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【81-芸能】新團十郎は歌舞伎の救世主になるか|九龍ジョー

文・九龍ジョー(ライター/編集者)

歌舞伎の可能性を見据えた実験

400年に及ぶ歴史のなかで、何度も危機に見舞われてきた歌舞伎。とはいえ、感染リスクにより人が集うことを難しくする新型コロナウイルスの影響は、未曾有の事態をもたらしている。歌舞伎座や国立劇場をはじめ、歌舞伎公演がすべて中止となったのが3月頭のこと。当初は様子見を経て再開という途も残してはいたが、結果そのまま丸5ヵ月間の自粛期間へと突入した。

本丸ともいえる歌舞伎座は、もともと営繕のため4月は休場と決まっていた。無論それは翌5月から3ヵ月間にわたり開催予定だった市川海老蔵改め十三代目市川團十郎白猿の襲名披露興行に向けての準備期間、という意味合いもあったのだろう。35年前に行われた海老蔵の父、十二代目團十郎の襲名披露興行も、歌舞伎座で3ヵ月間開催され、実に35万人を動員したと言われている。その数字は、今回の襲名でも1つの目安となっていたはずだ。目論見通りに運べば、7月下旬からは東京五輪も始まり、関連セレモニーも予定されていた。その後の地方巡業も含めて、日本全国で新團十郎フィーバーが起きていた可能性は極めて高い。だが、4月7日の緊急事態宣言発出を受け、襲名披露興行の延期が時期未定のままアナウンスされるに至った。

興行会社である松竹と歌舞伎俳優とは公演ごとの契約となる。中には大手芸能プロ(松竹系列のプロダクションの場合も)に所属する者もいるが、多くは個人事業主であり、基本的に公演がなければ収入が断たれてしまう。衣裳や大道具・小道具といった裏方はさらに深刻だ。

そんな中、最初に動いたのは松竹社内の有志と、それに呼応した松本幸四郎だった。俳優がリモートで共演する配信公演、その名も「図夢歌舞伎」を企画。「仮名手本忠臣蔵」全11段を5回に分け、ライブ配信を行った。手探り感のあるクオリティではあったものの、意義ある一歩であったことは間違いない。

新進気鋭の若手である中村壱太郎(かずたろう)も、通常の歌舞伎の座組が組めないことを逆手にとり、盟友ともいえる尾上右近とともに、若手の舞踊家や和楽器奏者、さらにエンタメ界やモード界の第一線で活躍するスタッフを起用した「ART歌舞伎」という配信公演を行い、高評価を得た。壱太郎は自身のYouTubeチャンネルも起ち上げ、舞踊作品を中心とするオリジナル作品の発信も行っている。

これらを皮切りに、配信を前提とした歌舞伎公演は、早くも珍しいものではなくなってきた。ただ、先陣を切った幸四郎と壱太郎がひと味違うのは、舞台公演の自粛がきっかけではありながらも、単なる代替手段ではなく、今後の歌舞伎の可能性を見据えた上での実験であったことは特筆しておきたい。また、この2人が発起人となり起ち上がった日本俳優協会と伝統歌舞伎保存会の公式YouTubeチャンネル「歌舞伎ましょう」では、大幹部から名題下俳優、演奏者まで幅広く歌舞伎に携わる職能者が動画コンテンツを公開し始めている。

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