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春の缶詰|朝吹真理子

春の缶詰|朝吹真理子

文・朝吹真理子(作家) 人間に会えない寂しさが募っているせいか、今年は、特に、花になぐさめられている。散歩をしながら、梅も、桜も、木蓮も、みつけると嬉しくなって、眺める。マスクをずっとしているからか花粉症がましな気がするが、気のせいかもしれない。いつもはソメイヨシノがたくさん咲いていると、花に人が取り憑かれているようにみえて不気味に思うのに、今年はじぶんも率先して春の花々に取り憑かれた。花は感染症もまるで関係ないように咲いて散るので安心する。家の前のソメイヨシノが咲き始める

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缶詰部屋にて――阿部智里

缶詰部屋にて――阿部智里

文・阿部智里(作家) 「缶詰」と聞けば、世の多くの人は金属の容器に密閉された加工食品を思い浮かべるだろう。だが、進捗の思わしくない原稿を抱えた作家にとって、「缶詰」とは締め切り前に行われる軟禁のことを意味する。そして天下の文藝春秋社には、「執筆室」という缶詰専門の部屋が存在しているのだ。  かの立花隆先生がコンロを持ち込んで鍋をしたという伝説を持つその部屋は、パッと見、ホテルの一室のようだ。ユニットバスにベッド、冷蔵庫やテレビまである。清掃の人も入ってくれるし、ホテルと違

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