西川美和 ハコウマに乗って13 めぐるあのはる
めぐるあのはる11年前の震災の時、私は実家のある広島に長逗留して小説を執筆していた。東京のアパートは食器が割れたり本棚が倒れたりとそれなりに散らかったが、本震の揺れと恐怖は体験していない。それは本来幸運なことなのだけど、帰宅難民になったりインフラの麻痺や原発爆発の渦中にある人々に比べて自分は、1人だけずるをして得しているような後ろめたさを感じていた。混乱と不安の渦巻く東京に帰る必要などないのに、帰らねばならないのではないか? と焦燥を募らせた。物書きとしてのジャーナリズム精神