マガジンのカバー画像

文藝春秋digital

一流の作家や知識人、ジャーナリストによる記事・論考・ルポルタージュなどを毎日配信。執筆陣のオンラインイベントも毎月開催中。月額900円で記事が読み放題&イベント見放題のサービスで… もっと読む
月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に幅広いテーマの記事を配信しています。政治家や経営者のインタビュ… もっと詳しく
¥900 / 月
運営しているクリエイター

#文藝春秋2021年12月号

新聞エンマ帖〈報道にもの申す〉

★「誤報」の落とし前をつけろ新聞が特報風に書くことはまず間違いと疑ってかかる方が安全だ。うっかり真実と信じ込むと、後で馬鹿を見るのは読者の方である。そんな自己防衛策を講じなければならないほど、わけても政治報道における最近の誤報ぶりは酷い。 例えば、岸田文雄新首相の最初の仕事だった組閣人事と衆院選の投開票日の決定を巡る報道である。典型的な誤報を3例挙げると——。 ・「自民党の岸田文雄総裁は萩生田光一文科相を官房長官に充てる方針を固めた」(朝日新聞デジタルの速報、9月30日夕

スキ
3

スターは楽し ティルダ・スウィントン|芝山幹郎

ティルダ・スウィントン ©UPI=共同 100の顔を持つ魔物30年ほど前のことになる。ロンドンのナイツブリッジにある小さな映画館で、私は『オルランド』(1992)を見た。ケンジントン・ロードをはさんで反対側にあった〈真珠飯店〉という小綺麗な中華料理屋は覚えているが、映画館の名があやふやだ。もしかすると、〈インペリアル・シネマ〉だったかもしれない。 そこで見た『オルランド』が記憶に残りつづけている。映画の主人公は400年の時空を超えて生きる。16世紀の英国に生まれたハン

スキ
4

名古屋の実家 フィフィ

著名人が父親との思い出を回顧します。今回の語り手は、フィフィさん(タレント)です。 名古屋の実家数ヶ月前、名古屋の実家を売った。私たち家族が30年以上住んだ家。母はエジプトと日本を行ったり来たりの生活だったので、最後は父だけが独りで住んでいる状態だった。 その父も6年前に他界して、それからはほとんど誰も使っていない状態だった。ただ、外国人が所有している不動産を売る時は、日本の法律ではなく、所有者の国籍の法律に合わせなければいけなくて、これが司法書士さんを苦労させた。エジプ

スキ
10

文化大革命で見た姿 毛丹青

著名人が母親との思い出を回顧します。今回の語り手は、毛丹青さん(作家・神戸国際大学教授)です。 文化大革命で見た姿2020年4月8日、北京に住む母、劉志琴が病気のため死去した。その頃、新型コロナの世界的な感染拡大が始まり、日本と中国を結ぶ飛行機や客船は全面停止に。私は中国に渡れず、母の最期を看取ることが出来なかった。 最後の会話は亡くなる2週間前。携帯電話のテレビ通話を通してのものだった。通話の最後に、母は私に「你好、我就放心了」と。あなたが元気なら、私は安心です。それが

スキ
12

世界経済の革命児 ヒー・シャオペン(小鵬汽車創業者)|大西康之

ジャーナリストの大西康之さんが、世界で活躍する“破格の経営者たち”を描く人物評伝シリーズ。今月紹介するのは、ヒー・シャオペン(He Xiaopeng、小鵬汽車創業者)です。  ヒー・シャオペン ©時事 巨人テスラに立ち向かう中国EV界三英傑の一人「ローマは一日にしてならず。(ネット大手の)アリババ、テンセント、(通信機器大手の)ファーウェイも数々の苦難を経て今日がある。今日は一番悪い日で、明日が新たなスタート。ある節目だけを捉えて結論を出すべきではない」 2019年10

スキ
4

『くらしのアナキズム』著者・松村圭一郎さんインタビュー

〈国ってなんのためにあるのか?〉本書が冒頭から投げかけるこの問いを、漠然と心の中に抱いていた人も多いかもしれない。大地震や豪雨災害、そしてパンデミック。近年、私たちは生活を脅かす困難に何度も直面してきた。こうした想定外の事態が起きて行政が麻痺すると、国家は頼りなく感じてしまう。 本書は、日本民俗学の祖・柳田国男から昨年『ブルシット・ジョブ——クソどうでもいい仕事の理論』が話題となった人類学者デヴィッド・グレーバーまで、幅広い知見を丁寧に読み解きながら、国家に頼らない社会のあ

スキ
9

片山杜秀さんの「今月の必読書」…『鷹将軍と鶴の味噌汁 江戸の鳥の美食学』菅豊

日本人の“鳥肉食文化”の小百科全書能に『善知鳥』なる演目がある。ウトウと読む。鳥の名という。シテは奥州の外ヶ浜の猟師の亡霊。「善知鳥を獲り続けた罪で、あの世で自分は雉にされ、善知鳥の化けた鷹に狩られている」と語り、地獄の責め苦を見せる。『善知鳥』の物語は文楽や歌舞伎の『奥州安達原』にも応用されている。善知鳥文治という侍が、禁制の鶴を密猟し、酷い目に遭う。 どちらも、殺生を悪とする仏教のおしえを踏まえた、鳥を巡る因果応報譚だろう。そんな物語が、能なら室町時代、文楽や歌舞伎なら

スキ
2

大相撲新風録 琴ノ若|佐藤祥子

琴ノ若、千葉県松戸市出身、佐渡ヶ嶽部屋、23歳 親子3代、相撲の申し子がみる夢祖父は元横綱の琴櫻、元関脇の琴ノ若を父に持つ期待の新鋭が、2代目琴ノ若だ。父譲りの懐の深さと、188センチ165キロの恵まれた体躯を持つ琴ノ若は、角界きってのサラブレッドとして、その将来が嘱望されているひとりだ。 先の秋場所は自身最高位の前頭三枚目まで番付を上げ、上位陣に初挑戦する場所となった。膝をケガして10日目から無念の休場となるも、7日目の新横綱・照ノ富士との結びの一番では、一瞬、横綱

スキ
3

本郷恵子さんの「今月の必読書」…『動物たちの家』奥山淳志

人間と動物、その儚い関係を綴る私は猫派である。猫が主人で、私は下僕。猫が好き放題にしていてくれれば、私も気が楽だ。だが犬との関係は楽ではない。けなげな目でひたと見つめられ、全身で無償の忠義を示されたら、どうしていいかわからない。犬の一途な魂にみあうほどの器量を、たいていの人間は持っていない。ああ、犬は切ない。 著者は1972年生まれ。4歳の時に、大阪の公営団地から奈良の新興住宅地に移り、そこで犬や、そのほかの生き物たちとの生活が始まった。「全身を毛や羽で覆われた温かで小さな

スキ
5

角幡唯介さんの「今月の必読書」…『ハテラス船長の航海と冒険』ジュール・ヴェルヌ著 荒原邦博訳

北極点を目指した英雄の夢と実像『海底二万里』などで有名なジュール・ヴェルヌによる極地探検小説の初の完訳本である。ロマンあり、サバイバルあり、部下の反乱ありで、19世紀の極地探検の世界像をまるごとつめこんだ贅沢すぎる作品となっている。 作品は2部構成だ。第1部は実際の歴史をふまえた、とても実証的な筋の話である。19世紀の北極探検の主役は英国海軍の探検家たちだ。1840年代に彼らはフランクリン隊の大遭難をひきおこすが、その行方を探すために派遣された多くの隊により地理的解明が一気

スキ
2

角田光代さんの「今月の必読書」…『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』サリー・ルーニー著 山崎まどか訳

「ありがち」の対極にある青春恋愛小説語り手のフランシスはトリニティ・カレッジに通う21歳の女性で、詩作にすぐれている。高校時代の同性の恋人、ボビーと別れてはいるものの今も親密で、2人でスポークン・ワードのパフォーマンスをしている。その活動によって知り合った30代の夫婦、俳優のニックとジャーナリストのメリッサと親交を持つ。顔立ちのうつくしいニックとフランシスは恋に落ち、ボビーはメリッサに惹かれていく。 あらすじにすると、ありがちな青春恋愛小説みたいで、そのことに私自身がびっく

スキ
15

数字の科学 匂い受容体の種類 佐藤健太郎

サイエンスライターの佐藤健太郎氏が世の中に存在する様々な「数字」のヒミツを分析します。 匂い受容体の種類=350~400種類新型コロナウイルス感染による、嗅覚障害が問題となっている。多くの場合、治癒とともに嗅覚も回復するが、中には匂いをほとんど感じない状態が半年以上続くケースもあるという。嗅覚が失われる理由は、まだ十分に解明されていない。 実をいえば、嗅覚というもの自体の研究が、あまり進んでいるとはいえない。有り体に言えば、視覚や聴覚ほどなくても困らない感覚であるため、研

スキ
5

日本語探偵【ら】「ら抜きことば」がスタンダードになる日 飯間浩明

国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです。 【ら】「ら抜きことば」がスタンダードになる日新型コロナウイルス関連のニュースにかき消され、あまり話題になりませんでしたが、9月下旬に「国語に関する世論調査」の結果が公表されました。文化庁が毎年度行っている調査です。 調査の目玉は「不要不急」「コロナ禍」などのコロナ関連語がどの程度定着しているかというものでした。でも、私の関心はそこにはありませんでした。私が注目したのは、報告書の後半にある「ら抜

スキ
12

詩 松下育男

羽ばたくようにすべり台の上に 商店街があった 毎日少しずつ 商品の位置がずれてゆく 瓶詰めだって 足を踏ん張っている 鳥カゴの中にも 商店街があった 人が寝静まったあと カゴの網目越しに 小さな街灯がともり 羽ばたくように 店が開く

スキ
3