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藤原正彦「古風堂々」|英国紳士の嗜

藤原正彦「古風堂々」|英国紳士の嗜

文・藤原正彦(作家・数学者) 我が家に来たクリスマスカードはしばらく応接間の棚に並べて飾ることにしている。アメリカ時代のガールフレンドからのものもいくつか混じるが、ピチピチギャルだった彼女達も今や60代ということで女房も気にしない。埋み火の熱さまでは思いが及ばないようでありがたい。これらカードは春に箱に入れてしまう。先日整理しようと読み返していたら、女房の友達ピーターからのものがあった。ケンブリッジ大出身のこのエレクトロニクス専門家は、毎年家族の消息を写真つきで伝えてくれる

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いまこそ内政干渉を|藤原正彦「古風堂々」

いまこそ内政干渉を|藤原正彦「古風堂々」

文・藤原正彦(作家・数学者) 先日、コロラド州ボールダーのスーパーで銃乱射があり10名死亡、とのニュースを見て思わず声を上げた。このキングスーパーズは私の住んでいたアパートからほど近い、何度か買物もしたことのある店で、世界的数学者シュミット教授のお宅にお招ばれの時は右折(ガールフレンドのジャンの所に行く時は左折)の目印としていた所でもある。 アメリカが銃乱射の国であることは半世紀も前に耳にしていた。渡米を控えた私に、ペンシルバニア大学数学教室での事件について恩師のⅠ先生が

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不思議な糸に導かれ|藤原正彦「古風堂々」

不思議な糸に導かれ|藤原正彦「古風堂々」

文・藤原正彦(作家・数学者) 小学校4年生の春、新しい図画工作の先生が着任した。強い天然パーマとギョロ目が特徴の、やせて颯爽とした27歳の美青年だった。3年生以上がこの先生に習うのだが、瞬く間に学校一の人気者となった。母親譲りの不器用で図工の成績はいつも5段階の2という私でさえ、週に1度、2階建て木造校舎の1階西端にあった図画工作室へ向かうのが楽しみだった。 話が抜群に面白かった。十八番は二等兵物語だった。終戦直前にしばらく陸軍にいた先生の、ユーモアたっぷりの語り口に私達

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面子と忖度|藤原正彦「古風堂々」

面子と忖度|藤原正彦「古風堂々」

文・藤原正彦(作家・数学者) 東京五輪の組織委員長である森元首相が、「女性のたくさん入っている理事会の会議は時間がかかる。一人の女性が発言すると次々に発言する。女性の話は長い」という趣旨のことを言った。早速海外メディアに取り上げられ「女性差別」と非難された。これを受けて我が国では、「日本がジェンダー後進国ととられる」とまずメディアが騒ぎ立て、国民がヒステリーを起こし、ついには人民裁判のごとき形で森氏を辞任に追いこんだ。 1980年代の中頃、スタンフォード大学の教授夫妻が拙

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オンラインセミナー開催レポート「失敗しない高齢者施設選び 老後を安心して暮らす人生設計とは」

オンラインセミナー開催レポート「失敗しない高齢者施設選び 老後を安心して暮らす人生設計とは」

1月28日、文藝春秋によるオンラインセミナー「失敗しない高齢者施設選び」が開催された。4団体の協賛を得て行われたこのイベントには、作家の藤原正彦さんも登壇し、基調講演を行った。また、各施設の紹介も、それぞれの魅力を十全に伝える充実した内容となった。 ◆懐かしいメロディーを口ずさんで 冒頭を飾った基調講演は、作家の藤原正彦さんによる「我が人生の応援歌」。その標題の通り、藤原さん自ら披露する歌声が彩る楽しい時間となった。 父・新田次郎が遺した絶筆を息子である藤原さんが書き継

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虹とチャンバラ|「古風堂々」藤原正彦

虹とチャンバラ|「古風堂々」藤原正彦

文・藤原正彦(作家・数学者) 私の父は「中学校の初年級までは立川文庫で育てられた」、とよく言っていた。大正時代を通じ200冊以上も刊行されるほどよく読まれた文庫である。猿飛佐助、堀部安兵衛、真田幸村、宮本武蔵、荒木又右衛門……などがぐいぐいと人を魅きつける筆致で描かれている。田舎の祖父の本棚にあったこれらを、6年生の頃に数冊ほど読み、その面白さにとりつかれた私は、よく似た『講談全集』が発刊されたのを幸い、次々にむさぼり読んだ。面白さだけでなく、講談の根っ子には武勇、正義、惻

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隣人への想い|藤原正彦「古風堂々」

隣人への想い|藤原正彦「古風堂々」

文・藤原正彦(作家・数学者) 芭蕉の最晩年の句に、「秋深き隣は何をする人ぞ」というのがある。晩秋の夜、誰かも分からない隣の人に想いを馳せる、という人間的ぬくもりのこもった名句である。日本の生んだ大数学者の岡潔先生は、この句に表われた「自分以外のものへのそこはかとないなつかしさ」こそが西洋人と違う日本人の情緒であり、彼の創造した画期的な不定域イデアル理論はこの句そのもの、と仰った。 岡先生の深遠さには及ぶべくもないが、隣の人に想いを馳せることにかけては、私も人後に落ちない。

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藤原正彦さんご登壇! セカンドライフ施設紹介セミナー「失敗しない高齢者施設選び」 を開催します

藤原正彦さんご登壇! セカンドライフ施設紹介セミナー「失敗しない高齢者施設選び」 を開催します

老後を安心して暮らす人生設計とは 長寿時代を、自分らしく幸せに過ごすためには、安心の「住まい」も必要です。豊かな人生を過ごす秘訣とはなにか。そしてそれを叶えてくれる高齢者施設についてご紹介します。 【1部】基調講演 「我が人生の応援歌」 藤原正彦さん(作家) 【2部】協賛社による施設紹介 ◇「自立期から看取りまでの切れ目のないサポート」 東京都住宅供給公社 明日見らいふ南大沢 所長 桑野統央 ◇「エデンの園で過ごす安心のセカンドライフ」 聖隷福祉事業団 理事・常務

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模倣という独創|藤原正彦「古風堂々」

模倣という独創|藤原正彦「古風堂々」

文・藤原正彦(作家・数学者) アメリカの大学へ息子を留学させている友人の話だが、歴史の授業で教授が「日本は模倣で発展した」と言ったらしい。明治以来よく言われてきたことだ。言うのは無論欧米人だが、受け売りする日本人も多い。この教授はアメリカこそが模倣で発展してきたことを忘れているらしい。建国にあたり何もかもヨーロッパ、特に英国の模倣だった。1842年に訪米した英国のチャールズ・ディケンズは、価値ある英国書がほぼすべて海賊版として横行しているのに仰天したばかりか、それを当地で指

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目覚めた美声|藤原正彦「古風堂々」

目覚めた美声|藤原正彦「古風堂々」

文・藤原正彦(作家・数学者) 小学6年生の時、合唱コンクールに向けた学校代表の合唱団に選ばれた。6人に1人の狭き門に私が入ったので、級友は驚き私も驚いた。誰より甲高い早口の私は低い声がまったく出ず、歌とは無縁だったからである。父はよく風呂で抑留生活を思い出しながら「異国の丘」を歌ったり、「白い花の咲く頃」や「誰か故郷を想わざる」を郷愁たっぷりに歌っていた。歌が好きだったが、ひどく調子っぱずれでもあった。自らの実力を知る母はめったに歌わなかった。まれに口ずさむと家族が吹き出す

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