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藤原正彦 誇りもってこそ 古風堂々44

文・藤原正彦(作家・数学者)

 アメリカの大学にいた一九七〇年代、ユダヤ系学生の成績が際立ってよかった。彼らに、「ユダヤ系は他民族に比べ優れていると思うかい」と聞いてみた。そのたびに強く否定された。「長い迫害の歴史の中で、土地の所有さえ禁じられ、財産を没収などされてきたから、決して奪われることのない知識を獲得しようとしました。だから親は子供にボロを着せても一冊でも多くの本を与えようとします。ユダヤ系が優れて見えるのは、知能の差ではなく教育のためです」。帰国後数年して東京で会ったユダヤ系のコロンビア大学教授夫妻にもそんなことを話し、「アホなユダヤ系に会ってみたい」と付け加えた。文化人類学専攻の教授は、「あー、それならうちの庭師をはじめいくらでもいるよ。ニューヨークへ来てくれ、百人でも千人でも連れて来てやる」と言って夫妻で大笑いした。この時から家族ぐるみの付き合いとなった。

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