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#原田マハ

文藝春秋digital読者の皆さまへ、編集長より最後のお願い【「文藝春秋 電子版」1年無料プランは明日まで!】

明日5月31日、「文藝春秋digital」はクローズいたします。 これまで「文藝春秋digital」をご愛読いただきまして、誠にありがとうございました。 先にもお知らせした通り、月刊文藝春秋のサブスクリプションは「文藝春秋 電子版」に一本化します。これまで「文藝春秋digital」をご愛読いただいた皆さまには、突然のお知らせになったことを、改めてお詫び申し上げます。 「文藝春秋digital」のサービスが終了しますと、6月から皆さまに最新記事をお届けできなくなってしまい

平山周吉「小津安二郎」

どんな映画にも似ていない映画 英国映画協会主催の「史上最高の映画」というのがある。1952年から10年おきに発表されるこのランキングは、世界の映画関係者の投票による「推し映画」リストになっているのが興味深い。その最新ランキング(2022年)が昨年発表された。堂々第4位にランクインしたのが、小津安二郎監督「東京物語」である。実はこの作品、前回(2012年)「監督が選ぶベスト100」でなんと1位に選ばれた。没後約50年、昭和の名匠が「世界の小津」として甦ったのである。  そんな

エルンスト・H・ゴンブリッチ著 中山典夫訳「若い読者のための世界史 改訂版」

美術史家が語る歴史物語 もう13年もまえのことになるが、『楽園のカンヴァス』の執筆取材のためにパリに長逗留したことがある。そのとき、スーツケースに詰め込んで持って行ったのがエルンスト・H・ゴンブリッチの『美術の物語』。人類と美術が足並みをそろえてともに発展してきた1万年以上にも及ぶ長大な美術史を展観する名著だ。何しろ長い長い歴史の本だから重量が半端なく、海外へ持ち運ぶのにはまったく向かない本だったが、どうしても持って行きたかった。なぜかといえば、私が仮寓に定めたアパルトマンは

土門拳「土門拳の風貌」有名人たちの恐るべき肖像写真集 評者・原田マハ

有名人たちの恐るべき肖像写真集写真を撮られるのが苦手である。 撮影されるときは、ごまかそうとしてやたら笑顔を作ってしまう。いつもそんなふうだから、私のポートレイトはプロが撮ったものでも友人が撮ったものでも同じようにニカッと笑った顔である。時々、カメラマンに「撮られ慣れていますね」と言われることもあるのだが、「不自然な」笑顔を「自然に」作ることが、撮り手にとっては「慣れている」ように感じられるのかもしれない。そんな時に出来上がってきた写真を見ると「いかにも」な感じ。プロのカメ

原田マハさんの「今月の必読書」……「メロンと寸劇」向田邦子

おいしい話でお腹がいっぱい私は生来の食いしん坊である。朝ごはんを食べながら、今日のランチは何を食べよう、と考えている。 などとただの食いしん坊なのに偉そうに書きたくなったのは、本書の中で描かれている数々のおいしいエピソードが、あまりにも「そう、わかるわかる!」「そういうことあるんだよねえ」と共感することばかりで、「私も邦子さん(と敬愛を込めて呼ばせていただく)と同じくらい食いしん坊なんです」と主張したい気分にかられまくってしまったからである。しかも邦子さんは、ご自身をおいし

原田マハさんの「今月の必読書」…『聖母の美術全史』宮下規久朗

彼女がいなければ誕生しなかった名作昔も今も、世界で最も有名な女性とは誰だろう。 その名をマリア。神の子、イエスを産み育てた「聖母」である。 彼女はひとりの女性には違いないだろうが、とにかく超人的だ。男性を知ることなく妊娠した。聖霊の力によって、神の子が彼女の中に宿った。それだけでもとてつもないのだが、さらに彼女は、アダムとイヴがヘビにそそのかされてリンゴをかじった(つまり罪を犯した)ことによって、すべての人間が生まれながらに背負わされている「原罪」がない存在とされ、さらに

100年後まで読み継ぎたい100冊 原田マハ「芸術家を知る」

文・原田マハ(作家) 芸術家を知る もともと美術館に勤務していたせいか、私は美術史をベースに時間軸をとらえることがよくある。今から◯年前、どんなアーティストが、どんな作品を作ったか。どんな時代背景だったのか——という具合に。 12年前、拙著『楽園のカンヴァス』の取材のためにパリで長期滞在をしていた。仮寓はルーヴル美術館から徒歩5分という夢のようなロケーション。この機会に、古代から近代まで、人類と共に歩んできた壮大な西洋美術史の流れを徹底的にさらってやろうじゃないかと意気込

原田マハさんの「今月の必読書」…『フランス革命の女たち〈新版〉激動の時代を生きた11人の物語』

「ベルばら」だけではない女性たちの革命私は10歳のとき、連載中の「ベルサイユのばら」を貪り読んでいた。フランス革命などわかるはずもない少女は、抗えない運命に巻き込まれて断頭台の露と消えた王妃マリー・アントワネットや、男装の麗人オスカルと彼女の従者アンドレの悲恋に、ただ胸をときめかせるばかりだった。50代になって「ベルばら」を読み返してみると、少女時代のときめきがそのまま蘇ると同時に、ようやく革命の意味を理解し、身分にかかわらず人生においてその人を支えるのは「愛」なのだと悟った

原田マハ(作家)×有働由美子「夢は紅白歌合戦の審査員です」

news zeroメインキャスターの有働さんが“時代を作った人たち”の本音に迫る対談企画「有働由美子のマイフェアパーソン」。今回のゲストは、作家の原田マハさんです。 原田さん(左、撮影/ZIGEN)と有働キャスター(右) 山田洋次監督の逆プロポーズ!?原作者が明かす『キネマの神様』の舞台裏有働 はじめまして。私、原田さんの小説で最初に読んだのが、『本日は、お日柄もよく』なんです。スピーチが苦手な政治家の秘書の方から相談を受けた時に、主人公がスピーチライターとして成長してい

原田マハさんの「今月の必読書」…『扉はひらく いくたびも 時代の証言者』

希代の漫画家が語る名作誕生の秘話現在、作家として活動している私を構成した「原材料」となったものはなんだったか、と時折思うことがある。多感な少女だった頃から大人の入り口に立った20代前半まで、私がもっとも深く影響を与えられた純文学——『風と木の詩(うた)』である。 実はこの作品、マンガなのだが、それでもやはり、マンガという形式を借りた純文学であると言い張りたい。19世紀フランスの男子校を舞台に、ふたりの美少年の愛と葛藤を描いた物語で、1976年から84年まで「週刊少女コミッ

原田マハさんの「今月の必読書」…『ファン・ゴッホの手紙 (Ⅰ)・(Ⅱ)』

選ばれた265通から浮かび上がる人間像もしもゴッホが現代に生きていたら? 家族や友人に秒速でメールを連打する。心の中に浮かぶ言葉のままにツイッターでつぶやく。描き上がったばかりの絵を速攻でインスタにアップ。「いいね!」を数えてひとりでにやけ、いつしか世界的なインフルエンサーになったりして。 などと想像してみるのは楽しいものだが、ゴッホが生きていたのは130年以上もまえのことである。とはいえ、歴史の時間軸でとらえれば、それほど昔むかしのことではない。私も19世紀末のパリを舞台

コロナ下で読んだ「わたしのベスト3」 本の中を旅する|原田マハ

新型コロナウィルスの感染拡大の影響で、春先に発出された緊急事態宣言下における移動の自粛要請は、作家という肩書きでなければいっそ「旅人」と名乗りたいくらい旅好きの私にとっては痛恨であった。ならば本の中を旅しようと思い立ち、読書に勤しんだ。しかし私はこんな時に旅がテーマの本を選んだりするほど素直ではない。旅の本を読めば出かけたくなるだけだ。ということで、手始めに昔むかし読んだ日本文学の古典を読み返してみることにした。 『お目出たき人』を読みながら、私は何度もひとりで笑い声を立て

原田マハさんの「今月の必読書」…『最後のダ・ヴィンチの真実』

アートの価値が上がる舞台裏昨年10月24日から今年2月24日まで、ルーヴル美術館で「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」が開催された。 2019年はレオナルドの没後500周年ということで、同展は世界中のレオナルド研究者が10年かけて共同リサーチしてきた結果のお披露目も兼ねており、また、どこぞの美術館の門外不出の作品が出展されるとかされないとか、開催前から世界の耳目を集めていた。美術展の世界では「没後〇〇年」「生誕〇〇年」という芸術家のアニヴァーサリーに引っ掛けて大掛かりな企画が組ま

静かな生活|原田マハ

文・原田マハ(作家) 5月11日、フランス全土に発出されていた「外出禁止令」が解除された。 3月、新型コロナウィルスの感染拡大の嵐が世界中に吹き荒れた結果、フランスのみならず、各国が都市封鎖=ロックダウンに踏み切ってからほぼ2ヶ月。フランスに先立って、ヨーロッパで最も深刻なコロナ禍に見舞われたイタリアも、5月4日に外出規制緩和となった。スイス、オーストリア、ドイツ、スペイン……政府の号令一下、ドアを閉めて家の中に引きこもっていた人々は、ようやく施錠が解かれてほっと一息つい