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文藝春秋digital

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文藝春秋digital読者の皆さまへ、編集長より最後のお願い【「文藝春秋 電子版」1年無料プランのご案内】《このキャンペーンは終了しました》

5月31日、「文藝春秋digital」はクローズいたします。 これまで「文藝春秋digital」をご愛読いただきまして、誠にありがとうございました。 先にもお知らせした通り、月刊文藝春秋のサブスクリプションは「文藝春秋 電子版」に一本化します。これまで「文藝春秋digital」をご愛読いただいた皆さまには、突然のお知らせになったことを、改めてお詫び申し上げます。 「文藝春秋digital」のサービスが終了しますと、6月から皆さまに最新記事をお届けできなくなってしまいます

「語学の天才まで1億光年」著者・高野秀行インタビュー

「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをし、誰も書かない本を書く」とのポリシーを掲げ、謎の国・ソマリランドに潜入したり、アジアやアフリカ各地の納豆を調査したりと、辺境地を旅してきた高野秀行氏。取材先へ向かう前に必ずその地域の言語を学ぶというが、これまで学んだ言語は25以上にも及ぶ。本書は、そんな著者の数々の言語体験をまとめた一冊だ。 「最も思い出深いのは、大学時代のアフリカ・コンゴへの探検です。コンゴの公用語はフランス語ですが、それに加えて、共通語であるリンガラ語も事

本上まなみ 今月買った本 親心に寄り添う一冊

親心に寄り添う一冊6時過ぎ。弁当を作り朝ごはんを準備するのが日課です。髪の毛を念入りに整える娘と、目やにをつけたままマンガを読む息子に「早く」「急いで」「まじで」「何してるの」「コラ」と言うのがルーティーン。 『一緒に生きる 親子の風景』は、切羽詰まってきりきりしがちな日常に新鮮な空気を届けてくれるエッセイ。月刊誌『母の友』で連載されていたものですが、悩み揺れる親心に寄り添う温かい文章に支えられた読者は多いはず。歌人である著者が、雑誌投稿欄に自作が初めて掲載された時のことを

徳本栄一郎著「田中清玄」 「変節」は裏切りだったのか 評者・中島岳志

「変節」は裏切りだったのか田中清玄は、若き日に日本共産党の中央委員長を務め、戦後は右翼の黒幕として活躍した。時に「変節漢」「政商」「利権屋」と揶揄されながら、政治の裏舞台で活躍し続けた人生は、いかなるものだったのか。 1927年に東京帝国大学に入学した田中は、左派学生の思想運動団体・新人会を経て、非合法化されていた共産党に入党する。彼は汗と油にまみれながら重労働に従事することで、労働者から信頼を獲得し、共産党のオルグを成功させていった。古参の共産党員が次々に逮捕される中、田

ヤマザキマリ著「リ・アルティジャーニ」 カラーマンガで描かれる巨匠たちの群像劇 評者・原田マハ

カラーマンガで描かれる巨匠たちの群像劇2009年は日本のマンガ界において特筆すべき年になった。ヤマザキマリ著『テルマエ・ロマエ』第1巻が発売されたからだ。のちに爆発的ヒットを記録した同作だが、発売当初は海外在住のマンガ家が手がけた、「ローマ風呂」がテーマの一風変わった内容のマンガということで、じわじわと話題になり、まもなく人気に火がついた。私が同作を手に取ったのは発売2ヶ月後のことで、あまりの面白さに文字通り爆笑したことをよく覚えている。 アートであれ小説であれマンガであれ

星野博美著「世界は五反田から始まった」 東京の片隅で歴史が交叉する 評者・平松洋子

東京の片隅で歴史が交叉する地面の下に層をなす夥しい骨灰を訪ね歩き、『東京骨灰紀行』を著したのは作家、小沢信男。いっぽう、自分が生まれ育った五反田に照準を合わせ、ひとつの土地の深層を能うかぎり掘り起こすのは本書の著者、星野博美。東京の片隅に強く思い入れ、ローカルな土地に据えた立脚点が、日本近代史のうねりを呼び覚ます。 五反田を読み解く手掛かりは、30年前に父から手渡された祖父、量太郎の手記。便箋には、房総半島の海岸沿いの町で漁師の6男として生まれ、戦前の五反田に移り住んだ祖父

「日本インテリジェンス史」著者・小谷賢インタビュー

表題にある「インテリジェンス」は国家の危機管理や安全保障のための情報を指す。本書はそれらを扱う機関(公安警察や内閣情報調査室、防衛省・自衛隊など)の歴史を辿る。著者は防衛研究所等で各国の諜報・機密研究を続けてきた。 「戦後日本の情報機関の変遷を扱う類書はこれまで、ほとんどありません。関連する公文書の大半が残されていないため、研究対象になりづらいのです」 終戦直後の占領期から本書は始まるが、全編に通底するのは“アメリカの影”である。この国の情報機関のありようは日米同盟に左右

手嶋龍一 今月買った本 一九四五年の記録

1945年の記録伊・独に続き日本が降伏したあの日、軍の最前線で、銃後で、人々は何を思っていたのか。現代史の素顔を知りたくて、8月15日を記した様々な日記を読んできた。最も心に残った記述はと問われれば、迷わず『断腸亭日乗』をあげたいと思う。

新書時評「『8月ジャーナリズム』への視点」武田徹

評論家・専修大学教授の武田徹さんが、オススメの新書3冊を紹介します。 「8月ジャーナリズム」への視点原爆投下や終戦の記念日が巡り来る8月に放送局、新聞社は毎年、戦争関係の番組や記事を作る。一色に染まらない多彩な新書の世界も、この夏はウクライナ侵攻関係も加わって、戦争について考えさせる新刊が多く揃った印象だ。 太田尚樹『南洋の日本人町』(平凡社新書)は東南アジアに進出した日本人の足跡を追う。南洋との交流は、江戸の鎖国で一度は途絶えるが維新後に蘇る。フィリピン、シンガポール、

ジェレミー・デシルヴァ著 赤根洋子訳「直立二足歩行の人類史」 こんな面白い本には出会ったことがない 評者・角幡唯介

こんな面白い本には出会ったことがないかつてヒマラヤの雪男捜索隊に参加したときに私の頭を悩ませたのは、もし未知のサルが見つかったらそれを雪男と呼ぶことはできるのかという問題だった。難しいだろう。なぜなら雪男と聞いてわれわれが思い浮かべるのは、もう少し人間に近い生き物だからだ。サルと雪男を分かつ境界、それは二足歩行をするかどうかだ、と私は考えた。 こんな奇妙な疑問をたずさえ、とある著名な人類学者を取材した。そして、目下のところ人類の二足歩行に関する最有力学説はラブジョイの仮説だ

中島国彦「森鴎外」 文豪の知られざる意地 評者・本郷恵子

文豪の知られざる“意地”2022年は、森鴎外(1862~1922)の生誕160年、没後100年の年だ。「観潮楼(かんちょうろう)」と名付けて30年を暮らした住居がおかれていた縁で、文京区ではさまざまな記念事業が行われている。私も文京区内の職場に勤めて30年以上になるが、今年は商店街の街路灯に鴎外の肖像をデザインした「森鴎外没後100年」のフラッグがとりつけられ、はためく文豪に見下ろされながら通勤している。 鴎外の作品は、10代のころからぼつぼつと読んできたが、感情移入すると

イ・ラン/いがらしみきお著 甘栗舎訳「何卒よろしくお願いいたします」 「今とは違う世界」の希望に触れる 評者・角田光代

「今とは違う世界」の希望に触れる漫画家であるいがらしみきお氏と、ミュージシャン、映像作家、エッセイストなど各方面で活躍するイ・ラン氏の、2年にわたる往復書簡である。 初っぱなからおもしろい。保険について調べるうちに詳しくなりすぎたイ・ラン氏は保険会社で働きはじめたという。そこで上司に言われた言葉が「あらゆるものやすべての日常の本質を知ろうとしないで、見過ごしなさい」。この言葉は、本書における象徴的な言葉だ。どうやら、いがらし氏もイ・ラン氏も、それができないタイプの人間であり

ケイトリン・ローゼンタール著 川添節子訳「奴隷会計」 本当は怖い「減価償却」の歴史 評者・片山杜秀

本当は怖い「減価償却」の歴史減価償却。英語のディプリシエイションの訳語であろう。営利活動にはしばしば大金を要する設備投資が伴う。工場を建てる。機械設備を揃える。将来にわたる大きな利益を見込んで大胆な出費をする。しかし、その出費を単年度の収支計算の中にまとめて入れ込んで処理しようとすれば、見かけが宜しくない。出費に見合った儲けが出てくるのは、たいてい先のことなのだから、単年度では収支のつり合いがとれない。大赤字を出したように見えてしまうかもしれない。 そこで減価償却。工場なり

新書時評「ビートルズ、ドリフ、桑田佳祐」武田徹

評論家・専修大学教授の武田徹さんが、オススメの新書3冊を紹介します。 ビートルズ、ドリフ、桑田佳祐「体に電気が走って、人生が変わりましたね」。1966年、公演のために来日し、都心に向かうビートルズの姿をテレビ中継で観ていた小学生時代を思い出して桑田佳祐はそう語ったことがある。 ビートルズなかりせばロック歌手・桑田は生まれなかった。そこまで強い影響を与えたビートルズとはどのようなバンドだったのか。小関隆『イギリス1960年代』(中公新書)によればその登場の背景には大戦後の緊