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『その扉をたたく音』著者・瀬尾まいこさんインタビュー

『その扉をたたく音』著者・瀬尾まいこさんインタビュー

瀬尾まいこさん 写真:内藤貞保 29歳、無職、ミュージシャンを夢見る宮路くんが物語の主人公だ。親からの仕送りで生活をしながら、日々無為に過ごしている。その彼が老人ホームを慰問し、介護士の渡部くんが吹くサックスを耳にして物語が始まる。 瀬尾まいこさんは、打ち合わせてから約3カ月という短期間でこの長編をほぼ書き上げた。「2019年の本屋大賞を受賞した直後で、大勢の人から誉められて気持ちがよかったのかも」と笑う。 老人ホームを舞台にしたのは、自身が中学校で働いていた時にた

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手嶋龍一さんが今月買った10冊の本

手嶋龍一さんが今月買った10冊の本

量子暗号が世界を支配する われわれの頭上に「墨子」がいて、情報世界の覇者として君臨している――その事実をどれだけのひとが知っているだろう。2016年8月、中国は量子科学衛星「墨子」を世界に先駆けて打ち上げた。最先端の量子暗号システムを備えて盗聴・傍受を封じ、軍事・金融分野での極秘通信を可能とした。まさしく「21世紀のスプートニク・ショック」だった。冷戦期に人工衛星の打ち上げでソ連に先んじられたアメリカは直ちに反転攻勢に出た。だが「トランプのアメリカ」は手を拱いて中国の独走を

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佐久間文子さんの「今月の必読書」…『クララとお日さま』

佐久間文子さんの「今月の必読書」…『クララとお日さま』

AI搭載の人工親友が導く歪んだ世界カズオ・イシグロの6年ぶりの新作『クララとお日さま』は、ノーベル文学賞受賞後の第1作ということもあり、世界同時発売されて話題を集めている。 シンプルなタイトルは童話めいた印象を与える。ショーウィンドーに並ぶクララに目を止めたジョジー。からだの弱いジョジーの遊び相手として彼女の家に買われていったクララは、ジョジーのいちばんの理解者になろうとつとめる……。 あらすじを書けば、それこそ童話じゃないかと思われそうだがそうではない。語り手のクララは

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池上彰さんの「今月の必読書」…『NHKメルトダウン取材班 福島第一原発事故の「真実」』

池上彰さんの「今月の必読書」…『NHKメルトダウン取材班 福島第一原発事故の「真実」』

情報を更新することの大切さ大きな事件や事故が起きたときに当初報道された内容が衝撃的だと、その後新しい事実がわかっても、当初の印象が更新されないままになってしまう。 この本は、そのことに気づかせてくれます。東日本大震災から10年。この間、NHKは、NHKスペシャルなどで事故の実態解明や事故処理の問題点などを報道してきました。その番組づくりに携わってきたスタッフが、取材をまとめた集大成が、この本です。その分量の膨大さ。「完全保存版」というキャッチフレーズは出版社がつけたのでしょ

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武田徹の新書時評| “人間という管”の入口と出口

武田徹の新書時評| “人間という管”の入口と出口

評論家・専修大学教授の武田徹さんが、オススメの新書3冊を紹介します。  “人間という管”の入口と出口  「人間は、しょせん一本の管である」と書いたのはエッセイストの山口瞳だった。確かにいかに金持ちでも才人でも食べては排泄を繰り返す“食物の通り道”として一生を終えることに変わりはない。 しかし、その“管”は実はなかなかのものらしい。辨野義己『「腸内細菌」が健康寿命を決める』(インターナショナル新書)によれば、腸内では1000種類にも及ぶ細菌が活動し、消化吸収を助けるだけでな

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佐藤優のベストセラーで読む日本の近現代史『東大の先生! 文系の私に超わかりやすく数学を教えてください!』西成活裕

佐藤優のベストセラーで読む日本の近現代史『東大の先生! 文系の私に超わかりやすく数学を教えてください!』西成活裕

数学の知識が収入を左右する時代評者は、若手のビジネスパーソンから勉強法について相談されることがよくあるが、その半数以上が数学の勉強法に関してだ。文科系だけでなく、理科系の学部出身の人でも数学に苦手意識を抱いている人が少なからずいる。 また、大学生でも数学ができないと社会に出てから取り残されるのではないかという形而上的不安を抱いている人がいる。確かに新聞のこんな記事を読むと数学の知識が収入に直結しているとの印象を受ける。 〈大和証券は4月から従業員に転職市場での価値に応じた

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平松洋子さんの「今月の必読書」…『小池一子の現場』

平松洋子さんの「今月の必読書」…『小池一子の現場』

アートをつうじ社会を揺さぶり続ける開拓者の足跡 日本には小池一子がいる。 時代を切り拓いてきた女性を挙げるとき、まず小池一子の名前は外せない。一貫してクリエイティブの現場を歩みながら、ジェンダーを超え、仕事のジャンルを超え、アートや言葉をつうじて社会そのものに影響を与え続けてきた人物。85歳を迎える今年、「東京ビエンナーレ2020/2021」総合ディレクターを務め、さらに現役を更新する。 本書は、小池の全仕事を俯瞰するものだが、自伝やアーカイブとは一線を画する異色の出来

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中島岳志さんの「今月の必読書」…『駒形丸事件 インド太平洋世界とイギリス帝国』

中島岳志さんの「今月の必読書」…『駒形丸事件 インド太平洋世界とイギリス帝国』

「つながる歴史」を紡ぐことで事件の全貌を解明 1914年4月、日本船籍の「駒形丸」が香港を出港した。この船をチャーターしたのはグルディット・シンというインド人ビジネスマンで、香港から北米への移民希望者を移送する事業を企てた。途中、上海と門司と横浜で乗客を増やし、合計376人のインド人がカナダを目指した。同年5月末にバンクーバーに到着したものの、約2か月間、接岸を許されず、わずかな許可者を除いて上陸が認められなかった。船は太平洋上を引き返し、日本とシンガポールを経由してコルカ

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『大阪』著者・岸政彦さんインタビュー

『大阪』著者・岸政彦さんインタビュー

社会学者、作家として活躍する岸政彦さんと、作家の柴崎友香さんが、大阪について書いたエッセイが6篇ずつ収められている共著だ。 「この本は編集者の提案で生まれたのですが、ひとりは大阪に来た人、ひとりは大阪を出た人の組み合わせなのです」 1973年に大阪で生まれた柴崎さんは2005年に東京へ移った。本書では生まれ育った街、ちかくの商店街、中学生のころから通っていた心斎橋の個性豊かな店などについて書いている。 一方、岸さんは大学進学のため1987年に地元を離れて大阪へ来た。本書

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原田マハさんの「今月の必読書」…『ファン・ゴッホの手紙 (Ⅰ)・(Ⅱ)』

原田マハさんの「今月の必読書」…『ファン・ゴッホの手紙 (Ⅰ)・(Ⅱ)』

選ばれた265通から浮かび上がる人間像 もしもゴッホが現代に生きていたら? 家族や友人に秒速でメールを連打する。心の中に浮かぶ言葉のままにツイッターでつぶやく。描き上がったばかりの絵を速攻でインスタにアップ。「いいね!」を数えてひとりでにやけ、いつしか世界的なインフルエンサーになったりして。 などと想像してみるのは楽しいものだが、ゴッホが生きていたのは130年以上もまえのことである。とはいえ、歴史の時間軸でとらえれば、それほど昔むかしのことではない。私も19世紀末のパリを

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