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徹底研究 イップスの正体~アスリートを襲う「奇病」|中村計

徹底研究 イップスの正体~アスリートを襲う「奇病」|中村計

緊張か、技術不足か、それとも脳の障害か――。/文・中村計(ノンフィクションライター) 簡単な動作が突然できなくなる単なる緊張とは、明らかに種類が違った。 「全く手が動かなかった」 プロゴルファーの尾崎将司は「魔の時」をそう思い起こす。 1988年、東京ゴルフ倶楽部で開催された日本オープンゴルフでのこと。これを決めれば優勝という、「ウイニングパット」だった。 ピンまで、残り約70センチ。小学生でも決められそうな距離だ。ところが尾崎は、構えるたびに顔をしかめ、手首を振っ

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イップスの正体|#6 北方悠誠(プロ野球選手)

イップスの正体|#6 北方悠誠(プロ野球選手)

クリーム色を基調としたスカイブルーとオレンジのユニフォームは、どこかニューヨーク・メッツを想起させた。2011年夏、唐津商業は、27年ぶりに甲子園に戻って来た。その原動力となったのが、当時、「150キロ右腕」と騒がれていた剛腕・北方悠誠である。 甲子園では2回戦で作新学院に2-3と惜敗するも、しなやかで、力強いフォームから投じられるストレートは鮮烈な印象を残した。 北方は、その年の秋のドラフト会議で、横浜ベイスターズ(のちのDeNA)から1巡目指名を受ける。しかし、3年目

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イップスの正体|#5 佐藤信人(ゴルファー)

イップスの正体|#5 佐藤信人(ゴルファー)

「パットの名手」と呼ばれた佐藤信人の名前が、日本ゴルフ界でぱたりと聞かれなくなったのは2003年以降のことである。佐藤は1997年から2002年にかけ9勝を挙げ、瞬く間にトッププロの仲間入りを果たす。しかし黄金期は、あっけなく終焉した。佐藤は「はっきり覚えているのは、2003年のANAオープン。パットの時、『あ、手が動かない』って」と回想する。そこからイップスとの格闘が始まり、たびたび「手から先をぶった切りたい」という衝動にかられるようになる。成績は徐々に下降線をたどり、20

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“漫才の革命児”マヂカルラブリーが上沼恵美子の次に「どうしても笑わせたい人」

“漫才の革命児”マヂカルラブリーが上沼恵美子の次に「どうしても笑わせたい人」

2017年に抹殺されかけた2人は、それから4年後の同じステージで頂点に君臨した——。「しゃべらない漫才」異色のM-1王者の内面に迫る。/文・中村計(ノンフィクションライター) 漫才の革命児 客席から時折「ひぃーっ!」と苦し気に息を吸う音が漏れる。 ステージでは、長髪の男が床の上に背中を付け、激しくのたうち回っていた。 それだけなのに客は呼吸もままならぬほどに笑い転げている。 2020年12月20日、漫才日本一を決めるM-1グランプリの最終決戦。そこに残れるのは、決勝に

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イップスの正体|#4 平孝臣(東京女子医科大学)

イップスの正体|#4 平孝臣(東京女子医科大学)

イップスは局所性ジストニア、つまり、脳の病気なのではないかとする説がある。東京女子医科大学の平孝臣医師は2000年1月に初めて局所性ジストニアの患者を手術してからというもの、これまで700件から800件、オペを施してきたという。平医師のオペは独特で、脳内の一部に電流を流した針を刺し、それによって従来のスムーズな動きを取り戻させるというものだ。同手術の技術を持っている医師は全国でもごくわずか。平医師は、その第一人者といっていい。そんな脳医学のスペシャリストに、イップスは局所性ジ

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M-1で優勝できなかった「かまいたち」が勝者になった理由——松本人志の1票で成仏した2つの才能

M-1で優勝できなかった「かまいたち」が勝者になった理由——松本人志の1票で成仏した2つの才能

2021年に飛躍を遂げる芸人は誰か。「霜降り明星」や「ぺこぱ」ら「第7世代」と呼ばれる若手が席巻するお笑い界にあって、結成17年目の中堅コンビが注目を集めている。/文・中村計(ノンフィクションライター) 荒唐無稽なネタに説得力を持たせる技術「UFJ」に行ってきたと言いながら、ゾンビが登場するハロウィンイベントの話をするなど、どうやら「USJ」に行ってきたらしい話をし始める男。言わずもがな前者の「UFJ」は銀行のことで、後者の「USJ」はユニバーサル・スタジオ・ジャパンのこと

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イップスの正体|#3 坂本竜介(卓球Tリーグ「T.T彩たま」監督)

イップスの正体|#3 坂本竜介(卓球Tリーグ「T.T彩たま」監督)

★前回を読む。 ★最初から読む。 卓球は「回転のスポーツ」と呼ばれる。前後、左右と、あらゆる方向から回転をかけ、受ける方は相手の打ち方からその回転を読み、回転をかけ返す。その中で、互いに、およそ152.5×137センチの小さな台上に落し合わなければならない。手首の動かし方、力の強弱において、これほど末端神経の繊細さを要求されるスポーツは他にないのではないか。 手先の複雑な動きを要求されるスポーツほど「イップス」はかかりやすいと言われ、かつ、修正が困難だと言われる。 そん

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イップスの正体|#2 浅田斉吾(プロダーツ選手)

イップスの正体|#2 浅田斉吾(プロダーツ選手)

★前回はこちら。 スポーツは大まかに2種類に分けることができる。「起動のスポーツ」と「反応のスポーツ」だ。前者は自らが動き出さなければ始まらない競技で、ボウリングやダーツはその典型である。逆に、サッカーやテニスは後者に当たる。テニスはサービスのみ起動が求められるが、ひと度、打ち合いになれば反応のスポーツと言える。イップスが多いのは、圧倒的に前者だ。 日本ダーツ界の絶対王者・浅田斉吾もやはり一時期、極度のイップス症状に悩まされた経験を持つ。しかし、そのイップスを乗り越え、プ

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イップスの正体|#1 島袋洋奨(元プロ野球選手)

イップスの正体|#1 島袋洋奨(元プロ野球選手)

文・中村計(ノンフィクションライター) ちょうど10年前、高校球界を席巻した1人のプロ野球の投手が、昨年秋、1勝も挙げられないまま静かにユニフォームを脱いだ。ソフトバンクの島袋洋奨である。 島袋は2010年、沖縄・興南高校のエースとして、春夏連覇を成し遂げた伝説の投手だ。全11試合で、他のピッチャーに任せたのはわずか4イニング。両大会をほぼ1人で投げきったと言っても過言ではない。投球時、大きく振りかぶり、打者に背中が見えるくらい大きく上半身を捻った「琉球トルネード」と呼ば

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