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宿敵|田中慎弥

宿敵|田中慎弥

著名人が母親との思い出を回顧します。今回の語り手は、田中慎弥さん(作家)です。 宿敵いまに至るまで、母は私の小説を、なんだか難しい、よく分らない、と言うばかりで一度も誉めたことがない。考えてみれば、難しい、というのはいわゆる純文学に対する世間一般の、感想でもあり批判でもあるだろう。母はそういう、世間一般の人間だ。ごく若い頃から世の中に出て、真面目に、まともに働き、自分の人生を作り上げてきた。その母から見れば、高校を卒業して以降、進学も就職もせずにぶらぶらし、親の金で本を買っ

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令和元年のその後|津村記久子

令和元年のその後|津村記久子

文・津村記久子(作家) 去年の令和元年はひどかった。というか令和元年という文字を入力するのは仕事も私用も併せてこれが初めてだ。「令和」も初めてかもしれない。普段は西暦しか使わないということもあるのだが、改元のただ中で嫌なことばかり起こったため、令和元年の個人的なイメージはすこぶる悪い。だから口にするのも書くのも嫌だった。でも「令和2年」は特に抵抗がないので、とにかく「令和元年」が嫌だったのだろう。 そういうわけなので、年が明けた時の解放感はかなりのものだった。終わった! 

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葬儀とチャラ男|絲山秋子

葬儀とチャラ男|絲山秋子

文・絲山秋子 (作家) 人間は物語をつくり、そのなかで生きている。たとえば「もてたい」と思っただけで、その人の頭のなかで幾多の物語が立ち上がる。儲け話や人気者になる物語もあれば、気にくわない人にぎゃふんと言わせる物語もあるだろう。悲しみに寄り添う物語、ピンチを克服し一発逆転に成功する物語もある。 私たちは生きている限り予想外の事象と出会う。のっぴきならない状況に陥ることもある。そのたびに自分が出演する物語が頭のなかで更新さ

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自著映画化始末――南木佳士

自著映画化始末――南木佳士

文・南木佳士(作家・医師)  昭和が終わる年の1月に第100回芥川賞を受賞した。すると、すぐに映画化の話が持ち込まれた。自作が映画になるなんて夢のようだな、と素直に喜んだ。大手映画会社のプロデューサーや脚本家と信州の貧相な病院住宅で会い、妻の手料理と地酒でもてなし、主演女優はだれがいいか、などと盛り上がった。その後、脚本は完成したが、撮影開始の話はいくら待っても来ず、やがてこちらも地方勤務医の医業に加えてプロとしての小説書きの無理がたたり、心身絶不調の状態に陥った。  こ

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俳句――川上弘美【全文公開】

俳句――川上弘美【全文公開】

大目玉 群青に心冷えゆく夜なりけり 巻貝のうつろ聴きをる良夜かな 良夜なり太郎と次郎寝相似て 冷(すさ)まじや鰐の上(へ)渡り来しものも 肌寒やしやぶりて魚の大目玉 ばれをるも使ふ居留守や目白鳴く 車輛中すべて他人や秋深む 【編集部よりお知らせ】 文藝春秋は、皆さんの投稿を募集しています。「#みんなの文藝春秋」で、文藝春秋に掲載された記事への感想・疑問・要望、または記事(に取り上げられたテーマ)を題材としたエッセイ、コラム、小説……などをぜひお書きください。投

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