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橘玲さんが今月買った10冊の本

橘玲さんが今月買った10冊の本

よりよい世界古来、自らの手で「よりよい世界」をつくろうとした者は枚挙にいとまがないが、そのほとんどは悲惨な結果を招いた。 だがいま、人間の不合理性を前提にしたうえで、合理的に社会をデザインしようとする新しい“ユートピア思想”が台頭している。自由市場経済と共産主義(私有財産の否定)を合体する『ラディカル・マーケット』は、このメカニカル・デザインの最先端。話半分としてもきわめて魅力的で、近年、もっとも知的好奇心を刺激された一冊。 「知識社会における経済格差は“知能の格差”の別

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中島岳志さんの「今月の必読書」…『植物忌』

中島岳志さんの「今月の必読書」…『植物忌』

人間の言葉と植物のコトバコロナ危機が始まり、毎日マスクをするようになった。ウイルスは飛沫によって感染するという。だから、私たちは口と鼻を覆わなければならない。自分が感染しないように。人に感染させないように。 マスクをして気づいたのは、私たちが思いのほか多くの飛沫を交換して生きてきたということだ。私たちは呼吸し、会話する。私の体内にあった空気は、息となって放出され、他者の体内に取り込まれる。この「他者」は人間に限らない。動物の体内にも入り込み、植物にも吸引される。私たちは、呼

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本郷恵子さんの「今月の必読書」…『テレビの荒野を歩いた人たち』

本郷恵子さんの「今月の必読書」…『テレビの荒野を歩いた人たち』

「面白そう」「やっちゃえ」黎明期を知るレジェンドたちの証言かつてテレビが生活の中心だった時代があった。テレビは未知の世界に通じる窓で、新しいこと・楽しいこと・素晴らしいことがいっぱい詰まった魔法の箱だった。1953年2月にNHKが本放送を開始、8月には日本テレビが最初の民放テレビ局として開局、シャープの量産第1号テレビの価格は17万5000円(当時の国家公務員の大卒初任給が7650円)と、とんでもなく高価だったという。本書には、全くの手探りの時代からテレビの仕事に携わり、道な

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片山杜秀さんの「今月の必読書」…『マーシャル・プラン 新世界秩序の誕生』

片山杜秀さんの「今月の必読書」…『マーシャル・プラン 新世界秩序の誕生』

帰りたかったのに、帰れなかった米国米国は帰りたかった。第二次世界大戦が済んだ欧州から一刻も早く手を引きたい。建国以来そういう国なのだ。本書は1796年秋のワシントン大統領の辞任演説から始まる。彼は言った。米国は欧州とあまりに異質なので、関わらない方がよいと。大戦の当初、米国民の態度はワシントンを踏襲していた。ヒトラーと戦うべきと考えた米国民はわずか3パーセントだったという。 雰囲気を一変させたのは「真珠湾の騙し討ち」。米国民は日独伊に怒った。米国は参戦して勝ち、すぐ帰ろうと

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角幡唯介さんの「今月の必読書」…『地下世界をめぐる冒険 闇に隠された人類史』

角幡唯介さんの「今月の必読書」…『地下世界をめぐる冒険 闇に隠された人類史』

光のない世界に託した人間の意外な姿20年以上前に大学探検部の学生だった頃、洞窟好きの後輩が奇抜な計画書を出したことがあった。その後輩は心理学にも興味をもっており、洞窟の底の暗闇のなかで長時間過ごすことで自らの意識が如何に変容するのか知りたいというのである。変人といえば変人だが、本書のなかに、まったく同じ探検を試みた地質学者の話が紹介されていて驚いた。 この地質学者は地下120メートルの日光のささない暗帯で、時計ももたず本能だけで2カ月をすごしたという。読書や音楽のほかは寝て

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角田光代さんの「今月の必読書」…『自転しながら公転する』

角田光代さんの「今月の必読書」…『自転しながら公転する』

苦しくてすがすがしい濃厚なリアリティ本書の主人公は与野都、32歳。東京で暮らしていたが、今は更年期障害の母親を支えるために実家の牛久に戻り、アウトレットモールのアパレル店で働いている。同じモールの飲食店で働く貫一と知り合い、交際がはじまる。貫一は都の名を知り、「貫一おみやって言ったら金色夜叉じゃん」と言い、都を「おみや」と呼ぶようになる。 金色夜叉といえば、宮が婚約者の貫一を捨てて、お金持ちの男性に嫁ぎ、貫一は復讐を誓って冷酷な金貸しになる……という未完の小説。貫一は都の婚

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池上彰さんの「今月の必読書」…『その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い』

池上彰さんの「今月の必読書」…『その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い』

閉ざされた実態を明らかにした地道な取材2017年から#MeToo運動がアメリカで始まり、瞬く間に日本を含む世界各国に広まりました。きっかけは、同年10月、アメリカの「ニューヨークタイムズ」が、ハリウッド映画界の大物プロデューサーであるハーヴェイ・ワインスタインのセクハラを報道したこと。新聞報道を端緒にして、大勢の女性たちが「私も被害にあった」と名乗り出たことから「私も」というツイッターのハッシュタグが作られました。 憧れのハリウッド女優になるためには、大物プロデューサーの機

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佐久間文子さんの「今月の必読書」…『歴史家と少女殺人事件 レティシアの物語』

佐久間文子さんの「今月の必読書」…『歴史家と少女殺人事件 レティシアの物語』

加害者ではなく被害者の人生の物語 歴史学者は過去しか扱わない。 本書は、そんな常識を打ち破る。まだ輪郭が定まらず揺れている現在のできごとを徹底調査し、歴史的な文脈の中に置き直し、未来において参照可能なものにする。歴史の可能性を拡げる、刺激的な仕事だ。 原題は「レティシア」。2011年1月、フランスの地方都市ポルニックで殺された少女の名前である。フランスではその名前だけでイメージが喚起される著名な事件だとしても、「三面記事」で扱う事件である。なぜ、気鋭の歴史学者が、ひとりの

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梯久美子さんの「今月の必読書」…『帝国軍人 公文書、私文書、オーラルヒストリーからみる』

梯久美子さんの「今月の必読書」…『帝国軍人 公文書、私文書、オーラルヒストリーからみる』

軍人は互いをかばいあう高級官僚にほかならない大和ミュージアム(呉市)館長の戸髙一成氏と、昨年話題を呼んだベストセラー『独ソ戦』の著者である大木毅氏による対談本である。 昭和50年代から6十年代にかけて、旧軍人――将官、佐官クラスだった人たちがまだ存命だった――からじかに話を聞いた経験を持つ2人が、帝国軍人とはいったい何だったのかを、具体的なエピソードや史料をもとに縦横に語る。 日本海軍史研究家であり、海軍反省会(元大佐、中佐クラスの人物が中心となり、敗戦に至った経緯や問題

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「一人称単数」を読むと、筋の通らない物語を語りたくなる|岸田奈美

「一人称単数」を読むと、筋の通らない物語を語りたくなる|岸田奈美

村上作品の感想を書くと、なぜか自分の話ばかりしてしまう文藝春秋さんから「『一人称単数』の書評をお願いします」と頼まれて、嬉々として引き受けた数分後に、わたしは唸りながら頭を抱えていた。 わたしは4月に刊行された「猫を棄てる 父親について語るとき」で、はじめて村上春樹作品を手にとった。わたしが彼の作品に長く手が伸びなかったのは、亡き父が熱烈なファンであったことに由来するのだけど、長くなるのでここで説明はやめておく。 ともかくその本に深く感動して、単行本を片手にしばらく放心し

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