文藝春秋digital

短歌|寺田信子

短歌|寺田信子

薔薇を仰ぐ壁面に薔薇を咲かせるお宅から束でいただく今年二度目の この町のばらの名所のような家自転車止めて仰ぐ人あり からくりの玩具のように足動く子犬に会えり人に連れられ 西からの直射日光に照らされて主を待つか自転車の群 涸びたる花びら指で払いやる散るのが苦手なゼラニウムの花 ひな子という同級生ありしこうして健在ならばやっぱり米寿 お釣り貰い帰りかけるを止められて肉の包みをぬっと渡さる

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短歌|小林理央

短歌|小林理央

金魚すくいカレンダー埋めて生きてるフリをする思い通りにいかない日々を どうしようもなく夏になるわたしには何も操れないことを知る 虚無と向きあえる自分になりたくて聴いているのはマカロニえんぴつ 学生でいられる日々を数えてるベタベタしてるカラオケの床 幸せな夢を見たくはない 今が不幸せだと思ってしまう かき集め生きているんだ日本語を金魚すくいのようにやらかく 鳥になったあの人ならばコロナ禍をどんな素敵に詠うのだろう

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短歌|平岡直子

短歌|平岡直子

白夜弟の婚姻届けに署名したわたしはサインポールにみえる? オリンピック、虫の頭に詰まってるいろとりどりの紙屑をみて 地下街はしばらく続く 太い線 細い線 目に飛び込んでくる バレリーナたちの手足が暗がりでからまりあっているビオトープ でもわたし途中で寝ちゃったんですよ 会話はいい霧とわるい霧 月面にでこぼこがある月面にでこぼこがあるきみに噛みつく 紫陽花のほかのすべてがモノクロのわたしの人生は点つなぎ

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短歌|谷川由里子

短歌|谷川由里子

おもう壺遠くから笑ってくれる 近づいて笑ったあとの顔をしている N響の指揮者のゆびが個性的でみとれていたらきみのおもう壺 立体でまっすぐ立っていてほしいナイトキャップの頭でっかち あたたかい雨の降る日にみまもった鼻呼吸にも慣れないレディ 艶やかな珈琲がするするとねじれながらなにか思い出しそう 雨の日のつぎの大きな工事現場に堂々とした水たまり 駒沢オリンピック公園 自転車の波をよくみて合間に歩む

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短歌|陣崎草子

短歌|陣崎草子

兄妹の喉石 大人らの毒を飲みこみ喉青く光らせまくる少年がいる 少年と少女はぎゅうっと手を結び巨大滑り台見下ろせり 涙洟血汗唾吸いぐしゃぐしゃのちり紙をまだ使うのだとか 妹の吐きだす赤石握りしめ青石に変える酷い火傷し 父さん母さんそのほか大人たちみんな幼すぎ地球の約束ごととか 妹よ恋をしてこい狂暴に守る兄とは似てない存在(なにか)に 青い蝶こまかく千切り燃やすこと 悪いが今は殺させてやれ

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将棋短歌|先崎学

将棋短歌|先崎学

文・先崎学(棋士) なにかできないかな、と思った。今年のお正月過ぎのことである。東京はコロナ患者の急増で緊急事態宣言の再発令が決っており、暗いムードにつつまれていた。 別に面倒なことをしなくてもよいのだが、おりからの将棋ブームで、ファンは情報を欲している。対局以外の活動はほぼ止っている。棋士としてできることは……SNSでできることは……。私が女流アイドル棋士のように、ニッコリ笑ったり、作った料理の写真を発信したりしても仕方がない。私の武器はやはりことばだ。ことばを使って、

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短歌|飯田有子

短歌|飯田有子

春と校正者 「悔しがる人は伸びるよ」新人われを慰めし言葉新人に言う 折り紙の指示の誤植の(あしびきの)やまありたにあり・やまありたにあり 残業のつづく後輩の机には日々増えていく推しの笑む顔 晴れた日は意味無きことば連ねたし半濁音だけの鳥の鳴き声 病み上がりの作家の痛み思いつつ震えがちなる書き文字を追う 文字としか話さない日は善福寺川沿いの道えらんで帰る 常よりも春待つこころ通る人みな顔寄せゆく桜のつぼみ

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短歌|俵万智

短歌|俵万智

領収書 シャンパーニュ君と飲みしはどの冬か原美術館の閉館を知る オンライン授業垣間見してみれば源氏が女を垣間見ており 正しさが大暴落をする時代マスクの中に何か隠して もらい事故のように出てくるキスシーン息子と見ているテレビドラマに 二人に一人は癌の時代と聞きながらならないほうに自分を思う 遺伝子がコピーミスしてCANCERがDANCERになる如月の夜 領収書の整理をすれば令和二年「服飾」「交通」まこと少なし

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短歌|井上法子

短歌|井上法子

孤高 顔のない鴎がきみを連れてゆく夕まぐれ もう泣き止んでいる にんげんは自分をせいいっぱいに好き。母父(おもちち)の小火のような微笑み 水はひかりに追い詰められて耀けり(気がするだけの賢さだ、まだ) 夕映えにひそむさみどりおもかげはおぼつかなくてあまりに無力 記憶はいつだって好き勝手あかねさすことのはも命運もやくたたず もう一度きり瞬いて花びらを、せめて香りを抱きとめて  ゆけ 陽に透かす血のすじ どんな孤独にもぼくのことばで迎え撃つだけ

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7
短歌|野口あや子

短歌|野口あや子

水煙草 見つめたるのちのあなたの目のゆらぎ 風に混じるがごとく光って 水煙草ゆっくり吸って吐き出せばうすもののごとたゆたう煙 クッションをいくつも積んで膝頭緩めて語る小説のこと ココナッツの炭をトングで返すときの短く切った爪のセクシャル ロングシャツ揺らがせなびかせ揺蕩わせまだどうとでもとれる言葉を 中東の男権社会を語りつつ二人で吸って混ぜる吐息を らんぷ洋燈 手を伸ばしたら叶いそうなことをあなたはまた思わせる

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