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嘘つき文化|藤原正彦「古風堂々」

文・藤原正彦(作家・数学者)

ある中国人は「私は家でも学校でも、嘘をつくなと言われたことがない。嘘をついて怒られたこともない」と言った。「嘘つきは泥棒の始まり」と親から言われる日本人とは大分違う。別の中国人は、「子供の頃から、外出する時には親に『騙されないようにね』とよく声をかけられた」と言った。清末の中国で50年余り布教活動をした米国人宣教師アーサー・スミスは、「中国人には嘘が多いため相互不信が蔓延していて揉め事が多い」と書いた。中国をよく知る人はしばしば「嘘と騙しは中国の文化」とまで言う。だからこそ、「毒ギョーザの毒は日本で入れられた」、「中国新幹線は独自技術によるもので死亡事故を未だ起こしていない」などと平気で言う。

朝鮮半島も小中華を自認してきただけに似たようなものだ。日韓条約や合意の一方的無効化、自衛隊機へのレーダー照射での見えすいた嘘、北朝鮮の拉致否定や横田めぐみさん遺骨事件、などが記憶に新しい。昨年、李栄薫ソウル大学元教授が、「反日種族主義」(文藝春秋)で、韓国教科書が嘘だらけであることを暴き、「韓国の嘘つき文化は国際的に広く知れわたっています」とまで書いた。

欧米では、訪れるたびに嘘や差別に出会うパリなどを除き、あからさまな嘘に出会うことは少ない。ただ国家は巨大な嘘をつく。アメリカはベトナム戦争でのトンキン湾事件、イラク戦争での大量破壊兵器など、でっち上げの専門家だ。東京裁判でも、終戦まで存在しなかった「人道に対する罪」や「平和に対する罪」をでっち上げ、戦勝国側の行為は不問に付した。だから原爆投下のトルーマンやマッカーサーは絞首刑にならなかった。歴史教科書では、先住民への残虐な迫害とか、カリフォルニアなど西部諸州のメキシコからの強奪などにほとんど触れず、原爆投下という人道への最大の犯罪を、戦争を早く終わらせるために必要だったと正当化している。

イギリスは第1次大戦中、フサイン・マクマホン協定で、オスマントルコ領内のアラブ人にオスマンへの反乱と引換えに、居住区の独立を認めると約束した。その翌年には秘密裡にサイクス・ピコ協定を仏露と結び、オスマントルコ領の分割を密約し、その翌年には戦争資金のため、ユダヤ人のパレスチナ入植を認めるバルフォア宣言を出す、という三枚舌外交をした。現在の中東問題の大半はここに帰因する。嘘と騙しと暴力により黒人奴隷をアメリカ大陸へ運び、アヘンを中国に運んでボロ儲けし、世界中の植民地で搾取し続けたのもイギリスだ。なのにオックスフォード大を優等で出た私の女友達は、「アヘン戦争を学校で習ったことはない」と言った。ドイツは、前大戦の蛮行をすべてヒトラーとナチスに負わせようと励んでいる。しかし民主的な選挙でナチスを第1党にしたのは国民だった。ヒトラーの総統就任、国際連盟脱退、ラインラント進駐、オーストリア併合などの直後に行われた国民投票で、常に90%以上という圧倒的支持をしたのも国民だった。

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