藤田菜七子

JRA唯一の女性騎手藤田菜七子はG1で勝てるのか!?

文・平松さとし(競馬ライター)

 2020年にデビュー5年目を迎える藤田菜七子騎手(22)。現時点でJRA唯一の女性騎手である彼女が、果たしてG1を勝てるのか!? というテーマでの執筆を依頼された。実際にその可能性はどのくらいあるのか? ここまでの成績と関係者の証言から、そのあたりを推測していこう。

 彼女がデビューしたのは16年。可愛らしいルックスと、JRA(日本中央競馬会)では久しぶりに現れた女性騎手ということで、またたく間にお茶の間の人気者になった。デビュー戦や初勝利はもちろん、落馬や武豊騎手と言葉をかわしたというだけで、それらはニュースとなり、競馬面やスポーツ面を飛び越え、社会面やワイドショーでも扱われた。

 しかし、現実は厳しかった。当時まだ20歳にも満たない彼女は、その一挙手一投足が自分でも想像出来なかったくらい注目された事に戸惑いを感じていただろう。1年目の勝利数は6。人気に比例した成績を残す事が出来ず、悩んだことであろう。

「こんな可愛らしい顔をして、実は男の子よりも負けず嫌い」

 そんな時、そう語っていたのは根本康広調教師。藤田騎手が所属する厩舎の調教師、すなわち師匠である。

 この師匠の言葉に誤りがない事を、彼女自身が徐々に証明していく。先述したように大きな注目を浴びながらも1年目は6勝するにとどまったが、彼女の心は折れなかった。むしろ負けじ魂に火がついたか、2年目は14勝、3年目が27勝。そして、4年目となった19年も、夏の時点で既に前年を上回る勝ち鞍をマーク。成績は右肩上がりで良くなっていった。

 負けたレース後の彼女は厳しい表情を崩さない。たとえそれが未勝利戦で、そもそも全く人気のない馬での競馬であっても、唇を真一文字に結びながらパトロールフィルムをにらみつけるように見る。根本調教師の言ではないが、負けず嫌いである事がよくわかるシーンである。

 しかし、負けず嫌いであれば成績が伸びるかと言うと、そんな単純なモノではない。これはあらゆるスポーツや、スポーツ以外でも言える事ではあるが、精神論だけで乗り切れるほど、競馬の世界は甘くない。つまり、彼女が年々その成績を伸ばしているのには、それなりの理由が他にもあるのだ。

 例えば先述したレース後の様子。パトロールフィルムを凝視するのは、単に負けて悔しいから、ではない。もっと着順を良くするためにはどの場面でどんな手綱さばきをすれば良かったのかを考えながら見る。つまり、次のレースへ向けての下準備であり、復習をすぐに行っているのである。更に先輩騎手にアドバイスをもらうなどして積んでいった経験が、数字となって表れているのが、その成績そのものなのである。

 そしてその経験値をアップさせる近道が競馬にはある。同じ競馬場で同じ相手(騎手)と戦うばかりでなく、普段は乗らないコースや対戦しないジョッキーとあいまみえる。そうする事によって学んだものは、ルーティンの何倍、時に何十倍もの経験値を生む。

 そういう意味で、彼女は恵まれた環境にあった。デビュー当初から、JRAだけでなく、地方競馬でも数多くの騎乗を得た。オーナーや主催者、そして、彼女自身の「1つでも多く騎乗したい」という想いが合致したのである。

 更に、大きかったのが、海外での騎乗だ。日本にはない形態の競馬場が散見される海の向こうで、日本にいるだけでは戦えないジョッキー達と一緒に馬に乗る。本人が望んでもそういう機会を得る事はなかなか難しいのだが、JRA唯一の女性騎手である彼女には、デビュー年から海外参戦のチャンスが舞い込んできた。男社会に果敢に飛び込んで来た彼女へのご褒美だ。

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