文藝春秋digital記事TOPわたしのベスト3片山杜秀

【全文公開】名著の出にくい時代 片山杜秀さんの「わたしのベスト3」

慶應義塾大学教授の片山杜秀さんが、令和に読み継ぎたい名著3冊を紹介します。

片山さんver1 (1)

 平成は名著の出にくい時代だったと思う。過剰な現実が学問や文学の想像力を凌駕し、文脈を付ける前に、世界がいつも先に行く。令和に読み継ぎたい本を平成から探そうとすると、まとまった小説や評論よりも、断片的なインタヴューやツイッターや数字の羅列が思い出される。

 現実の過剰性を意識させた出来事に、たとえば平成7年の地下鉄サリン事件があった。大本教事件は高橋和巳の『邪宗門』を生んだけれど、オウム真理教の事件は全体小説的な構想力ではもはや捉まらない。教祖は裁判で何も語らず、彼を取り巻く人々はあまりに多く、皆が勝手な方を向いている。そこから生まれうる本は、関係者へのインタヴュー集くらいのものだ。村上春樹の『約束された場所で―underground 2』のような。この本は物語にならぬカオスへの耐え方を教える。

ここから先は、有料コンテンツになります。今なら初月無料キャンペーン実施中! 今後、定期購読していただいた方限定のイベントなども予定しています。

★2020年1月号(12月配信)記事の目次はこちら

 サリン事件から16年後、津波と原発という最悪の組み合わせがこの国を襲う。現在進行形のこのカオスを捉まえた名著は、むろんまだ存在しない。しかし断片からリアルを感じさせる本はある。ハッピーの著した『福島第一原発収束作業日記―3・11からの700日間』のような。ひとりの原発作業員のツイートがひたすら羅列される。何と生々しいことか。それにしても大切な時代の証言の著者が仮名とは!

 平成は事件だけでは語れない。政治なら政治改革。経済ならデフレ脱却。とても長くて、何がリアルでフェイクかよく分からない幾つもの筋書きが渦を巻き、令和に流れ込んでいる。そこで確かにあると言えるのは、政治も経済も数字だろう。GDPとか投票率とか。読売新聞東京本社世論調査部が平成16年に編集した『二大政党時代のあけぼの―平成の政治と選挙』にはたくさんの政治に関する数字が載っている。が、分析は誤っていたのだろう。「あけぼの」の後を、誰も説明も清算もできていない。そして「二大政党」に代わるお題目は令和の政治にない。いつ、どこで何を見誤ったのか。



【編集部よりお知らせ】
文藝春秋は、皆さんの投稿を募集しています。「#みんなの文藝春秋」で、文藝春秋に掲載された記事への感想・疑問・要望、または記事(に取り上げられたテーマ)を題材としたエッセイ、コラム、小説……などをぜひお書きください。投稿形式は「文章」であれば何でもOKです。編集部が「これは面白い!」と思った記事は、無料マガジン「#みんなの文藝春秋」に掲載させていただきます。皆さんの投稿、お待ちしています!

この続きをみるには

この続き: 0文字
この記事が含まれているマガジンを購読する
政治家や経営者のインタビュー、芸能人の対談、作家のエッセイ、渾身の調査報道、心揺さぶるノンフィクション……発行部数No.1の総合月刊誌『文藝春秋』が、あなたの人生を豊かに彩るコンテンツをお届けします。シェアしたくなる教養メディア。

文藝春秋digital

月額900円

月刊誌『文藝春秋』の特集記事&ウェブオリジナル記事が読み放題。2019年9月号以降の過去記事もアーカイブ。記事単体の購入よりもお得です。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
note.user.nickname || note.user.urlname

記事へのご意見・ご感想をお待ちしています。「#みんなの文藝春秋」をつけてご自身のnoteにお書きください。編集部がマガジンにピックアップします。皆さんの投稿、お待ちしています!

ありがとうございます!
4
シェアしたくなる教養メディア。100年近くの歴史がある総合月刊誌「文藝春秋」が、あなたの人生を豊かに彩るコンテンツを毎日お届けします。

こちらでもピックアップされています

文藝春秋digital
文藝春秋digital
  • ¥900 / 月

月刊誌『文藝春秋』の特集記事&ウェブオリジナル記事が読み放題。2019年9月号以降の過去記事もアーカイブ。記事単体の購入よりもお得です。

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。