文藝春秋digital

詩|御徒町凧

詩|御徒町凧

吹き溜り空き缶とか たまにフライパンとか 乗り捨てられた自転車とか そこに絡みつく 雑草とか そういえば 高校を辞めた甥っ子がバーで働いて たまにくれるLINE いつのまにか朝がきて 猫に甘噛みされる これまで生きてきた 自分という殻

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詩|山崎るり子

詩|山崎るり子

キッチンのテーブルいつも猫はテーブルの上 こちら側に私がいて向こう側にあなたがいる 猫はある日いなくなってしまい 猫のいないテーブルの こちら側に私がいて向こう側にあなたがいる あなたはある日いなくなってしまい あなたがいた向こう側に私がすわると もうだれもいないキッチンのテーブル

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詩|三角みづ紀

詩|三角みづ紀

四月の魚たち デパートの春売り場が ひしめきあい あたらしい時間を探している きみが ぼくが なまぬるい空気のなかで あけたりしめたりして ここは水槽だ ぼくたちは、すでに出会っているので つぎに訪れるものは別れだったりするのだろうか。 ますます口をぱくぱくさせて 酸素を吸って 帰宅したらベッドに横たわり ふたりで沈んでいく つないだ手からほころびはじめて朝にはほつれてしまう 咲きほこる日常が枯れないように目をひらいたまま眠る

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詩|黒川隆介

詩|黒川隆介

花藤 子どもが大きくなっていくことより 親が小さくなっていくことの方がショックなんだ ハーパーを飲み残したまま そう言って中年男はつぶれた 初めて訪ねた港町の初めて入ったバーで なかば絡まれたようなひと時だったが その一言が聞けた御礼にタクシーまで担いで乗せた 忘れてしまった夜の数だけ 生きた皺がきざまれるように またどこかで 誰かの今日が ひとつ遠くなっていく

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詩|伊藤比呂美

詩|伊藤比呂美

鼓動 旅立たないように風切羽を切った 初列風切を切り 次列風切を切り 念を入れて三列風切を切った それから尾羽を抜き、内趾だの外趾だの中趾だの ひとつひとつ折って、嘴を折った それからいっぱいに窓を開け 雲に届くくらい両手を突き出して 空の中に投げ込んでやったんだ

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詩|服部みれい

詩|服部みれい

ラブレター とつぜん届いたラブレターは とてもいびつな エクスペリメンタルミュージックであった 愛? それとも地中からのあたらしい衝動? わたしからの返信は YouTubeもSNSもつかわない 空中にある時空に そっと愛を飛ばす そんな未来的なやりかたです! 夢に乗って さあ、どこへいく? 今日も あちこちの空の間に間に 恋の原型が生まれている

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詩|柳本々々

詩|柳本々々

距離 「おはよう、ぼくだよ」と真夜中電話をかけたら、そうね、 わかってる、どこかにつれていってもあなたはすぐ消える、 ともかくわたしの手をつないでいなければだめだよ、 手さえ繋いでいたらいいから、と電話でいった。けれど、 次の日になるともう会えないことも多かった。 好きな窓辺をいつもさがして見つけては指さした。 わたしもその窓辺を見て、いいかも、といったりした。 いいかも、というと、そうね、とだけいった。       (そうね) それから何年かたってどちらからも電話を掛けな

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詩|新川和江

詩|新川和江

田舎の月 わたしの郷里ではわけても十五夜、 よそでは見られぬ大きな大きな月がのぼる。 子供たちは藁鉄砲を持ち ――大麦小麦、三角畠の蕎麦(そば)あたれ と唱えながら 農家の庭先の土を打って回る。 穀物や蔬菜(そさい)を育ててくれた土へのお礼と 子供ながらに来年の収穫への願いをこめて……。 すると天からも声がして、 「よしよし わしも見守ってあげるよ」と、 こうこうと光を増した月が村の真上に降りてくるのです。 (2020年9月号)

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詩|谷川俊太郎

詩|谷川俊太郎

自然同士? ヒトの体とウイルスは自然同士? 月や星も生きてないけど自然同士 庭のアジサイが朝日を浴びて咲き誇り ココロはアタマより先に目覚めて 言葉なく自然のスゴさに呆れている ココロは意味がなくても死にはしない でもアタマは意味がないと生きていけない この世は意味と無意味のせめぎ合い! (2020年10月号)

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詩|銀色夏生

詩|銀色夏生

草陰 もう少しだけ見ていたい あなたの姿 あなたの話すこと あなたはどういう人で 何をしようとしているのか あなたは私をどうしたいの 私はあなたをどうしたいの あなたを知ろうと思うことはきっと 私をもっと知ることになる だから怖いことだけど そうしたいと思ったの (2020年11月号)

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