文藝春秋digital

本郷恵子さんの「今月の必読書」…『チャイニーズ・タイプライター 漢字と技術の近代史』

本郷恵子さんの「今月の必読書」…『チャイニーズ・タイプライター 漢字と技術の近代史』

漢字とアルファベットをめぐる技術の変遷はじめてワープロ専用機を買ったのは、1986年だったと思う。値段は20万円以上で、当時大学院生だった私には、かなり勇気のいる買い物だった。キーボードで入力した文章が、きれいな活字になって打ち出されると、ひどく立派なことを成し遂げたような気がしたものだ。 初期のワープロで苦労したのが漢字への変換である。いちいち時間がかかるうえに、使用頻度が低いJIS第2水準の漢字群については、必要になるたびに専用のフロッピーディスクをセットして、わざわざ

スキ
3
角幡唯介さんの「今月の必読書」…『ガリンペイロ』

角幡唯介さんの「今月の必読書」…『ガリンペイロ』

アマゾンの奥地で一攫千金を夢見る無法者たち自分が生きている意味や経験を、現実の何かに置き換えることは可能だろうか。山や極地を旅すれば、その間は生きていることを実感できる。でも、その時間は永久にはつづかない。最近では移動や狩りでつながった大地こそ、人間存在の根源的帰属先では? と考えるようになったが、かといって完全に自信があるわけではない。それを探求するのが人生の唯一の仕事だとわかっていながら、ずぼらなので手っ取り早くその答えを知りたいとも思う。 と、そんな折に本書を読み、ふ

スキ
11
角田光代さんの「今月の必読書」…『つまらない住宅地のすべての家』

角田光代さんの「今月の必読書」…『つまらない住宅地のすべての家』

逃亡犯が住宅地にもたらす「爆発」ページを開くと、小説の舞台である「つまらない住宅地」の地図と、住人の名字、何人暮らしかが書いてある。「笠原家……75歳の妻と80歳の夫の2人暮らし」といった具合に。 小説は、この一角に住む人たち、それぞれの視点に切り替わりながら進む。冒頭で、この町に逃亡犯が向かっているらしいことがわかる。2つ隣の県の刑務所を脱獄したのは、勤め先から横領をした36歳の女性で、この住宅地近辺の出身らしい。住人たちは、テレビやインターネットや学校や職場で事件を知り

スキ
12
片山杜秀さんの「今月の必読書」…『書き取りシステム1800・1900』

片山杜秀さんの「今月の必読書」…『書き取りシステム1800・1900』

分裂したロゴスの中に読み解く近代の病理「はじめにロゴスありき」。『新約聖書』の「ヨハネによる福音書」の冒頭である。古典ギリシア語のロゴスをドイツ語で何と訳すか。ゲーテの戯曲『ファウスト』でファウスト博士は苦悩する。ロゴスと言えば普通は論理と訳すかもしれない。論理は必ず言葉で表現されるから、論理的な言葉と訳した方が丁寧とも言える。でも、それではもの足らない。だって福音書なのだから。 キリストの言葉、即ち福音は、十分に論理的でもあるが、決して冷たく形式的ではない。愛に満ちている

スキ
2