マガジンのカバー画像

文藝春秋digital

一流の作家や知識人、ジャーナリストによる記事・論考・ルポルタージュなどを毎日配信。執筆陣のオンラインイベントも毎月開催中。月額900円で記事が読み放題&イベント見放題のサービスで… もっと読む
月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に幅広いテーマの記事を配信しています。政治家や経営者のインタビュ… もっと詳しく
¥900 / 月
運営しているクリエイター

#角幡唯介

100年後まで読み継ぎたい100冊 角幡唯介「大自然に生きる」

文・角幡唯介(探検家・作家) 大自然に生きるはじめに個人的な話をすると、狩りや釣りを中心に活動するようになってから空間の捉え方がかわった。 それまでの登山や極地冒険では、山頂や目的地をめざして無駄なく直進的に行動するのが普通だった。こちら側の意志にもとづく計画があり、それにしたがい自然のなかを剪断しながら突き進むという行動原理だ。 しかし狩りや釣りでこのやり方をするとうまくいかない。山頂のような不動の一点ではなく、つねに動きまわる獣や魚が相手で、向こうの生態や習性にこち

スキ
6

角幡唯介さんの「今月の必読書」…『ハテラス船長の航海と冒険』ジュール・ヴェルヌ著 荒原邦博訳

北極点を目指した英雄の夢と実像『海底二万里』などで有名なジュール・ヴェルヌによる極地探検小説の初の完訳本である。ロマンあり、サバイバルあり、部下の反乱ありで、19世紀の極地探検の世界像をまるごとつめこんだ贅沢すぎる作品となっている。 作品は2部構成だ。第1部は実際の歴史をふまえた、とても実証的な筋の話である。19世紀の北極探検の主役は英国海軍の探検家たちだ。1840年代に彼らはフランクリン隊の大遭難をひきおこすが、その行方を探すために派遣された多くの隊により地理的解明が一気

スキ
2

角幡唯介さんの「今月の必読書」…『ガリンペイロ』

アマゾンの奥地で一攫千金を夢見る無法者たち自分が生きている意味や経験を、現実の何かに置き換えることは可能だろうか。山や極地を旅すれば、その間は生きていることを実感できる。でも、その時間は永久にはつづかない。最近では移動や狩りでつながった大地こそ、人間存在の根源的帰属先では? と考えるようになったが、かといって完全に自信があるわけではない。それを探求するのが人生の唯一の仕事だとわかっていながら、ずぼらなので手っ取り早くその答えを知りたいとも思う。 と、そんな折に本書を読み、ふ

スキ
11

角幡唯介さんの「今月の必読書」…『WAYFINDING 道を見つける力 人類はナビゲーションで進化した』

移動は生きるためでなく人間の存在そのもの人類は太古より自然のなかで暮らし経験と知恵を獲得し、現在の肉体と精神をもつにいたった。ではその自然との関わりの始原には一体どのような経験があったのだろう。25年ほど探検をつづけて私が個人的に始原的行為と感じるのは次の2つだ。一つは狩猟、もう一つはナビゲーションである。 狩猟はわかりやすい。狩りは生きるために動物を殺生する行為であり、そこから人類の感性は形成され、神話が語られ、世界観や自然観が作られた。しかしナビゲーションがなぜ始原なの

スキ
6

角幡唯介さんの「今月の必読書」…『快楽としての動物保護』

現代が生んだ人間と自然の歪んだ関係今、私はグリーンランドの小さな猟師村に滞在し、イヌイットの友人と犬橇で網をしかけては海豹(あざらし)を回収する日々を送っている。もちろん海豹は人と犬の食料になる。農業の不可能なこの地で人類が生きてこられたのは海豹、海象(せいうち)、鯨等の海獣資源に恵まれているからだ。でも今は猟だけで“食う”ことはできない。なぜか? 要因の一つに近代的な動物保護の考えが先進諸国にいきわたり、昔のように毛皮が売れなくなったことがある。猟による現金収入の道が途絶え

スキ
8

コロナ下で読んだ「わたしのベスト3」 生きることの不可思議さを想う|角幡唯介

このところ毎年のように冬から春にグリーンランド北部で長期間の探検旅行をしている。コロナ禍の今年もそれは変わらず、3月から5月まで2カ月近く犬橇で氷原を放浪していた。探検中は停滞時の暇つぶし用に文庫本を必ず何冊か持参するが、今回は古井由吉『辻』。非日常的な空間のなかで、日常的な人と人との関係の愛おしさや普遍性を表現する文章に触れるたびに、日本に残した家族のことを思い出し、また、偶然という脆く、儚い契機に左右される人生の不可思議さに考えをめぐらせた。 しかしそれにしても、この本

スキ
12

角幡唯介さんの「今月の必読書」…『地下世界をめぐる冒険 闇に隠された人類史』

光のない世界に託した人間の意外な姿20年以上前に大学探検部の学生だった頃、洞窟好きの後輩が奇抜な計画書を出したことがあった。その後輩は心理学にも興味をもっており、洞窟の底の暗闇のなかで長時間過ごすことで自らの意識が如何に変容するのか知りたいというのである。変人といえば変人だが、本書のなかに、まったく同じ探検を試みた地質学者の話が紹介されていて驚いた。 この地質学者は地下120メートルの日光のささない暗帯で、時計ももたず本能だけで2カ月をすごしたという。読書や音楽のほかは寝て

スキ
13

角幡唯介さんの「今月の必読書」…『アート・オブ・フリーダム』

この記事はマガジンを購入した人だけが読めます

スキ
3

【全文公開】本多勝一の消えた著作 角幡唯介さんの「わたしのベスト3」

ノンフィクション作家・探検家の角幡唯介さんが、令和に読み継ぎたい名著3冊を紹介します。  以前、沢木耕太郎さんと対談したとき、意識する書き手の1人に本多勝一の名をあげていた。沢木さんの作風と結びつかず意外な気がしたが、もし本多勝一という人がいなかったら日本のノンフィクション作家は事実に対してもっとルーズになっていたと思う、と話しており、なるほどと頷いた。事実の厳密性で彼の目を意識することで、沢木さんは自分の作品の完成度を吟味していたのだ。  私も若い頃、本多勝一には強烈な

スキ
9

角幡唯介さんの「今月の必読書」…『犬からみた人類史』