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どこかへ|角野栄子

どこかへ|角野栄子

文・角野栄子(作家) ここではないどこかへ行きたい――。ずっとそう思って生きてきたような気がする。80年あまりも。じゃ、どこへ行くの? それが決まってない。いつも「どこか」なのだ。でも、そこには何かがあるはず。それが見たい。「ここ」がすごく不満だというわけでもないのに、何故かいつも少し不安を抱えていた。その不安が足を前に動かしていたようにも思える。 5歳の頃から一人で遠出をしていた記憶がある。家は東京の外れ、小岩にあった。そこから区をまたいで柴又帝釈天までたびたび歩いた。

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コロナ下で読んだ「わたしのベスト3」 本の中を旅する|原田マハ

コロナ下で読んだ「わたしのベスト3」 本の中を旅する|原田マハ

新型コロナウィルスの感染拡大の影響で、春先に発出された緊急事態宣言下における移動の自粛要請は、作家という肩書きでなければいっそ「旅人」と名乗りたいくらい旅好きの私にとっては痛恨であった。ならば本の中を旅しようと思い立ち、読書に勤しんだ。しかし私はこんな時に旅がテーマの本を選んだりするほど素直ではない。旅の本を読めば出かけたくなるだけだ。ということで、手始めに昔むかし読んだ日本文学の古典を読み返してみることにした。 『お目出たき人』を読みながら、私は何度もひとりで笑い声を立て

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