文藝春秋digital

模倣という独創|藤原正彦「古風堂々」

文・藤原正彦(作家・数学者) アメリカの大学へ息子を留学させている友人の話だが、歴史の授業で教授が「日本は模倣で発展した」と言ったらしい。明治以来よく言われてきたことだ。言うのは無論欧米人だが、受け売りする日本人も多い。この教授はアメリカこそが模倣で発展してきたことを忘れているら…

目覚めた美声|藤原正彦「古風堂々」

文・藤原正彦(作家・数学者) 小学6年生の時、合唱コンクールに向けた学校代表の合唱団に選ばれた。6人に1人の狭き門に私が入ったので、級友は驚き私も驚いた。誰より甲高い早口の私は低い声がまったく出ず、歌とは無縁だったからである。父はよく風呂で抑留生活を思い出しながら「異国の丘」を歌っ…

内モンゴルが危ない|藤原正彦「古風堂々」

文・藤原正彦(作家・数学者) モンゴル草原はゴビ砂漠で南北に二分され、北は外モンゴル、南は内モンゴルと呼ばれる。17世紀末にはともに清国の支配下となったが、外モンゴルはソ連の衛星国ながら1924年にモンゴル人民共和国として独立した。冷戦終了後には現在の民主主義国、モンゴル国となった。 …

レッテルのぐらつき|藤原正彦「古風堂々」

文・藤原正彦(作家・数学者) 人間は思考を整理したい動物である。森羅万象が混沌としたままでは、脳が負担に耐えられないから、似通ったものを一まとめにして言語で表したり、思考の節約のため共通する属性にレッテルを貼ったりする。アインシュタインもフロイトもマルクスもユダヤ人だし、世界の人…

ファンレターへの回答|藤原正彦「古風堂々」

文・藤原正彦(作家・数学者) 時折、ファンレターをいただく。デビュー作の『若き数学者のアメリカ』の頃は、ほとんどが私の強烈な魅力に打ちのめされた若い女性からの熱い手紙だった。今は大半が私の真価を評価する、知的に成熟した年配者からのものである。 実は、ファンレターなら私も書いたこと…

嘘つき文化|藤原正彦「古風堂々」

文・藤原正彦(作家・数学者) ある中国人は「私は家でも学校でも、嘘をつくなと言われたことがない。嘘をついて怒られたこともない」と言った。「嘘つきは泥棒の始まり」と親から言われる日本人とは大分違う。別の中国人は、「子供の頃から、外出する時には親に『騙されないようにね』とよく声をかけ…

記憶の余得|藤原正彦「古風堂々」

文・藤原正彦(作家・数学者) 幼い頃から悪戯で親に心配ばかりかけたが、記憶力だけはよかった。5歳の時には九九を、6歳までには世界各国の首都から将棋、囲碁、麻雀まで覚えてしまった。勢いは中学校でも衰えず3年間で英単語6000以上、独仏語では基本文法に加えそれぞれ1000以上の単語を覚え今も覚…

格言あれこれ|藤原正彦「古風堂々」

文・藤原正彦(作家・数学者) 2月以来、世界はコロナ一色と化した。スポーツも芸術も街の賑わいもなくなり、精気を失った世界は白黒映画のようだ。この中で日頃、数多い友達との他愛ないおしゃべり、コンサート、映画、美術展、テニス、ゴルフ、登山などにうつつを抜かしていた女房は、暗さ何するも…

どちらが恐い|藤原正彦「古風堂々」

文・藤原正彦(作家・数学者) 私にとってコロナとは、小学校3年生の時に、父に連れられて行った東京天文台で見た、太陽の周りで輝く散乱光であった。父の旧制中学以来の友人である古畑正秋先生が、黒点やコロナを見せてくれたのである。コロナが100万度もあると聞いて驚いたのを覚えている。それが今…

藤原正彦「古風堂々」  一杯一杯

文・藤原正彦(作家・数学者) 女房は高校生の頃、理系に行こうか文系に行こうか悩みに悩んだという。数学と英語が好きだから理系かといえば物理、化学が嫌い、文系かというと日本史、世界史といった暗記科目が嫌いだったらしい。最も得意だったのは5歳から続けてきたピアノで、小さなコンクールに出…