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2022年2月号|三人の卓子 「文藝春秋」読者の感想文

思い出と辿る100人

新年特別号の「100年の100人」、どの人の評伝から読もう? とちょっと思案したが、やはり大学時代民俗学を専攻したので「柳田國男」からかとページをめくった。お孫さんの文章では「2万冊の蔵書すべてに印が」と。氏の博覧強記の源はそこにあったのだなと納得した。我が蔵書「定本柳田國男集」三十数冊さえ私は十分読みこなしていないというのに。

次はやはり「夏目漱石」。中学時代『坊っちゃん』を読んでからこれまでほとんどの小説を読んできた。もちろん『道草』も読んだが、やはり私の一推しは『三四郎』だ。

同じ頃、私を夢中にさせたのが松本清張だった。東京・渋谷に大盛堂という書店があり、あるとき店頭に『蒼い描点』という推理小説が堆く積まれていた。見ていると、次々に買われていく。それで私もつられて買い、帰りの電車で読み始めたら終わらない。これが病みつきの始まりであった。

挙げればきりがないが、そんな中で失礼ながら私が名前さえ存じ上げない方が4人おられる。大山倍達、渡辺和子、おそめ、辰野金吾の方々。これを機に、と各氏の評伝を丁寧に読ませていただいた。その世界では右に出る人はないぐらいの存在だと知り、無知で、穴があったら入りたいといった心境である。

(安達郁雄)

闘病記のすすめ

本誌1月号の塩野七生さんによる闘病記『ローマでの“大患”』、小椋佳さんの『静かに消えていきたい』を読んで考えさせられている74歳の老人です。

実は私も1年8ヶ月前に生まれて初めての入院、手術を経験しました。

「両側腸骨大動脈瘤」という大袈裟な病名で、骨盤付近の動脈血管に直径4センチの動脈瘤が2つもできており、いつ破裂してもおかしくないという状態でした。

何日もかけて全身の様々な検査の後、いよいよ手術ということになり7名の医師、8名の看護師が朝の9時から夕方6時半までかかって30センチほど腹を切り、一旦内臓を外へ出して脊髄に沿った動脈を人工血管に入れ替えてくれました。

手術はうまくいきましたが、2日目から術後の合併症が次々と出始めて再びICU(集中治療室)に逆戻り。様々なチューブに繋がれ、12日間寝たきりに。腸閉塞、腎不全、その他もろもろ。72年間全くメンテナンスをしていなかった私の内臓は、次々とストライキを起こしたのです。

ICUの病室は24時間体制で医師と看護師がつきっきりです。70年ぶりにオムツを付け、3日目くらいから今が昼なのか夜なのかわからなくなり、病室の白い天井いっぱいに見事な幻覚が現れました。横尾忠則の極彩色の曼荼羅、色鮮やかな青森のねぶた祭り、ナスカの地上絵(これは白黒)、25年前に死んだ義父もひょっこり出てきました。

13日目、やっとのことでICUを出ることが出来ました。一般病棟に戻りましたが、寝たきりの12日間だったので全身の筋肉が落ちて、歯ブラシも持てないような状態。でも、ICUに比べたら一般病棟はホテルのようなものでした。

40日間の入院を経て、私は生還しました。

プロではないのでうまく書けませんが、「闘病記」というのを書いてみたらこんな調子かなと思います。

非日常の入院生活も見方を変えるとけっこう楽しいこともあります。塩野さん、小椋さんもどうかお元気にお過ごしください。

(森本敏喜)

寂聴さんの素晴らしさ

今から半世紀近く前、女流作家として名声と人気を不動のものとしていた瀬戸内晴美さんの突然の出家は、当時20代だった私にとってもセンセーショナルな出来事であった。

1月号に下重暁子さんが寄稿されている『寂聴と晴美』を読み、驚きや動揺がリアルに伝わり、私自身、当時の記憶が鮮明によみがえった。

もともと仏具屋の娘に生まれた瀬戸内さんだけに、仏や尼に対しては遠からぬ存在としての想いを抱いていたのかもしれないが、それにしても突然の剃髪とはよほどの覚悟がないとできるものではない。

小説『夏の終り』に書かれた不倫騒動の果て、等当時さまざまな憶測がなされたが、やはり一番の理由は、まだものごころもつかない娘を置いての年下の愛人との出奔にあったようだ。人間、そして母親である前に一人の女性として性の悲しみを身をもって知った瀬戸内さんの決断だったのだろう。

彼女の素晴らしさは、尼になって単に隠遁するのでなく、亡くなるまで書き続け、人々の声に耳を傾け励まし、さまざまな活動に精魂傾け続けたことにあるだろう。

そのバイタリティに脱帽である。

(荒木雅子)

対藤井戦の秘策

新年特別号の深浦康市9段による『私はなぜ藤井聡太に勝てるのか』を興味深く読みました。藤井聡太四冠といえば将棋界に現れた大天才で、次々とタイトルを獲得しながら防衛もし、快進撃を続けています。しかも、まだ19歳という若さ。これからどれだけ強くなるか計り知れません。しかしその藤井四冠でも、無人の野を行くというわけにはいかないようです。深浦9段が立ちふさがりました。

対藤井戦で3勝1敗、2つ以上の勝ち越しは深浦9段だけとのこと。今回、その秘策を明かしてくれています。

将棋雑誌などで、両者の対戦棋譜を見ていても、棋士の心奥に秘めた思いまではなかなか読み解くことができません。今回の記事に、その心奥を垣間見ることができたような気がします。

棋歴30年、900近い勝ち数も偉業ですが、慢心することなく、AIを用いて戦法を研究し、常に最善手を求める姿勢は見事です。

「経験は活きない」

深浦9段は言います。

「長年の勘が働くことはありますが、経験に頼るのは危険です」、と。

私は一将棋ファンに過ぎませんが、覚えがあります。棋歴60余年の私、小学生にも簡単にヒネられます。

AIを駆使し、同時に人間味のある「粘り」を持ちながら研究を続ける深浦9段。

「藤井さんと次はタイトルを懸けた舞台で戦うことを目標にしています」とおっしゃいますが、その目標が達成されることを陰ながら祈っています。

(木村繁樹)

「愛子天皇」の検討を

1月号『愛子天皇は実現するか』を読み、感銘を受けた。政府の皇位継承問題の議論の場に参加した元総理大臣である野田佳彦氏、元官僚の古川貞二郎氏、歴史学者の本郷恵子氏による、当事者ならではの密度の濃い鼎談であった。

以前から皇位の安定継承に関心を持っていた私は、新たな有識者会議についてはかなりの期待を寄せたが、全体的に「何を今さら」という内容で、隔靴掻痒の思いだった。

その中にあって、ヒアリングに呼ばれた本郷氏の「内親王と女王にも皇位継承資格を」という意見は的を射ていると感じていた。

今回の記事でも、皇室史関連の著書のある氏ならではの発言が光っていた。

「血統を備えた身体や生理そのもの」「女性を排除する論理は入ってこない」などがそれだ。

「小泉政権下の有識者会議の頃から、かなり議論が後退した印象」にも同感である。

野田佳彦氏は、奈良時代の女性天皇・元正天皇に言及するなどかなり調べているのが分かり、現職の国会議員としての頼もしさを感じさせられた。古川貞二郎氏は制度やエピソードなどを丁寧に語り、いわゆる官僚的な堅苦しさなどは無く、皇室への尊敬の念が言葉の端々に滲み出ていたのが印象深かった。

やはり「旧宮家の皇籍復帰」では無理があるだろう。岸田首相には国民の自然な気持ちをよく聞いて、「愛子天皇」実現への道筋を検討して独自性を発揮していただきたい。

(丘哲也)

150年前の新しい資本主義

NHK大河ドラマ「青天を衝け」で、岩崎弥太郎と渋沢栄一が言い合う場面を見た。

折しも、新年号で『新しい資本主義と渋沢栄一』を玄孫の渋澤健が書いている。「新しい資本主義」をよく耳にするようになったが、記事を読んで少し分かったように思う。

栄一は、合本主義を主張する。多くの民から金を集めて大きな流れを作り、得た利でまた多くの民に返し、多くを潤すと言っている。この考えを、何と150年ほど前に言い表し、それだけでなく、実践し、500社以上の会社を運営したと言うから、凄い人である。

今の岸田首相が共鳴し、成長戦略と分配戦略を車の両輪に新しい資本主義を起動すると言っている。何と栄一の考えとぴったりではないか。今までの資本主義は、利益重視だったようで、私もどこかおかしいと思っていた。新しい資本主義とは、人的資本の向上であるとも言っている。現在の政府による政策と実践で、世の中が成長し良くなるように思えるし、そう願いたい。

筆者は、今の日本に求められるものに、環境、医療、人的資本の3つの向上を挙げている。では自分には、何が出来るだろうか。

私は、70歳を過ぎ、無職のため、考えてしまう。考え方を知るのもいいが、何か物足りない。本を多く読み、考えをまとめ上げ、書くことで人に知ってもらうことを増やすことなのか。これしかないように思える。

(徳田光雄)

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