文藝春秋digital

詩|夏野雨

詩|夏野雨

生まれてふにゃふにゃのまま生まれて 立ち上がり歩き始める 跳ねる音を確かめながら 鼓膜に残した自分の泣き声 足裏で感じる土の温み バスケットボールが床を打つ音 隠した水を受け渡すときの 光に似たささやき 言葉より前に声があり 暦より前に昼夜はあって 光より前に闇がある 闇の前にあるのは 泣いている、やわらかいものを受けとめる 白絹のようなこころ

スキ
7
詩|林木林

詩|林木林

帰路向かい風の中を進む私は 透明なたてがみを靡かせた ライオン 追い風に押されて歩く私は 透明な花びらに包まれた ひまわり 風がない日の私は どっちから風が吹いてくるか知りたがる 人間 いつもの道すがら

スキ
14
詩|はっとり(マカロニえんぴつ)

詩|はっとり(マカロニえんぴつ)

オトナとびっきり淋しい音楽をいくつも知らなきゃ 大人じゃないのよ ママのふりした恋人の乳房を パパの真似した彼の背中を 愛せていないと大人じゃないのよ あなた これから大人になるの あなた これから大人になるの

スキ
17
詩|御徒町凧

詩|御徒町凧

吹き溜り空き缶とか たまにフライパンとか 乗り捨てられた自転車とか そこに絡みつく 雑草とか そういえば 高校を辞めた甥っ子がバーで働いて たまにくれるLINE いつのまにか朝がきて 猫に甘噛みされる これまで生きてきた 自分という殻

スキ
7
詩|山崎るり子

詩|山崎るり子

キッチンのテーブルいつも猫はテーブルの上 こちら側に私がいて向こう側にあなたがいる 猫はある日いなくなってしまい 猫のいないテーブルの こちら側に私がいて向こう側にあなたがいる あなたはある日いなくなってしまい あなたがいた向こう側に私がすわると もうだれもいないキッチンのテーブル

スキ
7
詩|三角みづ紀

詩|三角みづ紀

四月の魚たちデパートの春売り場が ひしめきあい あたらしい時間を探している きみが ぼくが なまぬるい空気のなかで あけたりしめたりして ここは水槽だ ぼくたちは、すでに出会っているので つぎに訪れるものは別れだったりするのだろうか。 ますます口をぱくぱくさせて 酸素を吸って 帰宅したらベッドに横たわり ふたりで沈んでいく つないだ手からほころびはじめて朝にはほつれてしまう 咲きほこる日常が枯れないように目をひらいたまま眠る

スキ
11
詩|黒川隆介

詩|黒川隆介

花藤子どもが大きくなっていくことより 親が小さくなっていくことの方がショックなんだ ハーパーを飲み残したまま そう言って中年男はつぶれた 初めて訪ねた港町の初めて入ったバーで なかば絡まれたようなひと時だったが その一言が聞けた御礼にタクシーまで担いで乗せた 忘れてしまった夜の数だけ 生きた皺がきざまれるように またどこかで 誰かの今日が ひとつ遠くなっていく

スキ
59
詩|伊藤比呂美

詩|伊藤比呂美

鼓動旅立たないように風切羽を切った 初列風切を切り 次列風切を切り 念を入れて三列風切を切った それから尾羽を抜き、内趾だの外趾だの中趾だの ひとつひとつ折って、嘴を折った それからいっぱいに窓を開け 雲に届くくらい両手を突き出して 空の中に投げ込んでやったんだ

スキ
11
詩|服部みれい

詩|服部みれい

ラブレターとつぜん届いたラブレターは とてもいびつな エクスペリメンタルミュージックであった 愛? それとも地中からのあたらしい衝動? わたしからの返信は YouTubeもSNSもつかわない 空中にある時空に そっと愛を飛ばす そんな未来的なやりかたです! 夢に乗って さあ、どこへいく? 今日も あちこちの空の間に間に 恋の原型が生まれている

スキ
14
詩|柳本々々

詩|柳本々々

距離「おはよう、ぼくだよ」と真夜中電話をかけたら、そうね、 わかってる、どこかにつれていってもあなたはすぐ消える、 ともかくわたしの手をつないでいなければだめだよ、 手さえ繋いでいたらいいから、と電話でいった。けれど、 次の日になるともう会えないことも多かった。 好きな窓辺をいつもさがして見つけては指さした。 わたしもその窓辺を見て、いいかも、といったりした。 いいかも、というと、そうね、とだけいった。       (そうね) それから何年かたってどちらからも電話を掛けなくな

スキ
4