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角田光代さんの「今月の必読書」…『つまらない住宅地のすべての家』

角田光代さんの「今月の必読書」…『つまらない住宅地のすべての家』

逃亡犯が住宅地にもたらす「爆発」ページを開くと、小説の舞台である「つまらない住宅地」の地図と、住人の名字、何人暮らしかが書いてある。「笠原家……75歳の妻と80歳の夫の2人暮らし」といった具合に。 小説は、この一角に住む人たち、それぞれの視点に切り替わりながら進む。冒頭で、この町に逃亡犯が向かっているらしいことがわかる。2つ隣の県の刑務所を脱獄したのは、勤め先から横領をした36歳の女性で、この住宅地近辺の出身らしい。住人たちは、テレビやインターネットや学校や職場で事件を知り

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角田光代さんの「今月の必読書」…『悪の芽』

角田光代さんの「今月の必読書」…『悪の芽』

無差別テロが照射する格差と“正義”のおそろしさ小説は衝撃的な事件からはじまる。日本最大級のコンベンションセンターでアニメの一大イベントが行われる日。長蛇の列を作るアニメファンたちに向けて、カートを押してあらわれた男が火炎瓶を投げ続ける。たまたまそこに居合わせた大学生、壮弥は思わずそれをスマートフォンで記録する。男は最後、自身に火をつけて自殺する。やがて無差別大量殺人を犯した男の身元があきらかになる。斎木均、41歳、無職。小学生のときにいじめに遭い、不登校になったことも報道され

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角田光代さんの「今月の必読書」…『今も未来も変わらない』

角田光代さんの「今月の必読書」…『今も未来も変わらない』

生の凄みを思い知らされた雑誌の表紙を模したようなカバーが印象深い『今も未来も変わらない』。語り手の星子は40代のシングルマザー、高校生の娘、拠と2人暮らしをしている。小説家である星子の日々はいたってのんきで、24歳の青年、称くんと映画を見たり、10年越しの友人、志保とスーパー銭湯にいったり、娘と志保とカラオケボックスにいったりしている。 もちろん星子の日々には悩みも苦労もあるのだけれど、小説は、歯を食いしばり髪を振り乱している生活ではなくて、のんきで気楽な星子の生活を、より

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角田光代さんの「今月の必読書」…『自転しながら公転する』

角田光代さんの「今月の必読書」…『自転しながら公転する』

苦しくてすがすがしい濃厚なリアリティ本書の主人公は与野都、32歳。東京で暮らしていたが、今は更年期障害の母親を支えるために実家の牛久に戻り、アウトレットモールのアパレル店で働いている。同じモールの飲食店で働く貫一と知り合い、交際がはじまる。貫一は都の名を知り、「貫一おみやって言ったら金色夜叉じゃん」と言い、都を「おみや」と呼ぶようになる。 金色夜叉といえば、宮が婚約者の貫一を捨てて、お金持ちの男性に嫁ぎ、貫一は復讐を誓って冷酷な金貸しになる……という未完の小説。貫一は都の婚

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吉田類×角田光代「これが呑兵衛のニューノーマルだ!」

吉田類×角田光代「これが呑兵衛のニューノーマルだ!」

無類の酒好き2人が自粛明けで「カンパイ」。吞兵衛たちは往く。酒場という聖地へ酒を求め、肴を求めて――。アフターコロナ時代は、どのように酒を飲み、楽しむか。酒飲みの新たなスタンダードを語り合う。/文・吉田類(酒場詩人)×角田光代(作家) 外で飲むことを解禁角田 吉田さん、初めまして。今日は少し緊張してます。実は外で人と飲むのは3カ月ぶりなんです。 吉田 えっ、そうなんですか。 角田 はい。3月末からずっと、基本的には家に籠っていました。 吉田 じゃあ、今から飲む酒は、記

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角田光代さんの「今月の必読書」…『あたしたち、海へ』

角田光代さんの「今月の必読書」…『あたしたち、海へ』

出口に向かおう、しなやかに 小説の中心にいるのは、有夢(ゆむ)と瑤子(ようこ)という2人の中学生だ。建売住宅の隣同士に住み、同じ私立の女子校に通い、2人ともリンド・リンディというラテン系アメリカ人のミュージシャンのファンである。どうやらもともとは2人ではなく、3人の仲良しグループだったらしい。不在のひとりに関することがきっかけで、有夢と瑤子は、クラスに君臨するボスとそのグループにいやがらせを受けている。いやがらせは次第にエスカレートし、陰湿ないじめとなる。  有夢と瑤子、そ

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【全文公開】どんな未来になっても 角田光代さんの「わたしのベスト3」

【全文公開】どんな未来になっても 角田光代さんの「わたしのベスト3」

作家の角田光代さんが、令和に読み継ぎたい名著3冊を紹介します。  子どものころに第2次世界大戦を経験した開高健は、戦争とは何か、戦争を起こす人間とは何であるのかを、身をもって知ろうとした作家だと思う。『輝ける闇』でも『歩く影たち』でもいいのだけれど、『戦場の博物誌』を選んだのは、ここに「玉、砕ける」が収録されているからだ。  概念や論理ではなくて、生々しく具体的に、人間と戦争の姿を、ここにおさめられた作品は捉えていると私は思うのである。なんとなく、この先、開高健みたいな独

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角田光代さんの「今月の必読書」…『罪の轍』(奥田英朗)

角田光代さんの「今月の必読書」…『罪の轍』(奥田英朗)