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俳句|赤野四羽

春の挽歌 花吐きの少年下唇涎引く 春菊を噛むや真白き帯の内 永日をチヨコレイトと響く寺 血は水よりしょっぱいぞ蕗のとう 街中の正気を洗う春時雨 花が死へ換わる湿りの滑かな 浅川マキの残滓を啜る朧月

俳句|関悦史

首・数字・春 如月の駅軍服の男ゐる 来世また瓦礫と会はん春の雨 三・一一 三・一四一五九二六…… 龍天に登るその背に眼鏡の女性 人類平均睾丸一個万愚節 おのが首取れ接ぎなほす春の夢 春の昼一億の首消え残る

俳句|岡田一実

峰巒 水音がひかりと見えて枯芒 水の面の落葉の層のほぐれくる 午後の日を鋭(と)き鳥ごゑや山眠る 餅搗の音に峰巒(ほうらん)のたたなづく 読初の文字の四角く組まれをり 寒禽の屢(しば)鳴く嘴の夥し 日脚伸ぶ手指を隈なく濡らす度

俳句|山田耕司

さるぐつわ 数へ日をバターぼんやりパンに溶け 人さまに殺されてゐる昼の咳 休憩終了つめたき紙に飴を吐き 矢印のままに地下へと人の冬 ゆく年の耳なら咬んでいいですか 淑気かなマスクの列に猿轡 をぢさんのおつぱい豊かなり初湯

日本の顔|夏井いつき(俳人)

夏井いつき(なついいつき・俳人) 松山は道後温泉のほど近くに構えられた伊月庵。その扉は、万人に開かれている。庵主である俳人・夏井いつき(63)は、“俳句集団”「いつき組」の組長だ。 「結社ではないから、入るのに特別な資格は必要ありません。『俳句って楽しい!』という人は勝手に名乗っ…

俳句|黒田杏子

句友柳家小三治師匠と電話会談 108分 受話器より噺家のこゑ月今宵 語ること語りたきこと月真澄 月高く本音本心惜しみなく 話芸これは話術ではない月真如 結局は心なんだよ月天心    「東京やなぎ句会」例会日 忘れ得ぬ十七日の月の句座 噺家になつてよかつた今日の月 …

俳句|内山章子

花に托して 闇に浮ぶ花の大きく烏瓜(からすうり) 烏瓜の花の力の失せし朝 鶏頭のいまを盛りに明日子規忌 水引の紅(べに)きはだちて風の中 山からの風含みつゝ花芒(はなすすき) 逝きし人想ひて仰ぐ月今宵 心とは揺れ動くもの萩芒 (2020年10月号)

俳句|柚木紀子

火と人と より 内外(うちと)のひかり 凍(い)つる雲 冬北斗 乳子(ちご)われ乳子生み 乳房失(う)し うたふ薔薇 匍匐(ほふく)の蜂や 秋まひる 火映(くわえい)火口上空 晨夜(しんや) しくらめん 「老人と森」と謳(うた)はな 緑夜なる 蹤(つ)いてゆく 光の化身 霧氷林(…

黒田杏子さんのおふくろの話。

著名人が母親との思い出を回顧します。今回の語り手は、黒田杏子さん(俳人)です。 無名の俳人  母のこゑ節分草の咲くころね 杏子  母は95歳で亡くなるまで、句作に打ち込んでいた。私には姉兄妹弟が居て、私はその真ん中の5人きょうだい。  私たち夫婦には子供が居ない。広告会社に60歳定年…

俳句 / 抜井諒一【全文公開】

光の起伏 轍(わだち)伸ぶ通行止の雪の先 闇きしみつつ結氷の進む湖 いちめんの光の起伏結氷湖 自分より重さうな橇(そり)曳いてゆく 一晩で穴釣の穴みな消えし 青空へ氷柱消え入るほど細る 寒林の裏に風音ありにけり 【編集部よりお知らせ】 文藝春秋は、皆さんの投稿を募集しています。「#…