文藝春秋digital

武田徹の新書時評|膠着語の新語・造語文化

武田徹の新書時評|膠着語の新語・造語文化

評論家・専修大学教授の武田徹さんが、オススメの新書3冊を紹介します 膠着語の新語・造語文化 外国人力士が増えている相撲界で、難なく日本語を操るモンゴル勢の姿を見て不思議に感じたことはないだろうか。 英語のようにI、My、Meと格変化したり、単複でI、Weと単語自体が姿を変える(屈折させる)インド・ヨーロッパ語族の言語を「屈折語」と呼ぶ。それに対して「私」という単語はそのままに「は」「の」「に」「たち」と語尾をくっつける日本語のような言語は「膠着語」と呼ばれ、フィンランド、

8
武田徹の新書時評|異形の怪物の歴史

武田徹の新書時評|異形の怪物の歴史

評論家・専修大学教授の武田徹さんが、オススメの新書3冊を紹介します。 異形の怪物の歴史 サブカルに疎い人でもシリーズ完結作となる新作『シン・エヴァンゲリオン劇場版 :||』が公開され、話題を呼んでいる程度は知っているだろう。1995年にTVアニメとして最初の“エヴァ”が始まった時、敵キャラの“分かりにくさ”が鮮烈な印象を残した。それまでの特撮やアニメに登場する敵は人間と似た姿で、宇宙から来たはずなのに日本語を話したりするが、エヴァでは意志の有無どころか生物かどうかも不明な、

6
武田徹の新書時評| “人間という管”の入口と出口

武田徹の新書時評| “人間という管”の入口と出口

評論家・専修大学教授の武田徹さんが、オススメの新書3冊を紹介します。  “人間という管”の入口と出口  「人間は、しょせん一本の管である」と書いたのはエッセイストの山口瞳だった。確かにいかに金持ちでも才人でも食べては排泄を繰り返す“食物の通り道”として一生を終えることに変わりはない。 しかし、その“管”は実はなかなかのものらしい。辨野義己『「腸内細菌」が健康寿命を決める』(インターナショナル新書)によれば、腸内では1000種類にも及ぶ細菌が活動し、消化吸収を助けるだけでな

5
武田徹の新書時評|戦後民主主義と今日の民主主義

武田徹の新書時評|戦後民主主義と今日の民主主義

評論家・専修大学教授の武田徹さんが、オススメの新書3冊を紹介します。 戦後民主主義と今日の民主主義 次々に難題に見舞われる日本社会では過去が刻々と風化してゆく。たとえば安保関連法制反対デモが国会前で展開された2015年、学生集団SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)が注目された記憶も既に薄れがちだ。 政治団体に所属する学生から既存勢力とは無関係に貧困や性暴力問題の解決を目指す学生まで偏りなく取り上げた小林哲夫『平成・令和 学生たちの社会運動』(光文社新書)の

5
武田徹の新書時評|専門家に委ねてはならない「原子力」

武田徹の新書時評|専門家に委ねてはならない「原子力」

評論家・専修大学教授の武田徹さんが、オススメの新書3冊を紹介します。 専門家に委ねてはならない「原子力」 菅義偉首相は就任後の所信表明演説で2050年までに脱炭素社会を目指すと述べた。気になるのは実現の方法だ。経済活動の規模を維持しつつ炭素排出量を大幅に減らすには原発の利用が現状では有力な選択肢とならざるをえないが、東日本大震災後、原発に関しては賛否が厳しく対立している。政府は原子力をどう使うつもりなのか。その利用範囲を軍事にまで広げる野心がもしあれば話は安全保障にも及ん

3
武田徹の新書時評|音楽と社会のあり方を考える

武田徹の新書時評|音楽と社会のあり方を考える

評論家・専修大学教授の武田徹さんが、オススメの新書3冊を紹介します。 2020年はベートーヴェン生誕250年に当たり、新書でも関連書が揃った。 中野雄『ベートーヴェン』(文春新書)は罵声と殴打で息子を鍛えた父など家族の紹介から始まり、名曲『英雄』『運命』も初演では失敗続きだった天才音楽家の多難な人生を辿る。モーツァルトとのニアミスや聴覚障害についてのエピソードも興味深い。 浦久俊彦『ベートーヴェンと日本人』(新潮新書)は日本独特のベートーヴェン受容がテーマだ。音楽取調所

8
武田徹の新書時評|過渡期にあるアメリカ

武田徹の新書時評|過渡期にあるアメリカ

評論家・専修大学教授の武田徹さんが、オススメの新書3冊を紹介します。 この稿が読まれる時には第46代米国大統領が決まっているはずだ。だが、現職トランプ勝利で更に加速度をつけるか、民主党が政権奪還して別方向に切ろうとする舵に抵抗する惰性として残るかの違いこそあれ、米国の現勢がその未来に影響を及ぼすことはまちがいない。そこで今回は大統領選後の米国を考えるうえで役立つ、アメリカの現在を確かに描き出す新書3冊を選んでみた。 渡辺靖『白人ナショナリズム』(中公新書)はトランプ政権の

4
武田徹の新書時評|コロナが浮き彫りにした「東京問題」

武田徹の新書時評|コロナが浮き彫りにした「東京問題」

評論家・専修大学教授の武田徹さんが、オススメの新書3冊を紹介します。 あれは東京問題――、菅義偉首相は官房長官時代に東京都の新型コロナウイルス感染者急増について、23区の保健所を制御できない都庁の問題だと突き放すように述べた。ただ、都の肩を持つわけではないが、人口が集中し、通勤・通学などの移動の機会が多い東京には感染症が広がりやすい条件がそもそも揃っていることは確かだろう。 そんな過密都市・東京は一朝一夕に作られたわけではない。秋山武雄『東京レトロ写真帖』(中公新書ラクレ

5
武田徹の新書時評――宇宙の広大さと人間の小ささ

武田徹の新書時評――宇宙の広大さと人間の小ささ

評論家・専修大学教授の武田徹さんが、オススメの新書3冊を紹介します。  地平線から上る満月は眼の錯覚もあって巨大に見え、月という天体本来の球形に近く感じられる。思わず見惚れてしまった経験のある人も多いだろう。  そんな月は佐伯和人『月はすごい』(中公新書)によれば可能性の宝庫だという。まず地球に殆ど存在しない鉱物資源が豊富だ。太陽光が一切射さない月面の「永久影」の中は極低温となるので超伝導(電気抵抗がゼロになる)が容易に実現し、地球ではありえない電力の利用法が可能となる等

武田徹の新書時評――地方活性化の方法

武田徹の新書時評――地方活性化の方法

評論家・専修大学教授の武田徹さんが、オススメの新書3冊を紹介します。  先月、大型の台風19号が関東地方に上陸し、東北へと抜けた。被害は東京よりも地方の方が甚大で、これもまた“一極集中”の裏返しの現象なのだろう。都内は治水対策などに予算を割けるが、人口減、税収減に喘ぐ地方は災害から身を守る余裕すら失いつつあるのだ。  そんな地方をいかに逆境から救い出すか。佐々木信夫『この国のたたみ方』(新潮新書)は東京人口の2割“減反”を訴える。しかし東京から地方への人口移動を強制するわ

3