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韓国大統領ブレーン、徴用工問題への提言「“文在寅は反日”の先入観を捨て、直接会って解決を」

任期満了まで残り1年4カ月を切った文在寅大統領。その政権発足以来、外交・安全保障政策におけるブレーンを務めるのが文正仁・統一外交安保特別補佐官(69)である。同氏は北朝鮮との関係改善を重視し、南北会談などにおいて重要な役回りを演じてきた。

一方、保守派からは「親北・反米のイデオローグ」として批判され、約1年前には国際会議で「北朝鮮の非核化が行われずに在韓米軍が撤退したら、中国が韓国に『核の傘』を提供し、北朝鮮と交渉する案はどうだろう」と中国側に問いかけ、物議を醸した。

外交は、相手国の内在的論理を知ることが第一歩とされる。凍りつく日韓関係について、文政権側はどう見ているのか? 徴用工問題などの対日政策においてもキーマンとみられる文氏に聞いた。/文正仁(韓国大統領府 統一外交安保特別補佐官)、聞き手・朴承珉(ジャーナリスト)

外交・安保のキーマン

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文氏

――2021年は米国でバイデン政権が誕生します。これによって東アジア情勢、そして韓国の外交に変化は予想されますか?

米中関係は今後も容易ではないでしょう。2020年7月、ポンペイオ国務長官がニクソン記念館での演説を通じて、事実上、中国への新冷戦を宣言しました。中国共産党政権に反対する立場を明確にし、中国が世界を変化させる前に中国を変化させなければならないと明言したわけです。そして全分野において中国を圧迫し始めました。地政学的には中国に対して封鎖戦略を展開し、地経学的にはデカプリング、脱同調化戦略を展開するということです。

バイデン政権はトランプ政権ほど一方的なアプローチをすることはないだろうが、反中基調は続くと思います。例えば、地政学的封鎖政策をトランプ政権ほどあからさまにはしないだろうが、同盟国と協力して中国の軍事的浮上を防ごうと努力するでしょう。経済的には、トランプ政権とは少し違うアプローチをするのではないか。経済や技術部門は、多国間協力を維持する中で解決していくのではないかと思います。

しかし価値観の問題、つまり民主主義、人権、少数民族政策、香港問題などについては、かなり正面から出てくるはずです。だから地政学的なものと価値観という2つの軸では、トランプ政権に劣らず対中圧迫が続くはずです。

バイデン 2020年11月号素材 (1)

バイデン大統領

韓日の「超越的接近」がカギ

韓国の基本的な外交政策は、第1に韓半島(朝鮮半島)では、核兵器のない平和、共同繁栄する韓半島づくりというのが文在寅政権の基本的な外交構想です。第2に地域においては、韓日中三国の首脳会談を活性化させ、ASEAN諸国との連帯を強化し、「開かれた地域主義」を深め、経済統合を加速化させることが基本的な枠組みです。第3に気候変動や感染症、大量破壊兵器など地球規模の懸案は、多国間協力を通じて解決するという構想です。

私が思うに、この3つの政策すべてがバイデン政権と対立することはないと思います。とくに3番目は、かなり合致するでしょう。韓半島では北朝鮮の核をどのように解決するかという課題が残っているが、韓米協力がうまくいくと思います。

しかし、2番目において、中国という問題が出てきます。韓国政府にとって米国はただ一つの同盟国だが、中国とも戦略的協力パートナー関係です。だから、両国との関係を上手く取りまとめていくことが望むところです。ただ、米国側が韓国に選択を迫る可能性はかなり高いでしょう。そこに我々の悩みがあります。韓国政府の基本的な立場は、新冷戦は望ましくない。米中が協力と競争の精神を持ち、多くの違いを克服することを願うものです。

米中対決が深刻化すれば、東アジアの軍事的緊張は高まり、経済的交流は縮小し、韓国や日本は得るものがない。だからこそ、韓日が協力して、米中関係を取り持つ方法を考案しなければならないのではないでしょうか。韓国や日本の保守勢力は、米国に足並みを揃えようと主張しますが、それによる様々な機会費用(基地負担など)自体が韓国や日本に大きな困難をもたらすため、望ましいこととは思えません。やはり、韓日が協力しなければならないということです。

1969年にニクソン大統領が「ニクソン・ドクトリン」を宣言した後、在韓米軍と在日米軍の撤退論まで出て、米国が韓国と日本を放棄するという認識が広がりました。その頃、福田赳夫首相は朴正熙大統領とかなり密接な関係でした。韓日は同じ立場であると理解し合い、金大中拉致事件後の厳しい外交関係であったにもかかわらず、戦略的次元で多くの協力をしました。

私は、まさに今こそ当時を思い出す時ではないかと思います。韓国と日本が知恵を出し合えば、米中の葛藤局面を防ぐのに、斬新な外交的構想を出せるのではないか、こうした「超越的接近」が必要です。超越的アプローチの核心は、韓日両国の指導者間の緊密な協力です。

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リチャード・ニクソン

日本政府は韓国人の心をつかめ

――しかし、日韓関係は徴用工問題で暗礁に乗り上げています。

日本では「徴用工問題が解決されなければ、韓日首脳会談や韓日中三カ国首脳会談は難しい」との報道があるが、それは望ましくないと思います。むしろ、徴用工問題があるからこそ、首脳会談は開かれるべきです。会ってこそ解決の糸口がつかめるではないですか。

日本の首相が北朝鮮の金正恩委員長には「無条件で会う用意がある」と言いながら、韓国には「徴用工問題が解決されなければ訪韓しない」と条件をつけるとすれば、韓国の国民情緒にも合わないでしょう。建設的な韓日関係のために、それはよくない。歴史問題を解決するには、まずは大韓民国の国民の心をつかまなければならないのです。日本は大局的な政策をとるべきです。

――昨年11月、朴智元・国家情報院長が来日し、菅義偉首相と会談しました。この時、朴氏が新たな「韓日首脳共同宣言」を提案したと報じられています。韓国政府は日本との関係を改善したいと考えているのでしょうか?

朴氏は政治家出身で、1998年に金大中大統領が小渕恵三首相と会談し「韓日共同宣言」を発表した際に相当深く関与しています。当時から二階俊博・自民党幹事長と兄弟のような親密な間柄です。ただ、今回は密使ではないようです。公の訪日ではなく、二階幹事長など古くからの人脈を通じて突破口を探したいと思って自発的に行ったと聞いています。もちろん帰国後に文在寅大統領に報告はしたと思いますが。

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徴用工への賠償を訴えるデモ

歴史問題よりも経済協力が先

――韓国の文喜相・前国会議長が提案した解決案(日韓の企業と個人の寄付金で日本企業の賠償金を肩代わりするプラン)が一時は有力視されていましたが、韓国では実質廃案となりました。実効的な解決策はないのでしょうか?

私は、今の様々な制約を考慮して、いわゆる「文喜相案」が現実的代案の一つになりうると思います。

大法院(最高裁判所)は三菱重工業や日本製鉄など日本企業に賠償金を支払うよう命じる判決を出しましたが、大韓民国は三権分立で、大統領が大法院の判決を覆すことはできません。日本も民主主義国家ですから、よくご存知でしょう。

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