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本上まなみさんが今月買った10冊の本

本上まなみさんが今月買った10冊の本

大切な“日常” 『グレゴワールと老書店主』は老人介護施設で働く18歳の青年グレゴワールが主人公。入居者の元へ配膳をする仕事中、3000冊もの蔵書に囲まれて暮らす老書店主と出会います。 母子家庭育ち、読書の習慣などなかった青年は、視力の衰えで読書が叶わなくなったという店主の話を聞き、朗読役を買って出ることに。 著者は朗読家で、本書が作家デビュー作とのこと。朗読作品の選び方、聞き手との距離の置き方や、文学を声で表現する極意を、老書店主に豊かに語らせるのです。〈人前で本を読むの

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手嶋龍一さんが今月買った10冊の本

手嶋龍一さんが今月買った10冊の本

量子暗号が世界を支配する われわれの頭上に「墨子」がいて、情報世界の覇者として君臨している――その事実をどれだけのひとが知っているだろう。2016年8月、中国は量子科学衛星「墨子」を世界に先駆けて打ち上げた。最先端の量子暗号システムを備えて盗聴・傍受を封じ、軍事・金融分野での極秘通信を可能とした。まさしく「21世紀のスプートニク・ショック」だった。冷戦期に人工衛星の打ち上げでソ連に先んじられたアメリカは直ちに反転攻勢に出た。だが「トランプのアメリカ」は手を拱いて中国の独走を

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森絵都さんが今月買った10冊の本

森絵都さんが今月買った10冊の本

語られない記憶 時々、飲み会の席などで「自分の人生は小説になる。ネタにしてもいいよ」みたいなことを言われることがあるけれど、今のところネタにさせてもらったことはない。真なる小説の種は、人々が秘して語らない記憶の中にこそ潜んでいる気がする。 長編小説『十の輪をくぐる』は、病を機に意識が朧になった母・万津子がひた隠しにしてきた過去を、58歳の息子・泰介が追う話だ。万津子の呟き「私は……東洋の魔女」は何を意味しているのか。若くして夫を亡くした彼女は、2人の幼子を抱えた身でなぜ寄

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橘玲さんが今月買った10冊の本

橘玲さんが今月買った10冊の本

事実と虚構の間 連邦議会議事堂を占拠した熱烈なトランプ支持者のなかには、「ディープステイト(闇の政府)」がアメリカ社会を支配しているという陰謀論を信じる「Qアノン」なるグループがいるという。『エデュケーション』は、連邦政府が秘密結社に支配されているばかりか、いままさに大災厄によって世界の終わりが訪れると信じるモルモン教の原理主義者(サバイバリスト)の家庭に生まれた女性の物語。行政を拒否する父親によって高校までいちども学校に通えなかった著者は、自らの意志で大検を受けて大学に入

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本上まなみさんが今月買った10冊の本

本上まなみさんが今月買った10冊の本

冬の楽しみ 『フジモトマサル傑作集』に、私はこの冬どれだけ楽しませてもらったことだろう。安全安心な自宅のソファで毛布にくるまり、どこに行かなくても、夜道を濡らす雨の匂いを嗅いだり、凪の海で小舟に揺られているような気持ちになれるのです。 漫画家、イラストレーターの故フジモトさんが描いたのは、ひょうひょうとしていて、どこかわがままそうで、ちょっととぼけた愛らしい動物たち。不思議なのはレッサーパンダも猫もウサギも、人間と対等にそこに「いる」こと。2羽のカラスがクロスのかかったテ

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手嶋龍一さんが今月買った本10冊の本

手嶋龍一さんが今月買った本10冊の本

トランプ治世への警告 本稿が刷りあがる頃には、米大統領選挙の結果が判明しているはずだ。だが開票を巡って訴訟合戦となり混乱に陥っているかも知れない。たとえどんな結果になろうと、トランプが米国の民主制に負わせた傷は深く、容易には癒えないだろう。異形の大統領は、「ジャスティス」の旗を掲げて建国されたこの国の威信を粉々に打ち砕いてしまったのである。

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橘玲さんが今月買った10冊の本

橘玲さんが今月買った10冊の本

米国の分断 黒人男性の死をきっかけにアメリカ各地で抗議行動の嵐が吹き荒れたが、感染症はそれ以前から進んでいたアメリカ社会の分断と混乱を顕在化させたにすぎない。それは世界の(そして日本の)明日の姿でもある。 アメリカにはヘロイン乱用者が100万人、鎮痛剤として処方されたオピオイドの乱用者が1000万人もいる。にわかには信じがたい数字だが、そもそもなぜ医師が処方する鎮痛薬でこんなことになるのか? それを地元のジャーナリストが追ったのが『DOPESICK』。製薬会社・医療業界の

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森絵都さんが今月買った10冊の本

森絵都さんが今月買った10冊の本

「自由」の概念 マスクを巡る論争が続いているけれど、欧米の各地で「マスクをしない自由」を訴えるデモが起こるたび、正直、私は不思議に思っていた。たかがマスクなのに、と。あんなに小さくて薄っぺらいものに拳をふりあげて断固拒否するほどの「不自由」がついてまわるのだろうかと疑問だった。 ノンフィクション本『戦争の歌がきこえる』は、そんな折、私に新しい視座を与えてくれた一冊だ。音楽療法士の著者が米国での体験を元に綴った本書の第一章にはこんな一文がある。〈言論の自由、報道の自由、集会

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橘玲さんが今月買った10冊の本

橘玲さんが今月買った10冊の本

快感は論理に  20世紀の科学の最大のパラダイム転換のひとつが、進化論で起きたことは疑いない。DNAの二重らせんの謎が解かれ、生き物の生存・生殖戦略がアルゴリズムとして記述できるようになったことで、生物学は根本的に書き換えられた。  これを人間に拡張すると、私たちのよろこびやかなしみ、愛や憎悪も「利己的な遺伝子」が自己の複製を最大化するための戦略になる。こうして1970年代後半に、アメリカで「社会生物学論争」が勃発した。  ところが日本のアカデミズムは、この重大な出来事

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本上まなみさんが今月買った10冊の本は?

本上まなみさんが今月買った10冊の本は?

寛容な空気の中で 『仲野教授のそろそろ大阪の話をしよう』はヒョウ柄に金の箔押し(題名めちゃ読みにくい)、書店でもダントツの濃ゆーい目立ち方をしていました。そう、近鉄の「いてまえ打線」って感じ。「やっちまえ」みたいな意味ですけどね、いいね。カバーを取ると本体はゼブラ柄だし、中身は濃い人ばっかり出てくるぎゅっと詰まった336ページ。大阪文化への愛溢れる、どこから読んでも惜しみなく笑わせてくれる対談集です。  対談相手の1人、3歳からおばちゃんだったという「全日本おばちゃん党」

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