展開する「文藝春秋digital」は2023年5月末に終了します。同じ記事は、新サービス「文藝春秋 電子版」でお読みいただけます。新規登録なら「月あたり450円」から。詳しくはこちら→ https://bunshun.jp/bungeishunju

文藝春秋digital

¥900 / 月

月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に配信。月額900円。(「文藝春秋digital」は2023年5月末に終了します。今後は、新規登録なら「…

「文藝春秋digital」は2023年5月末に終了しました。今後は「文藝春秋 電子版」https://bunshun.jp/bungeishunju をご利用ください