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藤原正彦 線路は続くよ 古風堂々30

藤原正彦 線路は続くよ 古風堂々30

文・藤原正彦(作家・数学者) 1年半のコロナ禍を経て、人に会えないことがいかに辛いか、人と会って話すことこそが元気の源であることを思い知った者は多くいるだろう。私なども、長きにわたって築いてきた内密親密濃密な関係の女性達と、ソーシャル・ディスタンス保持不能のため、1年半も会えずすっかり参っている。もう私のことなどすっかり忘れているかも知れない、と考えると目の前が真っ暗になる。 子供や孫と会うのさえ最小限に抑えてきたが、私達夫婦がワクチン接種を終えたこの夏、藤原家全員集合を

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藤原正彦 そして何より言葉 古風堂々29

藤原正彦 そして何より言葉 古風堂々29

文・藤原正彦(作家・数学者) アメリカにいた頃、数学科だけでなく他学科を教えることもあった。ビジネス専攻1年生を担当したこともある。皆のいやがる授業だったが、同僚の一人が「秘書になりたい可愛い娘がいっぱいいる」、と言ったので即座に引き受けたのだ。その通りだったが、1/2+1/3を計算できない者がいたのには閉口した。 そんな学生でも、地図上で日本とフィリピンを間違えるようなハイティーンの小娘でも、議論になると滅法強い。筋道を立てて話すし、相手の弱点をつくのも巧い。私が何かユ

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藤原正彦 揉み手して 古風堂々28

藤原正彦 揉み手して 古風堂々28

文・藤原正彦(作家・数学者) 新型コロナに対する国産ワクチンはなく、政府の不手際で輸入もままならぬため、感染者数は激増し第5波に突入した。無理を通して開いた東京オリンピックも無観客という未曽有の事態となった。テレビ観戦では外国でやっているのと変らない。知人の医学部教授でアメリカ帰りの男が数年前に言った言葉を思い出した。「手術の巧さは日本の方が上だが、薬はアメリカに負けている」。日本人の手術の巧さはアメリカで通った床屋や歯医者の指先の頼りなさから想像できたが、製薬で負けている

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藤原正彦「古風堂々」|だまされる数学者

藤原正彦「古風堂々」|だまされる数学者

文・藤原正彦(作家・数学者) 世は新型コロナワクチンでもちきりである。中国が有効率78%と喧伝したシノファームやシノバックを接種し、接種率5割を超したモルジブ、バーレーン、チリ、ウルグアイなどでは今も感染の勢いが止まらず、慌てて他のワクチンを打ち直している。中国の統計がほぼ全て虚偽ということを知らなかったのか、知っていても他のものを買う経済力がなかったのだろう。 虚偽は論外だが、メディアや人々が統計数字を正しく理解しているとは限らない。コロナ騒ぎが始まってから連日連夜、感

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藤原正彦「古風堂々」|英国紳士の嗜

藤原正彦「古風堂々」|英国紳士の嗜

文・藤原正彦(作家・数学者) 我が家に来たクリスマスカードはしばらく応接間の棚に並べて飾ることにしている。アメリカ時代のガールフレンドからのものもいくつか混じるが、ピチピチギャルだった彼女達も今や60代ということで女房も気にしない。埋み火の熱さまでは思いが及ばないようでありがたい。これらカードは春に箱に入れてしまう。先日整理しようと読み返していたら、女房の友達ピーターからのものがあった。ケンブリッジ大出身のこのエレクトロニクス専門家は、毎年家族の消息を写真つきで伝えてくれる

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いまこそ内政干渉を|藤原正彦「古風堂々」

いまこそ内政干渉を|藤原正彦「古風堂々」

文・藤原正彦(作家・数学者) 先日、コロラド州ボールダーのスーパーで銃乱射があり10名死亡、とのニュースを見て思わず声を上げた。このキングスーパーズは私の住んでいたアパートからほど近い、何度か買物もしたことのある店で、世界的数学者シュミット教授のお宅にお招ばれの時は右折(ガールフレンドのジャンの所に行く時は左折)の目印としていた所でもある。 アメリカが銃乱射の国であることは半世紀も前に耳にしていた。渡米を控えた私に、ペンシルバニア大学数学教室での事件について恩師のⅠ先生が

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不思議な糸に導かれ|藤原正彦「古風堂々」

不思議な糸に導かれ|藤原正彦「古風堂々」

文・藤原正彦(作家・数学者) 小学校4年生の春、新しい図画工作の先生が着任した。強い天然パーマとギョロ目が特徴の、やせて颯爽とした27歳の美青年だった。3年生以上がこの先生に習うのだが、瞬く間に学校一の人気者となった。母親譲りの不器用で図工の成績はいつも5段階の2という私でさえ、週に1度、2階建て木造校舎の1階西端にあった図画工作室へ向かうのが楽しみだった。 話が抜群に面白かった。十八番は二等兵物語だった。終戦直前にしばらく陸軍にいた先生の、ユーモアたっぷりの語り口に私達

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虹とチャンバラ|「古風堂々」藤原正彦

虹とチャンバラ|「古風堂々」藤原正彦

文・藤原正彦(作家・数学者) 私の父は「中学校の初年級までは立川文庫で育てられた」、とよく言っていた。大正時代を通じ200冊以上も刊行されるほどよく読まれた文庫である。猿飛佐助、堀部安兵衛、真田幸村、宮本武蔵、荒木又右衛門……などがぐいぐいと人を魅きつける筆致で描かれている。田舎の祖父の本棚にあったこれらを、6年生の頃に数冊ほど読み、その面白さにとりつかれた私は、よく似た『講談全集』が発刊されたのを幸い、次々にむさぼり読んだ。面白さだけでなく、講談の根っ子には武勇、正義、惻

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隣人への想い|藤原正彦「古風堂々」

隣人への想い|藤原正彦「古風堂々」

文・藤原正彦(作家・数学者) 芭蕉の最晩年の句に、「秋深き隣は何をする人ぞ」というのがある。晩秋の夜、誰かも分からない隣の人に想いを馳せる、という人間的ぬくもりのこもった名句である。日本の生んだ大数学者の岡潔先生は、この句に表われた「自分以外のものへのそこはかとないなつかしさ」こそが西洋人と違う日本人の情緒であり、彼の創造した画期的な不定域イデアル理論はこの句そのもの、と仰った。 岡先生の深遠さには及ぶべくもないが、隣の人に想いを馳せることにかけては、私も人後に落ちない。

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模倣という独創|藤原正彦「古風堂々」

模倣という独創|藤原正彦「古風堂々」

文・藤原正彦(作家・数学者) アメリカの大学へ息子を留学させている友人の話だが、歴史の授業で教授が「日本は模倣で発展した」と言ったらしい。明治以来よく言われてきたことだ。言うのは無論欧米人だが、受け売りする日本人も多い。この教授はアメリカこそが模倣で発展してきたことを忘れているらしい。建国にあたり何もかもヨーロッパ、特に英国の模倣だった。1842年に訪米した英国のチャールズ・ディケンズは、価値ある英国書がほぼすべて海賊版として横行しているのに仰天したばかりか、それを当地で指

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