文藝春秋digital

楽しきフェミニズムはいかが?|塩野七生「日本人へ」

文・塩野七生(作家・在イタリア) 私はこれでも女だから、日本で言われている女性活躍推進には大賛成だが、安倍内閣では党約にもなっていたにもかかわらず、この素晴らしい考えは明らかな成果にはつながらないままで先細りになりそう。なぜか。 答えは簡単で、既得権者たち、つまり男たちが積極的に…

失言の効用|塩野七生「日本人へ」

文・塩野七生(作家・在イタリア) 安倍首相に代わるのは菅官房長官で決まりらしい、との情報は受けていたので菅氏の登場には驚かなかったが、新総理は誰を官房長官に指名するのかには関心を刺激された。首相にとっての官房長官くらい、重要な協力者もないのだから。それで想像を愉しむ気になったのだ…

老いて読む、『君たちはどう生きるか』|塩野七生「日本人へ」

文・塩野七生(作家・在イタリア) このコラムで、次に帰国したときは寺子屋をやってみたいと書いたのを読んだ人から、それならこんな感じですかと2冊の本が送られてきた。いずれも『君たちはどう生きるか』と題した2冊で、1冊は岩波刊行のワイド版文庫。つまり全部が活字。もう1冊はマガジンハウス刊…

壊れものにつきとりあつかい注意|塩野七生「日本人へ」

文・塩野七生(作家・在イタリア) 民主政(デモクラシー)とは、民主主義者を自認する人々によって壊されるもの、という想いをかみしめている今日この頃である。 第1は、私が住んでいるイタリアの現政府の、2年にわたっての迷走を見ながら。 第2は、そのイタリアも一員のEU全体の無機能を眺めなが…

私の「コロナ後」|塩野七生「日本人へ」

文・塩野七生(作家・在イタリア) 一応は落ちついた観のあるイタリアでも一応は押さえつけた観のある日本でも、「コロナ後」の社会について、かまびすしい議論が交わされるようになった。もはやデジタルでないと追いついていけないとか、テレビ会議やスマートワークが主流になるとか、コロナによる恐…

発信力を早期に向上させるには?|塩野七生「日本人へ」

文・塩野七生(作家・在イタリア) コロナ騒動のおかげかテレビも新聞も見るようになったのだが、日本の実情が海外に正確に伝わっていないことに、あらためて危機感を抱く今日この頃。日本への理解度が低下した、などという水準ではもはやない。政治・外交・軍事・経済の各方面で、実害をおよぼす怖れ…

塩野七生「コロナウイルス散見記」

文・塩野七生(作家・在イタリア) 4月12日、執筆中だった書き下ろしの550枚、脱稿。最後に「完」と書くときの気分は、50年が過ぎようとやはり格別。その後にいつもならば、「2020年・春、ローマにて」と書くのだが、今回は、「4月12日、コロナウイルスのおかげで外出厳禁中のローマにて」と書いた。…

コロナウイルス騒動 人(国)みな本性を現わす|塩野七生

「ギリシア人は神殿を建てるが、ローマ人は上下水道の完備のほうを優先する」とギリシア人自身が書いている。それゆえ古代のローマ人は、300年もの間、疫病に襲われなかった。キーワードは「清潔」だ。/文・塩野七生(作家・在イタリア) イタリアには2つの感染経路が 戒厳令ならば大雪か雲が厚く…

アパティアという名の先進国病|塩野七生「日本人へ」

文・塩野七生(作家・在イタリア)  外国語で「アパティア」と言われると何やら深遠な精神状態でもあるかのように聴こえるが、所詮は「無気力な状態」にすぎない。  アパティアとは「パトス」(情熱とか気概)を失った精神状態であり、どうせ何をやったって変わりませんよ、という想いが支配的にな…

塩野七生「日本人へ」 本を読んでいた政治家

塩野七生(作家・在イタリア)  中曽根康弘元首相に初めて会ったのは、30年以上も昔の話になる。その頃のある一日、後藤田官房長官へのインタビューで首相官邸にいた。鬼の、なんていう形容が嘘に思われるくらいに愉しいインタビューが終った後で、官房長官殿はまるで命令するように言った。「いるよ…