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文藝春秋digital

月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に配信。月額900円。(「文藝春秋digital」は2023年5月末に終了します。今後は、新規登録なら「月あたり450円から」の「文藝春秋 電子… もっと読む
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#エッセイ

文藝春秋digital読者の皆さまへ、編集長より最後のお願い【「文藝春秋 電子版」1年無料プランのご案内】《このキャンペーンは終了しました》

5月31日、「文藝春秋digital」はクローズいたします。 これまで「文藝春秋digital」をご愛読いただきまして、誠にありがとうございました。 先にもお知らせした通り、月刊文藝春秋のサブスクリプションは「文藝春秋 電子版」に一本化します。これまで「文藝春秋digital」をご愛読いただいた皆さまには、突然のお知らせになったことを、改めてお詫び申し上げます。 「文藝春秋digital」のサービスが終了しますと、6月から皆さまに最新記事をお届けできなくなってしまいます

西川美和 ふるさと ハコウマに乗って

 霜月に入り、日中は小春日和の穏やかな陽気でも、午後の陽の傾くのは切ないほど早く、闇が降りてからはぐっと冷え込んでくる。そんな中で風呂が壊れた。  私の住まいは高度経済成長期の終わり頃に建てられた核家族向けの鉄筋コンクリートマンションだ。白黒テレビがカラーになり、トイレは水洗になり、広くはないリビングに家具調ステレオやサイドボードが置かれ、舶来のブランデーが飾られた頃。庶民の暮らしは目に見えて便利で豊かになり、皆がささやかな贅沢をかみしめた時代だったろう。当時一室を購入した

「文藝春秋SDGsエッセイ大賞」に応募作品が7,928点!≪グランプリ1点&優秀賞12点決定≫

創刊100周年を迎える「文藝春秋」が100年後の未来のためにできることを考えるべく、「note」とともに立ち上げた「SDGsエッセイ大賞」。おかげさまで7,928点もの作品をご応募いただきました。建築家・起業家の谷尻誠さん、作家の角田光代さんによる審査の結果決定した、栄えあるグランプリと優秀賞を発表します! グランプリ優秀賞審査員たちも驚いた 一人ひとりのSDGsのカタチ建築家・起業家としてクリエイティブに活躍する谷尻誠さん、家族・恋愛・旅とさまざまなテーマで小説を世に送り

電線の恋人と元恋人|石山蓮華

文・石山蓮華(電線愛好家・文筆家・俳優) 1992年生まれ。埼玉県出身。10 歳より芸能活動を開始。電線愛好家としてテレビ番組や、ラジオ、イベントなどに出演するほか、日本電線工業会「電線の日」スペシャルコンテンツ監修、オリジナルDVD『電線礼讃』プロデュース・出演を務める。主な出演に映画『思い出のマーニー』、短編映画『私たちの過ごした8年間は何だったんだろうね』(主演)、舞台『五反田怪団』、『遠野物語- 奇ッ怪 其ノ参-』、『それでも笑えれば』、NTV「ZIP!」など。 文筆

聴こえない子どもになりたかった|五十嵐 大

■五十嵐 大 ライター/エッセイスト。社会的マイノリティに関する取材、執筆を中心に活動し、エッセイ『しくじり家族』にてデビュー。2021年冬には2冊目のエッセイ『ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと』(仮)を刊行予定。 Twitter:@igarashidai0729 ★前回はこちら。 ★最初から読む。 耳が聴こえない子どもになりたい――。思春期の頃、そう思ったことがある。 僕の両親は聴覚障害者だ。母は生まれつき音を知らず

ヒスと呼ばれた母|山本美希

著名人が母親との思い出を回顧します。今回の語り手は、山本美希さん(マンガ作家・筑波大助教)です。 ヒスと呼ばれた母「そんなヒス起こすなよ」と、父はいつも母に言っていた。子ども心に、母はヒステリーなのだと理解するようになった。細かいことでいつもカッカするのは、ヒステリーという母の資質だから、聞く耳を持つ必要はないのだ、と片付けることを覚えた。 母は、大学を出たあと銀行に就職し、数年働いて結婚、子どもを2人産んで今まで専業主婦をしている。父は仕事人間で、母は家のすべてを1人で

ハリクさん|金田一秀穂

著名人が父親との思い出を回顧します。今回の語り手は、金田一秀穂さん(言語学者)です。 ハリクさん私の父はサザエさんの家のマスオさんのようだった。義父の波平はいないが、フネさんに当たる義母、カツオ、ワカメに当たる私の伯父、叔母たちが3人いた。タラちゃんにあたる私のきょうだいが4人いた。 その家族構成の中で、子どもたち以外はみな、父の春彦のことを、「ハリクさん」と発音していた。ハルヒコを縮めてそうなった。もともと、4人の子どもを抱えた母子家庭の祖母(フネさんに当たる人)の下宿

「何者か」になりたくて足掻いた13年|スイスイ

■スイスイ エッセイスト。営業・コピーライター職などを経験後、cakesクリエイターコンテストをきっかけに「メンヘラ・ハッピー・ホーム」でデビュー。同連載が「すべての女子はメンヘラである」として書籍化。 Twitter:@suisuiayaka note: @suisuiayaka ★前回はこちら。 ★最初から読む。 13年前、バイクで連れ去られた。 大学4年の秋だった。 ものすごい埃と砂が舞い大量のバイクがひしめきあって、誰もが信号無視をして怒号のようなクラクションが

大豆を育てる子ども達に|辰巳芳子

文・辰巳芳子(料理研究家) 夏が盛りの枝豆。塩茹での、ほんのり温かい莢から、次々と豆を口に運ぶ楽しさは、格別のもの。しかし今や、この青々とした枝豆が、大豆と同じものとは知らない子どもが多いとか。 このたび私が監修した絵本『まほうのおまめ だいずのたび』(文・絵 松本春野/文藝春秋刊)は、まず、大豆というこの偉大な豆に、幼いころから親しんでほしいという思いから始まった。 日本人は、大豆と米さえ手放さなければ何とかなる――私のこの信念に、同意してくださる方は多いと思う。枝豆

剣と本と仮面ライダー|高橋一浩

文・高橋一浩(東映プロデューサー) 2020年9月6日から放送を開始した「仮面ライダーセイバー」。令和2作目となるライダーは文豪にして剣豪だ。主人公の神山飛羽真(とうま)は、本が大好きな人物で、小説家でありながら書店も営んでいる。 本作の企画は昨年秋、石森プロ、脚本家、代理店、放送局のチームでスタートした。企画を考えるにあたって意識したのが、人と人との繋がりが持つ力を、子どもたちに伝えることだった。 物理的な距離だけではない。時間をも越える想いと関係を、身近な幼馴染や友

角栄先生と父の対話|武見敬三

文・武見敬三(参議院議員) 自民党新型コロナウイルス関連肺炎対策本部の顧問として、経済を生かしながらコロナを封じ込める最善策とは何か、自問自答する日々が続いている。 今、世間を見渡すと、「なぜ、政府は緊急事態宣言を出さないのか」「もっと夜の街を取り締まれ」「補償がなければ死んでしまう」と政府に次から次へと注文する声であふれているようだ。 だが、政府が極端に私権を封じることは、個人の自由と民主主義にとって良いことではない。政府が補償にばかり走ることも、私たちの子孫に大きな

子どもと学ぶ日本語の奥深さ|森顕子

文・森顕子(NPO法人プラス・エデュケート理事長) 私の住む愛知県は製造業が盛んで、ずっと前から外国人労働者を多く受け入れています。そのような方々の子どもに日本語を教えるのが私の仕事です。 大学時代、日本語教育について学んだものの、直接関係のない塾講師を経て高校の非常勤講師の職に就いていた15年ほど前のことです。日本には多くの定住外国人がいるにもかかわらず、その子どもたちへの教育環境、とりわけその基礎となる日本語教育の環境が未だ整っていないことを知りました。外国の方を身近

「Giri-Haji」の仲間たち|平岳大

文・平岳大(俳優) 寝耳に水。青天の霹靂。 最近2歳の誕生日を迎えたばかりの娘を、妻が漸く寝かしつけ、私達夫婦に束の間の静寂が訪れた、ある金曜日の夜の事である。映画でも観ようかと、テレビをザッピングする妻の隣で、私はおもむろに携帯でツイッターを始めた。検索ボックスに「Giri/Haji」と打ち込み、検索ボタンをポチる。「Giri/Haji」というのは2018年に英国BBCとNetflixの共同制作で作られた、東京とロンドンを舞台にした刑事ドラマで、私が主演を務めた。昨年公

川の流れと人の世は|髙樹のぶ子

文・髙樹のぶ子(作家) 私の祖父は農作業をしていて、茅か何かで目を傷付けたあとの手当が悪かったのか、片目を摘出し隻眼の人となった。けれどいつも、遠くを見ていた。たとえば千年の古(いにしえ)を。 我が家の田畑に沿って南北に流れ下る小川を、平安時代の周防国の国衙(こくが)跡の東の境界だと言い張り、なぜかと問えば、小川が真っ直ぐ南まで下って、直角に曲がっているからだと説明した。 川は大がかりに人手が加わらなくては、直角になど曲がらないものなんだ。 拙著「マイマイ新子」の書き