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文藝春秋digital

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#西川美和

『文藝春秋digital』2022年6月ラインナップ

■会員限定イベント●6月8日(水) ・新庄剛志「薬物使用」の過去 抜き打ち検査で「陽性」も、詳細は伏せられ、その年に引退―― 鷲田康(ジャーナリスト)+本誌取材班 ●6月10日(金) ・プーチンが最も殺したい男の告白 M・ホドルコフスキー(オリガルヒ・石油会社「ユコス」元代表)「ウクライナ侵攻は彼の個人的な動機から始まった」 ・「性暴力」私は負けなかった 卜田素代香(仮名)「暴行後『証拠が残るからシャワーを』と男が強いてきました」 ・新連載 外事警察秘録②「日本赤軍との闘い

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西川美和 ハコウマに乗って18 はじめてのるふね

はじめてのるふね私は、学生時代に学級委員になったり生徒会に入ったことがない。何となく自分は、体制を変えるために権力者と交渉をしたり、理想を掲げて大勢を啓蒙する柄じゃない、と感じていた。曲がったことを正すより、抜け道を探す方につい向いてしまう。スカート丈について学校側と交渉するのではなく、放課後にワンタッチで短くできる制服改造に没頭し、絶対に先生と出くわさない路地のお好み焼き屋を見つけてたむろしていた。 自らは全くスカート丈などいじらない生徒会長は、私たちを咎めもせず、一方で

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西川美和 ハコウマに乗って17 ぼくらのキャンパス

ぼくらのキャンバス先日、戦時中の設定で書いていた小説の中に耳の聞こえない青年を登場させた。 戦況が苦しくなるにつれ、虚弱体質や病気があっても若い男性の多くが徴兵されていく中で、聴覚障害のある人々が戦地に送り込まれるケースは少なかったようだ(ただし徴兵検査では詐病を疑われ、しつこく調べられたそうである)。 中には「決して喋らない」ことを買われてスパイ活動をさせられた例もあったが、多くは国内の軍需工場や農地で働いた。いずれにしろ彼らは、聞こえる人(いわゆる「聴者」)向けの言葉

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西川美和 ハコウマに乗って16 フレッシュ、フレッシュ

フレッシュ、フレッシュ電車に乗っていると、「フレッシュマンだな」と思しき人々を見かける。新緑のすき間から差し込む日差しに、白い襟が眩しい。去年までは大学のキャンパスで、後輩相手に「くそあちー」などと就活の愚痴をこぼしていた最古参の学生も、新たな4月を迎えると、あどけない紅顔の少年に見えるからふしぎだ。 先日、あるスポーツ紙の記者さんから「新人研修の一環で、西川さんの映画を鑑賞後に記者として質問する体験をさせたいのですが」と頼まれて、新聞社にお邪魔した。6人の新人は、男女比5

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西川美和 ハコウマに乗って15 こわれる

こわれる宇宙戦争も、隕石衝突も、大災害も、あらゆる惨事はハリウッド映画で観ることができる。映像技術の躍進は目覚ましく、動物が痛めつけられる場面、建物が破壊され、森が焼きつくされる場面、銃弾を浴び、人の手足がちぎれる場面など、かつては実物への仕掛けに頼らざるを得なかった危険な描写を、一切の犠牲なしにCGで再現できるようになった。 だから私たちは知っている。どんなに危険な場面でも、これは嘘なんだと。お化け屋敷と一緒である。怖いけど、本物じゃない。誰も傷つかない。しかも最後は、そ

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西川美和 ハコウマに乗って14 まつりのおわり

まつりのおわりまたオリンピックか。困るんだ、こうしょっちゅうやられては。私はウィンタースポーツに精通してはいないし、大会前にはまともに選手の名前も出てこない程度の視聴者だ。運営側も誘致する国もコロナとともにいかがわしさを露呈し、爽やかさとは程遠いイベントに成り果てた。にもかかわらず、始まってしまえば猫にマタタビ。テレワーク推進も相まって、平日朝からテレビの前に座り込む始末。何でも観る。観てはその競技ごとの面白さに没入し、「ここでトリプルコーク1440かあ~」などと通ぶって悦に

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新連載「仁義なきヤクザ映画史」① 日本百年の闇をあばく 伊藤彰彦

娑婆で傷つく元受刑者――西川美和『すばらしき世界』(2021)/文・伊藤彰彦(映画史家) 民衆とともに生きたヤクザ 1929年、妻と離婚し、父親の看病のために故郷前橋に戻らざるをえなかった詩人の萩原朔太郎は、自宅から20キロの所にある国定忠治の墓まで自転車で行き、こう詠んだ。 見よ 此処に無用の石/路傍の笹の風に吹かれて/無頼の眠りたる墓は立てり(「国定忠治の墓」) 国定忠治は殺人や関所破りの廉で磔刑にされた侠客。近代人の孤独を震えるような繊細さで表現した朔太郎は、終生

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西川美和 ハコウマに乗って13 めぐるあのはる

めぐるあのはる11年前の震災の時、私は実家のある広島に長逗留して小説を執筆していた。東京のアパートは食器が割れたり本棚が倒れたりとそれなりに散らかったが、本震の揺れと恐怖は体験していない。それは本来幸運なことなのだけど、帰宅難民になったりインフラの麻痺や原発爆発の渦中にある人々に比べて自分は、1人だけずるをして得しているような後ろめたさを感じていた。混乱と不安の渦巻く東京に帰る必要などないのに、帰らねばならないのではないか? と焦燥を募らせた。物書きとしてのジャーナリズム精神

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西川美和 ハコウマに乗って12 そういうもの?

そういうもの?この仕事につく以前、私には映画関係の知り合いは1人もなかった。映画や写真や音楽にのめり込んでいた大学時代の仲間も、4年生になると出版社や鉄道会社や商社に就職を決めていったが、私は1人「映画の仕事をしてみたい」と青臭い夢に浸りつつ働き口を探していた。 そんな折、故郷の父が通う床屋の息子が映画会社で撮影助手をしているという話を聞いた。クラスの中でも物静かだったO君が、大きなキャメラを担いで撮影現場に立っているとは意外だった。床屋には巨匠キャメラマンの傍らに立つO君

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西川美和 ハコウマに乗って11 ついのふうけい

ついのふうけい実家の隣に暮らす96歳の伯母は、認知症の影響で新しい情報をほとんど覚えられないということを以前紹介させてもらったことがある。 普通に会話でき、長く体に染み付いた日常生活は几帳面に送れるが、私が帰省した折は、表で会うたびに「あら! 帰ったの?」と毎日驚き、かかさず新聞を読み、1日中テレビをつけっぱなしにしていても、「コロナ」という新語が本人の口から発されることはなかった。 その伯母が今年の4月、余命半年と診断され、宣告にほぼ狂いなく先日亡くなった。子供がなく、

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西川美和 ハコウマに乗って10 もしもしわたし

もしもしわたし夜更けにふと、用もなく人に電話をできますか。気がつけばそんな習慣を忘れていた。前触れもなく相手の時間に飛び入りすることに不躾さを抱くようになったのは、私だけではないと思う。「電話していい時間はありますか」と事前にアポを取る時代だ。まだ会社だろうか、子供を寝かしつけているだろうか、メールの返信に追われている頃だろうか。みんな互いの時間をひどく大切にしている。 夏の間実家に帰っていたら、後期高齢者枠に入った父母はたびたび親類や友人と電話することに気がついた。思い立

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西川美和 ハコウマに乗って 9 あなたさん

あなたさんいつまでたっても人とゆっくり会えないし、飲み屋は開かないし、私のようなウワバミはすっかりひしゃげてしまった。もう街の灯など忘れよう、と繰り出したのが山。書き物の仕事の区切りがつくと山に行き、息を切らして歩くのだ。より高い山を目指すような意気はないけど、肉体の苦しさは、楽しさと同じだけ連続してきた日常を忘れさせてくれる。 広島の自宅から近い400メートル超の山に登ってみたら、数年前から頻発する豪雨災害で道は崩れ、大きな木が根こそぎ倒されていた。登り切ると市内が一望で

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西川美和 ハコウマに乗って8 スウィングきらり

スウィングきらりなんにせよスポーツについて考える機会の多い夏だったが、私は先日、野球選手を目指す小学6年生という設定で、一人の少女をテレビCMに起用した。 同級生が中学受験に備えて塾に通ったり夜遅くまで勉強するのをよそに、プロを目指してひたすら練習している。父親は娘の夢を応援しつつ、現実は甘くないと内心葛藤している——父が放り上げる球を、少女のバットが鋭くミートする場面を書いた。これをごまかしなしにやれるのは、野球経験のある子しかいない。 けれど子役のオーディションは骨が

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西川美和 ハコウマに乗って7 ゆきのしわざ

ゆきのしわざテレビCMの仕事で、子供の中学受験を撮ることになった。企画したのはクライアント企業の男性で、2人のお子さんが都内の有名進学校を受験したそうだ。 「僕の周辺の親には3つのタイプがいます。一つは自身も高学歴で、将来良い人生を送るために中学受験は不可欠、と信じている部類。2つ目は、子供は好きなことを見つけて生きていくべきで、やりたいことを優先させたい、というタイプ。もう一つは、学歴が全てではないが、好きなことで我が子が成功するかは不安。受験させるべきか、でも遊びの時間

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