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#詩

『文藝春秋digital』2022年6月ラインナップ

■会員限定イベント●6月8日(水) ・新庄剛志「薬物使用」の過去 抜き打ち検査で「陽性」も、詳細は伏せられ、その年に引退―― 鷲田康(ジャーナリスト)+本誌取材班 ●6月10日(金) ・プーチンが最も殺したい男の告白 M・ホドルコフスキー(オリガルヒ・石油会社「ユコス」元代表)「ウクライナ侵攻は彼の個人的な動機から始まった」 ・「性暴力」私は負けなかった 卜田素代香(仮名)「暴行後『証拠が残るからシャワーを』と男が強いてきました」 ・新連載 外事警察秘録②「日本赤軍との闘い

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詩 草間小鳥子「数値化されない波」

数値化されない波「もう勝ち上がれないと知った日の しずかな夕陽をおぼえていますか」 正論で人を殺せるスマートな未来だ 透明なしごとを終え 薄い楽譜を抱いて眠る 戦禍に研ぎ澄まされた耳で波の音を聴こう 勝ち負けとは無縁の波 あいまいな喪失を抱えながら わたしたちは恢復する 猫などいるとそれはやや早い

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17

詩 野村喜和夫「LAST DATE付近」

LAST DATE付近在りし日に向かってすすむ、私の在りし日に 向かって、あるいは冬の旅、すすむ、薄明の霧の なかに浮かび上がる、稲妻のようにギザギザした枝々を 荒々しいまでに張りめぐらせた裸木と、その向こうの、 どこかで戦争でも始まっているのか、すすむ、炎症性の 箱のような家の、異様に明るい窓と、あふれ出す文字列、 「忘却と死よ、早く通り過ぎてくれ」ときみは言う、 「私の足を速める低い祈りの声」ともきみは言う、 私はすすむ、嵐の情報をまとい、乳房や享年をもくぐり 抜けて、在

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2

詩|水沢なお

火曜日手が触れた ユキヒョウが跳ねる 弟の 青いシャツのボタンを外す 家族で見たあの滝のように 塔を弾く指のように 階段をくだるように 氾濫する バスターミナルのせっけん水 ストール を 蛍光ペンで囲う 爪の中のプランター 転卵 さかさまの火 わかりあえないことが まだわからなくて うずら色のパッチ ひたいでうねるさざ波 感熱紙を白い歯で撫ぜるみたいに 甘いつちのなかに根を張る かいたいと口にする 背が伸びたふりをする 光る窓を作成する 笑ったりする ありようを恋で例えられる

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11

春|高橋久美子

春あなたにはスイッチがあるからいいねと 月並みの顔して月は言った 落ちこんだゴミ箱の中 本物である必要があるでしょうか 水耕栽培のトマトは 今夜もナイトクルージング 白菜は冷蔵庫の中で静かに その身を食い破って花を咲かせる 花瓶になど飾らず 味噌汁に入れて この体に生けてみる 何もかも咲きそうで 震えています

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4

詩|カニエ・ナハ

二木美月美月は二年ぶりに、映画館で映画を観ている。 二百年ほど前の映画のリバイバル上映で、 二十数時間の上映時間の間、 えんえんと海だけが映し出されている。 スクリーンのかたわらでは、 手話通訳者が波音を手であらわしていて、 ときどき、その手が鳥に変わったり、 波間にたゆたう、流木や月に変わったりする。

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4

詩|建畠晢

昭和の恋誰かが、きっと若い女が、階下で三味線を弾いている 壺や皿が盗まれた街では季節が滞り 亜硫酸料理の店を営む叔父は 百年の歳月を無駄にして泣いている 後家は両切り煙草を吸いながら豚足を茹で 「ゆめ、まぼろし」と呟いた 昭和茫々、豚足の湯気 叔父の恋は終わったのだ

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3

詩 瀬戸内寂聴 百周年記念傑作選

水の声水の声が聞きたい。古里の家の裏の小川の水の声が。死を待つだけの老人がうわ言をいった。ひ孫の少女がその日から、老人の枕元に坐り、赤い玩具のバケツの水を掬いあげては落しはじめた。少女がつくった小川の囁き。貝殻のように薄い少女の掌の窪みから、水はきらきら輝きながらくり返しバケツに落ちていく。さらさらと、さらさらさらとひっそりと、日がな一日さらさらと。(1992年2月号)

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11

詩 松下育男

羽ばたくようにすべり台の上に 商店街があった 毎日少しずつ 商品の位置がずれてゆく 瓶詰めだって 足を踏ん張っている 鳥カゴの中にも 商店街があった 人が寝静まったあと カゴの網目越しに 小さな街灯がともり 羽ばたくように 店が開く

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3

詩 真下みこと

ランダムウォーク真夜中と朝の隙間に タクシーたちの影を切る ふっと現れたボタンを 押せずにぼんやりと眺める みんなで撮ったはずの写真 答案にひとつ ついた× 交換ノートが終わった頁も 何も覚えていなかった 全てわかりあう瞬間は もうきっとない 二度とない 別のボタンにそっと触れると 白色光が夜空を裂いた

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9

詩|夏野雨

生まれてふにゃふにゃのまま生まれて 立ち上がり歩き始める 跳ねる音を確かめながら 鼓膜に残した自分の泣き声 足裏で感じる土の温み バスケットボールが床を打つ音 隠した水を受け渡すときの 光に似たささやき 言葉より前に声があり 暦より前に昼夜はあって 光より前に闇がある 闇の前にあるのは 泣いている、やわらかいものを受けとめる 白絹のようなこころ

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7

詩|林木林

帰路向かい風の中を進む私は 透明なたてがみを靡かせた ライオン 追い風に押されて歩く私は 透明な花びらに包まれた ひまわり 風がない日の私は どっちから風が吹いてくるか知りたがる 人間 いつもの道すがら

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15

詩|はっとり(マカロニえんぴつ)

オトナとびっきり淋しい音楽をいくつも知らなきゃ 大人じゃないのよ ママのふりした恋人の乳房を パパの真似した彼の背中を 愛せていないと大人じゃないのよ あなた これから大人になるの あなた これから大人になるの

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17

詩|御徒町凧

吹き溜り空き缶とか たまにフライパンとか 乗り捨てられた自転車とか そこに絡みつく 雑草とか そういえば 高校を辞めた甥っ子がバーで働いて たまにくれるLINE いつのまにか朝がきて 猫に甘噛みされる これまで生きてきた 自分という殻

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