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不思議な糸に導かれ|藤原正彦「古風堂々」

不思議な糸に導かれ|藤原正彦「古風堂々」

文・藤原正彦(作家・数学者) 小学校4年生の春、新しい図画工作の先生が着任した。強い天然パーマとギョロ目が特徴の、やせて颯爽とした27歳の美青年だった。3年生以上がこの先生に習うのだが、瞬く間に学校一の人気者となった。母親譲りの不器用で図工の成績はいつも5段階の2という私でさえ、週に1度、2階建て木造校舎の1階西端にあった図画工作室へ向かうのが楽しみだった。 話が抜群に面白かった。十八番は二等兵物語だった。終戦直前にしばらく陸軍にいた先生の、ユーモアたっぷりの語り口に私達

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新連載小説「ミス・サンシャイン」#1|吉田修一

新連載小説「ミス・サンシャイン」#1|吉田修一

今月から、吉田修一さんの新連載小説『ミス・サンシャイン』を配信します。お楽しみください。 梅とおんな  立派な石垣である。ちょっとした城壁の構えである。門の両脇に鎮座する厳(いかめ)しいソテツなど、金剛力士の阿形像と吽形像みたいである。  この奥に、目指す「パレスマンション」があるのは間違いないのだが、往生際悪く、「本当にここかなぁ」と、岡田一心は石垣のまえを行ったり来たりしている。  一心などと聞くと、実家が浄土真宗の寺かなにかで、将来は坊さんにでもなるのだろうかと

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