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文藝春秋digital

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#巻頭随筆

文藝春秋digital読者の皆さまへ、編集長より最後のお願い【「文藝春秋 電子版」1年無料プランのご案内】《このキャンペーンは終了しました》

5月31日、「文藝春秋digital」はクローズいたします。 これまで「文藝春秋digital」をご愛読いただきまして、誠にありがとうございました。 先にもお知らせした通り、月刊文藝春秋のサブスクリプションは「文藝春秋 電子版」に一本化します。これまで「文藝春秋digital」をご愛読いただいた皆さまには、突然のお知らせになったことを、改めてお詫び申し上げます。 「文藝春秋digital」のサービスが終了しますと、6月から皆さまに最新記事をお届けできなくなってしまいます

塩野七生 帰国中に感じたこと 日本人へ237

 平和が人類にとって最高の目標でありつづけているのは、平和だけが庶民にとって、身の安全を保障してくれる唯一の道だからである。この平和が、プーチンによって破られた。それに刺激されてか、世界中で腕力が幅を利かせ始めたよう。となると、一私人にやれることは、今の自分でも可能なこと、だけになる。というわけで、歌舞伎座で始まったばかりの団十郎襲名披露公演を観に行ったのだった。

「文藝春秋」はなぜ売れたか 門井慶喜

 ご覧のとおり、この雑誌のこのページは四段組である。100年前の創刊時からそうだった。創刊号の劈頭(へきとう)には芥川龍之介の「侏儒の言葉」を掲げたというのはいかにも権威がありそうだけれど、あとの執筆者はほとんどが無名の若者で、全体が28ページしかなく、すべておなじレイアウト、しかも内容は文壇の内輪話ばかりだった。

ディランの不思議 佐藤良明

 ボブ・ディランがやってきて、大阪、東京、名古屋で11回のステージをこなして帰って行った。半世紀前の目で見ると、SFでしかないようなことが、2023年の現実になっている。アメリカのポップ文化を研究してきた自分にとっても、不思議である。 「なぜ、これほど多くの人びとが魅了され、いまなお求められ続けているのか?」と若い編集者氏に尋ねられた。まあ、それが「レジェンド」というものなのだろうが、それにしても、あの無愛想と、ますますのしゃがれ声で、価値がすり減ることはないのか?

宇宙開発の危機を乗り越える 水野倫之

 これまで20年以上にわたり日本の宇宙開発を取材してきたが、いまほど危機的な状況は経験がない。今年3月、新型の大型ロケットH3初号機が打ち上げに失敗。半年前には小型のイプシロンロケットも失敗しており、大型、小型ともに信頼性が失われた。影響は現行のロケットにも及ぶ。H2AはH3と共通の機器を搭載するため、当面の運用停止が決定した。つまり、日本ではいま、すべての主力ロケットの運用が見通せず、衛星を打ち上げられない国となっているわけだ。もちろん過去にも失敗が続いたことはある。しかし

私が見たWBCチェコ代表 田久保賢植

 日本の優勝で幕を閉じたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。一次ラウンドで対戦したチェコ共和国の代表選手たちも、その勝利を喜んでいます。  この大会で私は、チェコ代表の移動の手配から食事の注文、練習試合の設定まで、英語でコミュニケーションしながらサポートしました。プロ野球選手を目指していた私は、アメリカや日本の独立リーグなどを経て、11年前にチェコのチームでプレーした経験があります。今回の代表チームには当時のチームメイトや、ユース時代に指導した選手が何人もいたので

高島俊男先生の顕彰碑 井上恒

 1995年から11年にわたって、週刊文春に連載されていた「お言葉ですが…」というコラムがありました。 「名前」の前は何の前? など、日本語をテーマにユーモラスな文章で縦横無尽。その一方、木鐸たるべき識者やマスコミの誤った言葉づかいには、容赦なく筆誅を加える。

『日本沈没』と関東大震災 小松実盛

『日本沈没』は1973年3月に光文社カッパ・ノベルスからリリースされた長編書下ろし小説であり、今年、50周年を迎えました。

韓国のMZ世代が見る日本 李昌玟

 2004年、私は初めて日本を訪れた。その頃、NHKで韓国ドラマ『冬のソナタ』が放送されていたが、主人公たちが日本語を話す(吹き替え)シーンに違和感を覚えつつも、不思議な安堵感を抱いた。公共放送で韓国ドラマを放送するほどならば、少なくとも街で「朝鮮人」と呼ばれて暴力を振るわれることはないだろうと思ったのだ。

沈みゆく島で詩を唄う キャシー・ジェトニル=キジナー

 日本のみなさん、はじめまして。私はマーシャル諸島出身の詩人です。2014年、国連気候変動サミットでの詩の朗読をきっかけに、環境問題への発信を続けています。

もう一度、葛西さんに会いたい 屋山太郎

 表題に付けようと色んな文句を思い浮かべたが「もう一度、葛西さんに会いたい」という言葉しか浮かんで来ない。私はジャーナリストという職業柄、良い友人、面白い友人と数多く付き合って来たが、昨年5月に亡くなったJR東海の元会長、葛西敬之さんは、私にとっては「師」と呼んで相応しい。国鉄分割民営化を断行した時に“同志”として知り合ったが、この友人は他の良き友人とは全く違った。

名将の若き日 越智光夫

 昨年のFIFAワールドカップ予戦リーグ、日本対スペイン戦直前にスポーツジャーナリストの二宮清純さんからメールが届いた。「勝てば森保一監督は世界の名将ですね」。思わず頷いた。愛媛の同郷である二宮さんは広島大学の特別招聘教授で毎年、新入生に講義をお願いしている。  ご存じのように、ドイツに続いてスペインを撃破。森保采配が一躍注目された。「サラリーマン監督のようだ」と揶揄された、試合中にメモを取るおなじみの仕草や、指笛を鳴らすスタイルも、一戦ごとに貫禄を増し、今や世界のマスコミ

高倉健の最期を綴って 小田貴月

 2023年3月9日、早朝。家から遠く、微かに鳴いている鶯の声で目が覚めました。まだ、ホケキョと鳴けてもいないけれど、幼鳥が発する澄んだ鳴き声は、与えられた生を素直に受け入れているエネルギーに満ちています。昨年より1週間早い、幸福感に満ちた春の寿ぎでした。  こんな日には、今は亡き、あの人の声を思い出します。

トキワ荘の「紅一点」と言われて 水野英子

 漫画家としてデビューしたばかりの私が、東京都豊島区にあるアパート・トキワ荘の住人になったのは昭和33年。18歳のときだった。すでにトキワ荘に住んでいた、同じく漫画家の石森章太郎さん、赤塚不二夫さんと「U・マイア」というペンネームで合作を始めるためだ。