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『文藝春秋digital』2022年6月ラインナップ

■会員限定イベント●6月8日(水) ・新庄剛志「薬物使用」の過去 抜き打ち検査で「陽性」も、詳細は伏せられ、その年に引退―― 鷲田康(ジャーナリスト)+本誌取材班 ●6月10日(金) ・プーチンが最も殺したい男の告白 M・ホドルコフスキー(オリガルヒ・石油会社「ユコス」元代表)「ウクライナ侵攻は彼の個人的な動機から始まった」 ・「性暴力」私は負けなかった 卜田素代香(仮名)「暴行後『証拠が残るからシャワーを』と男が強いてきました」 ・新連載 外事警察秘録②「日本赤軍との闘い

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西川美和 ハコウマに乗って15 こわれる

こわれる宇宙戦争も、隕石衝突も、大災害も、あらゆる惨事はハリウッド映画で観ることができる。映像技術の躍進は目覚ましく、動物が痛めつけられる場面、建物が破壊され、森が焼きつくされる場面、銃弾を浴び、人の手足がちぎれる場面など、かつては実物への仕掛けに頼らざるを得なかった危険な描写を、一切の犠牲なしにCGで再現できるようになった。 だから私たちは知っている。どんなに危険な場面でも、これは嘘なんだと。お化け屋敷と一緒である。怖いけど、本物じゃない。誰も傷つかない。しかも最後は、そ

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西川美和 ハコウマに乗って13 めぐるあのはる

めぐるあのはる11年前の震災の時、私は実家のある広島に長逗留して小説を執筆していた。東京のアパートは食器が割れたり本棚が倒れたりとそれなりに散らかったが、本震の揺れと恐怖は体験していない。それは本来幸運なことなのだけど、帰宅難民になったりインフラの麻痺や原発爆発の渦中にある人々に比べて自分は、1人だけずるをして得しているような後ろめたさを感じていた。混乱と不安の渦巻く東京に帰る必要などないのに、帰らねばならないのではないか? と焦燥を募らせた。物書きとしてのジャーナリズム精神

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西川美和 ハコウマに乗って12 そういうもの?

そういうもの?この仕事につく以前、私には映画関係の知り合いは1人もなかった。映画や写真や音楽にのめり込んでいた大学時代の仲間も、4年生になると出版社や鉄道会社や商社に就職を決めていったが、私は1人「映画の仕事をしてみたい」と青臭い夢に浸りつつ働き口を探していた。 そんな折、故郷の父が通う床屋の息子が映画会社で撮影助手をしているという話を聞いた。クラスの中でも物静かだったO君が、大きなキャメラを担いで撮影現場に立っているとは意外だった。床屋には巨匠キャメラマンの傍らに立つO君

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黒澤明 「お前は白紙でいい」 加山雄三 100周年記念企画「100年の100人」

日本が世界に誇る映画監督・黒澤明(1910~1998)。代表作の「椿三十郎」と「赤ひげ」で、三船敏郎が演じる浪人や町医者に導かれて成長する青年に扮した加山雄三氏は、俳優を辞めようかと悩む自分を、役柄にだぶらせていた。/文・加山雄三(俳優・歌手) 加山さん 「椿三十郎」で初めてお会いしたとき、25歳だった僕に黒澤さんは言いました。 「お前は白紙でいいからな。余計なことをやろうとするな」 監督が自由に絵を描くから、という意味です。よく「おい、生まれっ放し」と呼ばれたもので

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西川美和 ハコウマに乗って11 ついのふうけい

ついのふうけい実家の隣に暮らす96歳の伯母は、認知症の影響で新しい情報をほとんど覚えられないということを以前紹介させてもらったことがある。 普通に会話でき、長く体に染み付いた日常生活は几帳面に送れるが、私が帰省した折は、表で会うたびに「あら! 帰ったの?」と毎日驚き、かかさず新聞を読み、1日中テレビをつけっぱなしにしていても、「コロナ」という新語が本人の口から発されることはなかった。 その伯母が今年の4月、余命半年と診断され、宣告にほぼ狂いなく先日亡くなった。子供がなく、

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西川美和 ハコウマに乗って10 もしもしわたし

もしもしわたし夜更けにふと、用もなく人に電話をできますか。気がつけばそんな習慣を忘れていた。前触れもなく相手の時間に飛び入りすることに不躾さを抱くようになったのは、私だけではないと思う。「電話していい時間はありますか」と事前にアポを取る時代だ。まだ会社だろうか、子供を寝かしつけているだろうか、メールの返信に追われている頃だろうか。みんな互いの時間をひどく大切にしている。 夏の間実家に帰っていたら、後期高齢者枠に入った父母はたびたび親類や友人と電話することに気がついた。思い立

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西川美和 ハコウマに乗って 9 あなたさん

あなたさんいつまでたっても人とゆっくり会えないし、飲み屋は開かないし、私のようなウワバミはすっかりひしゃげてしまった。もう街の灯など忘れよう、と繰り出したのが山。書き物の仕事の区切りがつくと山に行き、息を切らして歩くのだ。より高い山を目指すような意気はないけど、肉体の苦しさは、楽しさと同じだけ連続してきた日常を忘れさせてくれる。 広島の自宅から近い400メートル超の山に登ってみたら、数年前から頻発する豪雨災害で道は崩れ、大きな木が根こそぎ倒されていた。登り切ると市内が一望で

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西川美和 ハコウマに乗って8 スウィングきらり

スウィングきらりなんにせよスポーツについて考える機会の多い夏だったが、私は先日、野球選手を目指す小学6年生という設定で、一人の少女をテレビCMに起用した。 同級生が中学受験に備えて塾に通ったり夜遅くまで勉強するのをよそに、プロを目指してひたすら練習している。父親は娘の夢を応援しつつ、現実は甘くないと内心葛藤している——父が放り上げる球を、少女のバットが鋭くミートする場面を書いた。これをごまかしなしにやれるのは、野球経験のある子しかいない。 けれど子役のオーディションは骨が

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濱口竜介 カンヌより

文・濱口竜介(映画監督) カンヌ国際映画祭には3年ぶりの参加でしたが、パンデミックの最中でも、熱気は以前とさほど変わりませんでした。コンペティション部門で、私の作品が上映されたときは、客席はほぼ満席で歓声が湧き、日本人の私の感覚からすると、少し怖く思えるほどでした。 村上春樹さんの原作を映画化した『ドライブ・マイ・カー』が私にとっては2度目のカンヌ映画祭、コンペティションへの出品でした。結果として、東京藝術大学大学院で私の先生だった黒沢清監督が受賞されて以来、20年ぶりの

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西川美和 ハコウマに乗って7 ゆきのしわざ

ゆきのしわざテレビCMの仕事で、子供の中学受験を撮ることになった。企画したのはクライアント企業の男性で、2人のお子さんが都内の有名進学校を受験したそうだ。 「僕の周辺の親には3つのタイプがいます。一つは自身も高学歴で、将来良い人生を送るために中学受験は不可欠、と信じている部類。2つ目は、子供は好きなことを見つけて生きていくべきで、やりたいことを優先させたい、というタイプ。もう一つは、学歴が全てではないが、好きなことで我が子が成功するかは不安。受験させるべきか、でも遊びの時間

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西川美和 ハコウマに乗って6 ぼたんちりゆく

ぼたんちりゆく2012年ロンドンオリンピックの開会式映像では、バッキンガム宮殿にジェームズ・ボンドが乗り込んで、本物のエリザベス女王をヘリでエスコートしていたなあ。最後は女王自らユニオンジャックのパラシュートで会場に降り立つトリッキーな演出付き。五輪の開会式にあんな風に国を挙げての祝福ムードが存在したなんて、今ではおとぎ話のよう。6代目ボンドのダニエル・クレイグもシリーズ引退を決意し、最終章となる新作タイトルは「NO TIME TO DIE」。〈死んでる暇もない〉はずなのに、

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西川美和 ハコウマに乗って5 なつのけはい

なつのけはい都内在住8歳の甥が、スマホ越しに『ズッコケ3人組』を音読してくれる。 「すごい早いから、聞いてて」 まるで見習い落語家の「じゅげむじゅげむ」。早口すぎて内容も面白さもさっぱりだ。こんな朗読じゃ先生にも褒められないだろう。あくびを噛み殺しつつしみじみ思う。正月も大型連休も親族で集まれなかったけど、無双のネット回線がある。電話代の無駄だからもうやめなさい、と言わなくていい時代。豊かなものだ。 「だけどそんなスピードで読んだんじゃすぐ読む本がなくなるでしょ」 「

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西川美和 ハコウマに乗って4 あおばのみち

あおばのみち私は、思春期の男性について知らない。 女子だけの中学と高校に通ったせいで、その年頃の異性たちと身近に過ごす機会を失ったままになったのだ。大人になればさらに彼らとの接点は遠のき、電車やファストフード店で、グループでつるみながら一言も会話せずゲームする姿を眺めるたびに、謎はつのる。彼らのノリ、こだわり、主義思想、まるでわかってない。ウィークポイントと言ってもいい。 そんな私に、ある男子高校から映画のティーチ・インをしてほしいというオファーがあった。「ティーチ・イン

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