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文藝春秋digital

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#文藝春秋2021年1月号

文藝春秋digital読者の皆さまへ、編集長より最後のお願い【「文藝春秋 電子版」1年無料プランのご案内】《このキャンペーンは終了しました》

5月31日、「文藝春秋digital」はクローズいたします。 これまで「文藝春秋digital」をご愛読いただきまして、誠にありがとうございました。 先にもお知らせした通り、月刊文藝春秋のサブスクリプションは「文藝春秋 電子版」に一本化します。これまで「文藝春秋digital」をご愛読いただいた皆さまには、突然のお知らせになったことを、改めてお詫び申し上げます。 「文藝春秋digital」のサービスが終了しますと、6月から皆さまに最新記事をお届けできなくなってしまいます

ニューヨーク・タイムズ、デジタル版の契約増 愚直に果たした「本来の役割」|浜田敬子

この1年間で、ニューヨーク・タイムズが約200万件も契約を増やしたという。タイムズに限らず、ワシントン・ポストなど米メディアが好調な理由は、一体何なのだろうか。(文・浜田敬子/ジャーナリスト) 【選んだニュース】NYT契約数、1年で200万件増(5月7日、朝日新聞) 浜田敬子さん ◆ ◆ ◆  先ごろニューヨーク・タイムズがこの1年間で、約200万件も契約を増やしたと報じられた(朝日新聞ほか)が、日本の新聞関係者はこの報道をどんな気持ちで見つめただろう。  この1年

コロナ下で読んだ「わたしのベスト3」 疫病というメタファー|手嶋龍一

コロナ・ウイルスは、尊い人命を奪い去り、大統領選びにも影を落として合衆国に深い亀裂を生じさせた。南北戦争の危機に直面したリンカーンは「分かれたる家は立つこと能わず」と訴え、祖国の分裂を避けるためなら、至高の信念である奴隷解放の歩みさえ遅らせた。だが、異形の大統領トランプは、リンカーンの国を「2つのアメリカ」に塗り替えてしまった。 西側の盟主アメリカは、ケナンを擁して壮大な対ソ戦略を立案させた。『ジョージ・F・ケナン回顧録』は、対ソ封じ込め戦略を提唱した戦略家の一瞬の栄光とそ

コロナ下で読んだ「わたしのベスト3」 民主主義を考え直す力作|出口治明

1.岡本隆司他「シリーズ 中国の歴史」 中国は理解の難しい国である。しかし、わが国は輸出も輸入も中国が第1位であって、中国を抜きにして豊かな生活がおくれないこともまた自明である。好き嫌いは別にして、等身大の中国を理解し、上手に付き合う術を身につけなければならない。人を理解するには先ず履歴書を見るように、国を理解するにはその国の歴史を紐解く必要がある。このシリーズは、わずか5巻で中国四千年の歴史を骨太に描き切った出色の出来栄えだ。歴史学の新しい研究成果を十分に踏まえて、大きな

コロナ下で読んだ「わたしのベスト3」 詐術としての音楽小説|片山杜秀

音楽は時間だ。音楽を味わうには時の推移を記憶せねばならない。3分のポップ・ソングなら、うまく最初から覚えて最後まで聴き通せるかもしれない。しかしマーラーやブルックナーの1時間以上掛かる交響曲だとどうか。30分聴いたところで最初の1分を思い出せるか。至難の業だ。たいてい混乱する。忘却している。記憶の捏造も容易に起こる。聴いたのと違う旋律を覚えたつもりで口ずさんだりする。したがって上手な音楽小説とは、音楽をネタに用いつつ、記憶の関節を外し、夢とうつつ、生者と死者、本物と贋物の区別

コロナ下で読んだ「わたしのベスト3」 新しい読書のしかた|梯久美子

昨年秋に移り住んだ札幌では新型コロナの感染拡大が一足早く始まり、長いステイホーム期間を過ごすことになった。これから取材するテーマに関する本など読むべきものはたくさんあったが、いざ時間ができると手が伸びない。何を読んでいたかと言うと、もっぱら旅行記である。 河口慧海『チベット旅行記』は、漢訳の仏典に満足できず、1897年、原典を求めてチベットに旅立った僧侶・慧海による旅行記(というより探検記)だ。当時のチベットは鎖国中で、慧海は徒歩でヒマラヤを越え、密入国を果たす。首都ラサで

コロナ下で読んだ「わたしのベスト3」 生きることの不可思議さを想う|角幡唯介

このところ毎年のように冬から春にグリーンランド北部で長期間の探検旅行をしている。コロナ禍の今年もそれは変わらず、3月から5月まで2カ月近く犬橇で氷原を放浪していた。探検中は停滞時の暇つぶし用に文庫本を必ず何冊か持参するが、今回は古井由吉『辻』。非日常的な空間のなかで、日常的な人と人との関係の愛おしさや普遍性を表現する文章に触れるたびに、日本に残した家族のことを思い出し、また、偶然という脆く、儚い契機に左右される人生の不可思議さに考えをめぐらせた。 しかしそれにしても、この本

コロナ下で読んだ「わたしのベスト3」 千年をかける人間の営み|本郷恵子

朝廷の儀礼や作法に関する前例・知識は、平安時代以来大切に伝えられ、参照されてきた。これらの総体を「有職故実(ゆうそくこじつ)」と呼ぶ。平成から令和への代替わりで用いられた装束や調度品は、いずれも有職故実にのっとった有職文様に飾られていた。幾何学的なデザインや独特の色使いに目を奪われた方も多いだろう。『有職文様図鑑』は、桐や竹、鳳凰や鴛鴦(おしどり)などの動植物が、いかにして文様化され、生活や儀式に用いられたかを、全編カラーで体系的に示してくれるものだ。自然や季節と、源氏物語か

コロナ下で読んだ「わたしのベスト3」 戦争・五輪・コロナ|武田徹

矢継ぎ早に刊行されたコロナ関係書の中では山内一也『ウイルスの世紀』が白眉だった。新型コロナウイルスに関する記述はそう多くはないが、日本を代表するウイルス学者が過去の研究や感染症対策史について書いてきた蓄積と接続されることで、歴史的な遠近感の中で現在のコロナ禍を顧みられる。 SARSなど過去の感染症経験を生かして対策を構築していた国は新型コロナに勝利し、日本を含めてそうではない国は無残に失敗している。歴史から学ぶ真摯さの欠如こそ感染症に対する最大の脆弱性となることが本書を読む

コロナ下で読んだ「私のベスト3」 中国SF恐るべし|池上彰

新たな感染症の拡大を見ると、人間とは失敗を繰り返すものだなと痛感します。そこで手に取ったのがトム・フィリップス著、禰冝田亜希訳の『とてつもない失敗の世界史』です。 旧ソ連はアラル海に流れ込む川の流れを変えて砂漠で綿花を栽培しようとしました。その時点ではいいアイデアに見えたのですが、川の水が流れ込まなくなったアラル海は、みるみる小さくなり、消滅寸前。新たに塩分濃度の高い砂漠が出現し、砂嵐によって周辺住民の呼吸器を侵すことになりました。 オーストラリアに植民したイングランドの

コロナ下で読んだ「わたしのベスト3」 希望を見出せるリアルな記録|佐久間文子

新型コロナウイルスの感染が広がり、発生源とされる中国の武漢が都市封鎖されるなかで、武漢市の女性作家がブログで封鎖下の日常を発表、それが全世界で読まれているというニュースは、ひとつの希望だった。 翻訳が出てすぐその『武漢日記』を入手し、想像した以上に人びとの苦難をリアルに伝え、官僚による人災的な側面を率直に批判しているので、「ここまで書けるのか」とびっくりした。もちろん「ネット検閲官」による削除や閉鎖、日本でのネトウヨにあたるらしい「極左」の激しい攻撃にも遭っているが、一歩も

コロナ下で読んだ「わたしのベスト3」 創造と共感|平松洋子

2020年春。ウィルスのパンデミックにさらされ、世界中が硬直した恐怖を長く記憶に留めておきたい。日本で緊急事態宣言が発出された4月7日、さまざまな仕事に就く77人に日記を依頼し、『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』が編まれた。発売は6月30日。書店の棚で見つけ、飛びつくようにして開くと、77の複雑な感情が渦巻いていた。50代のミニスーパー店員は、お客に釣銭をトレイに置けと無言で指示され、「お前が買ったのは、缶コーヒー一つだ。ならば自販機へ行け!」と胸中で毒づき、「自分が思って

コロナ下で読んだ「わたしのベスト3」 今後の「生き方」を考える|本上まなみ

コロナ禍で手に取った本は、人生、生き方について書かれているものが多かった印象があります。 『なぜ、生きているのかと考えてみるのが今かもしれない』。国によって対応の仕方も千差万別だった第1波。国内状況と比較するため海外の情報を知りたくてネットで調べるうちに、著者のサイトに。ロックダウン下のパリで高校生の息子との生活を綴った日記。緊迫した日々の生活描写と、客観的に日本を見つめる視点が新鮮で、自粛期間中の心の支えになっていました。無心に豚まんの生地を捏ね、蒸したてを息子に食べさせ

コロナ下で読んだ「わたしのベスト3」 まな板の上から考える|中島岳志

多くの専門家が指摘しているように、コロナウイルス拡大の背景には、環境破壊の問題がある。行き過ぎた自然破壊によって、これまで接触機会のなかった動物に接近し、ウイルスが人間に引っ越ししているのだ。ウイルスにとって人間は、都合のいい乗り物である。人間は移動し、社交する。そのため自己増殖のチャンスが頻繁に訪れる。私たちは、真剣に環境問題と向き合い、生活様式を見つめ直さなければ、繰り返しパンデミックに襲われるだろう。未知のウイルスが、もう次に控えているのだ。 しかし、環境問題は遠い。