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経済サブスクリプションは持続可能か

文・若林恵(黒鳥社コンテンツディレクター)

 サブスクリプションモデルの話をする前に、広告モデルの話をしておいた方がいいかもしれない。

 広告モデルは、本質的には「電波モデル」と呼ぶべきものであって、そもそもがラジオやTVを対象としたマネタイズの手法だ。この手法が必要とされた背景には、言うまでもなく「電波には課金できない」という根本的な問題がある。受信機があれば受信できてしまうのでお金を払った人だけが聴いたり見たりすることができるという選別をすることができない。商品に価格がないという意味において、このモデルはどちらかというと特殊なものだ。

 コンテンツを「コンテンツ価値」としてではなく「広告価値」として値付けするために、そこでは「露出」の量が指標とされる。番組やその番組に関わる人びとの能力よりも露出量の勝負となる。TVタレントは、テレビでいくら人気者になってもギャラは上がらず、代わりに広告出演料が上がっていく。番組への出演は、広告出演料をあげるための踏み台でしかない。逆に言えば、タダで露出すればしただけ、コンテンツとしての価値も、そこに関わる人たちの価値も下がっていくことになってしまう。広告価値とコンテンツ価値は、多くの場合、トレードオフの関係となる。であるがゆえに、コンテンツ価値を不問とする広告モデルは、そこに安全弁がともなわない限り、コンテンツのつくり手を堕落させるシステムとなる。

広告価値とコンテンツ価値の違いとは

 インターネット上のメディアサービス、例えばフェイスブックやユーチューブは、それが広告モデルを採用した時点で「リーチを取るためならなんでもする」ための空間となっていくことは、そう考えれば容易に想像できた。フェイクニュースの蔓延は広告モデルが採用された時点でわかり切った結末だった。とすれば、その反省を受けて、さまざまなサービスが無料提供を廃止し有料化に踏み切ったことも必然と言える。

 そもそもアメリカでは、テレビは長いこと無料ではなかったし、そもそも「電波」ではなかった。MTVやHBOといったチャンネルは有線、つまりはケーブルテレビで、これは月額有料課金のサブスクリプションモデルだった。地上波では見れない映画や音楽コンテンツにアクセスしようと思ったらお金を払うのは長らく習慣化されてきた視聴者側の態度であったし、それはもちろん巨大なビジネスともなってきた。もちろん、そこではコンテンツの良し悪しが、大きくものを言う。面白く話題性のあるコンテンツを継続して提供するという約束を果たしてくれそうに思えるチャンネルがそこでは価値をもつ。

 コンテンツ商品のユニークなところは、それがほとんどの場合「前払い」を要求する点だ。本も、映画も、それを視聴し終えてからお金を払うことはない。読む前、観る前に払わなくてはいけない。

 先に言った「約束」ということばは、コンテンツ商品についてはなおさら大きな意味をもつ。ネットフリックスに毎月お金を払い続けるということは、そのサービスが、そこにアクセスするたびに、少なくとも自分が期待したような、もっと望めば期待を超えるコンテンツが常に存在することへの期待を表明することにほかならない。加えてそこには、それが持続的に実現されていることへの期待も加味されている。その期待に応えることはコンテンツ提供側からすると、相当に困難なタスクとなる。コンテンツの仕入れに莫大な人員やコストが必要となるだろうし、優秀な人物やプロダクションの参加を求めれば、そこにも莫大なコストがかかる。

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