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【イベントレポート】 文藝春秋100周年シリーズ 「デジタル販路拡大」カンファレンス 2025年の「消費者行動・EC市場」予測 - D2CモデルでEC販路を拡大するために必要なこと -

文藝春秋digital

政府は去る6月1日より新型コロナウイルスの水際対策を大幅に緩和し、1日当たり1万人の入国者枠を2万人に拡大した。感染状況が落ち着いている国を中心に、徐々にではあるが、外国人観光客の受け入れが増えていくことで、経済活動の正常化に軸足が動き始めている。

こうした中、コロナ禍の生活様式の一変により多くの企業が強化し、市場が急拡大した物販系ECの動向と今後の消費行動の予測にも注目が集まっている。消費者とのリアルでの接点が減り、オンラインでのコミュニケーションが進化していく中、オンラインとオフラインを併せたOMO(Online Merges with Offline)施策により、「探す」という行為から好みに合わせて表示されるものの中から「選ぶ」など、購買体験の高度化も「販路拡大」「売り上げ拡大」と併せて不可欠となってきている。

国内外の人の移動や経済活動が活発化していく中、オンラインでの消費者行動をしっかりと予測し変化に対応していくことが、今後のビジネス成長のカギを握っているといえるのではないだろうか。本カンファレンスでは、2025年の「消費者行動・EC市場」予測をテーマに、消費者行動の変化やEC・D2C(Direct to Consumer) の最新トレンド、世界市場への挑戦、デジタル販路拡大の可能性などについて、有識者の講演や、実践企業の経験談を通じ考察した。

■基調講演

2025年の消費行動予測
~ EC・D2Cの先にある世界 ~

田中さん①

田中 道昭氏(立教大学ビジネススクール 教授)
シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略およびミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)などを経て、現在は株式会社マージングポイント代表取締役社長。

○EC、D2Cで重要なこと
冒頭、ネット戦略を連鎖の中核として全てのPDCAを回すことと、経営戦略としてのネット戦略の事例を引いて、ECでの戦い方において本当に重要なことは「グランドデザインや戦略」であることを提唱。項目に沿って順次講演を進めた。以下は要旨。

アマゾンは“地球上で最も顧客第一主義”というマクロ宇宙を構築し、顧客一人ひとりをミクロ宇宙の中心に置く。生活サービス全般でのエコシステムと、プライム会員サービスの一環としてECを展開しているところが、他の事業者と違う決定的な強み。ウォルマートは“スーパーセンター×スーパーアプリ帝国”としての“レイヤー構造×バリューチェーン構造”の一環として、また、楽天はエコシステム(楽天ポイント経済圏)の一環として、ユニクロはビジネスモデル=企画・生産・販売の一環として、それぞれECを展開している。ECでの戦い方の裏側、水面下にあるものが何であるかを読み解き、自社で整えることが大切だ」

○スーパーサンシ、ネットスーパー黒字化に見るEC成功の要諦
三重県のスーパーサンシは①自社配送は黒字化の鍵 ②有料会員制で配送料顧客負担、顧客の利用促進 ③顧客宅にロッカー設置で確実な配送 ④スマホ(アプリ)自社開発・運用でコスト削減とスピード対応実現、という“オセロの4隅”を押さえ成功した。同社の黒字化への意思や危機感の強さ/顧客志向=カスタマー・インティマシー※/ライフタイム・バリュー(LTV)=顧客との長期関係性構築、は、全てのECビジネスに通じる。
※カスタマー・インティマシー(customer intimacy):顧客と親密な関係を築き、絆を強固にすることで顧客を囲い込み、長期にわたる安定した良好な関係を築いて戦略的優位性を保つ考え方。

○“アマゾン流”EC成功の要諦
アマゾンはECだけで戦っていない。自社の取引フローの先に社員を配置しその先に顧客を「来させる」こと、つまり企業を宇宙の中心に置くことより、顧客を宇宙の中心に置くことを優先し徹底している。同社のEC成功の三大要因は、低価格/豊富な品揃え/迅速な配達。これらの3つを“ジョブ”化し常にDXによる改善を図り、300年単位の超長期で考え、常に顧客の声に耳を傾けて数分単位の超短期でPDCAを回している。あなたの会社のECにおける三大要因は何か?を常に考えて欲しい。

○EC、D2Cの先にある世界
2022年のトレンドはD2CからD2A(Direct to avatar)だ。メタバースやNFT(Non-Fungible Token=非代替性トークン)、デジタル・アイデンティティの普及が本格的になり、また、低い開発コストと強固なユーザー・ベースが新規参入を促すことから、マス・ファッション・ブランドはすべてアバター・エコノミーを活用するようになる。

例えば、メタバースの本命と言われているRoblox社のビジネスモデルは“エンタメ×ゲーム×ソーシャル”。いわゆるSnapchat世代(13~34歳)は、他の世代の3倍AR=拡張現実を活用している。Meta社(旧Facebook)のワイヤレスのオールインワンVR=仮想現実である「Meta OCULUS」は、実際には行けない場所に実際に行っているようなリアルすぎる体験、没入感が味わえる。これから発表されるであろうアップルのAR/VR端末にも大いに期待する。

○2025年の消費者行動予測~消費者の価値観の変化を掴む
米国GAFAM各社の重要な行動様式の特徴は、メガトレンドをつかむ/人々の価値観の変化をつかむ/大胆なビジョンを描き迅速に行動する、つまり「変化に敏感で素早く実現」、だ。未来予測関連の多彩な知見に富む書籍『シグナル:未来学者が教える予測の技術』(Future Today Institute主宰のエイミー・ウェブ著)を推奨する。Future Today Instituteのレポートや推奨書籍シグナルでは、変化の要因を見極めるには矛盾、変曲、慣行、工夫・創意、極端、例外・希少に着目せよ、とある。

『ビッグ・ピボット』(アンドリュー・ウィンストン著)によると、世界の重要な潮流として「もっと暑くなる(環境問題)、もはや隠せない(不正問題)、もっと足りなくなる(資源問題)」がある。そして、これらを大いに問題視しSX(Sustainability Transformation)を希求するのがZ世代だ。Z世代はデフォルトでサステイナブル重視であり、①世界ではZ世代が最大の人口ボリュームゾーン層である ②グローバル化したZ世代はデジタルでつながっている ③Z世代はデフォルトで環境問題、気候変動問題や人権問題には関心が高い、ことから、未来予測をするにあたっては非常に重要な世代と言える。

田中さん②

コフォート分析(年齢効果、時代効果、世代効果から変化を分析する)を行うことで、消費行動予測がより合理的に実施可能だ。コフォート分析の中でも、年齢効果と世代効果はより正確性が高い分析になり、コフォート分析を行うことで当該世代の価値観の特徴を掴むことが可能だ。人口が多くグローバル化したZ世代は世界の最先端を求めており、人口構成比上はZ世代が少ない日本においてもその影響力は大きく、あなたの会社が世界市場に挑むきっかけになるターゲット層になる。

○売上増大のためのデジタル化戦略
デジタル化戦略にあたってはブランディングが大事。顧客のマインドの中にあるポジションをそのまま読み解くことが大切だ。商品が選ばれる2つのポイントは「類似化」と「差別化」。三大コンビニエンスストアの比較でも分かることだが、他のブランドと共有されている特徴を持つこと=まずは買ってみたいと思われることが類似化であり、他のブランドとは違う“売り”があることが差別化。多くの場合、ポジショニングの鍵は、差別化よりもまず類似化の達成にある。

○アマゾンのジェフ・ベゾズが○○の社長だったら?
アマゾンのジェフ・ベゾズが日本のローカル企業の社長だったら、こう打ち出すのではないか。
・ミッション:地球上で最も顧客中心主義の会社 
・戦略:一人ひとりの顧客を宇宙の中心に置く 
・組織:Day1カルチャー=毎日が初日、を徹底 
・体験:サービスを感じさせないスピードを顧客に提供
 

ベゾズは、『ワシントン・ポスト』紙の買収時に社内で以下のように言明している。これらはローカル企業にとって非常に参考になる。
「デジタルがもたらす“痛み”は受けているのに、なぜ“ギフト(贈り物)”のほうは受け取らないのか? デジタルは確かに広告という収入の柱を奪った。だが、同時に世界中に追加費用なしで記事を配れるというメリットをもたらす存在でもある」
「これまではワシントンの住民相手でよかった。でもデジタル時代には全米、さらには世界で読まれる媒体を目指さなくてはいけない」

ECやD2Cにより、ローカルニッチをロングテールでグローバルに届けることができる。“地域の日常”が“世界の特別”になる。日本国内の“ガラパゴス市場”だけ見て満足するような日本の“ローカル企業”にならないこと。そして、自らの視座はデジタルの優れたところを活用しグローバル競争に向けること──以上を意識してほしい。
 

■課題解決講演

D2C×ECシフト最前線
~ 2025年のデジタル消費予測とEC販路拡大のために取り組むべきこと ~

立川さん①

立川 哲夫氏(株式会社いつも 執行役員)
EC・D2Cマーケティング支援を手がける株式会社いつも(東証グロース市場上場)執行役員。メーカー・ブランドの日本流D2C戦略の提唱者の一人で、書籍『2025年、人は「買い物」をしなくなる』の企画に携わる。自社公式EC、Amazon、楽天市場、Yahoo!ショッピングを同時に活用してEC事業拡大を目指す大手メーカー・ブランド保有企業に対して、戦略立案、実行モデル提言を行っている。

いつもは、様々な商品カテゴリー/ECバリューチェーン全体/複数ECプラットフォーム、以上全てへの展開に対応している。立川氏はそれらの経験から得た最新・最前線のD2C、EC市場情報と販路拡大手法を紹介した。以下は要旨。

物販小売り市場はここ20年ほどは総額130兆円前後で横ばいで推移しているが、物販系EC市場は右肩上がりで拡大し、2021年度は約13兆円を突破する規模となった(同社推計値)。“買い物”の概念が変わり、商品を知る(知ってもらう)場所、検索する場所も年齢・世代により多様化している。

平均単価も異なる。例えば「化粧水」の売れ筋上位商品の平均売価では、当社がとあるタイミングで同時期に調査したデータでは、実店舗でのそれは568円であるのに対し、楽天では8672円、Amazonでは1179円であった。買い物の仕方としては、「ソーシャルショッピング/PtoC」=著名人の推奨や友達の口コミなどで買う、などが台頭してきている。デジタルシェルフ(棚)はますます重要になる。

立川さん②

米国と同様に日本でも今後Amazon/D2C企業の成熟が進み、サステナビリティ経営や有力企業へのM&Aが進み、EC比率は10%台へと伸長するだろう。さらなるEC販路拡大のためには、オムニチャネル・OMO/サステイナビリティ・エシカル/ストーリー・理念経営、の3つがビッグワードになる。例えば、一取引あたりのCO2排出量では実店舗よりECのほうが低くサステイナビリティ経営に寄与する、というデータもある。

自社ECも重要で、ここ2年で成長企業が取り組んだこととしては、ブランドストーリーの見直し/強化カテゴリーの再設定/SEOの見直し/SNSの活用目的見直し/サイト改善および集客効果向上、などが挙げられる。また、自社ECにおいては「お届け・開封」接点の見直し、改善も効果的だ。

大手デジタル・ショッピングモールはそれぞれ顧客層や特徴が異なる。モール別にそれらをしっかり見極めて、楽天市場、Yahoo!ショッピング、Amazonなどそれぞれの特性や頻繁に更新される最新機能に合致した戦略立案をし、“多店舗運営”の基盤を整備すべき。多様な経験とデータそしてモール各社の最新情報を持つ当社=いつもは、その支援ができる。

■特別講演

ユーザーファーストで推進するカシオ流D2C
~ CASIO/G-SHOCKファンが喜ぶ体験を実現するためのEC/D2Cの取り組み ~

石附さん

石附 洋徳氏(カシオ計算機株式会社 執行役員 デジタル統轄部長)
広告会社にて、様々な業界のマーケティングの戦略構築からシステム導入に至るまでを推進。2019年からカシオ計算機に参画し、新しいデジタルマーケティングの仕組みづくりをリード。2021年より全社のDXを推進する組織としてデジタル統轄部を立ち上げ、カシオのバリューチェーン全てのDX推進を統括。2022年より現職。

冒頭、石附氏は「日本の多くのモノづくり企業が、VUCA※な時代においても事業成長を実現させるためにD2Cを効果的に活用する方策について、ユーザーファーストで進めるカシオのD2C実例をご紹介する」と述べ講演を開始した。以下は要旨。

※先行きが不透明で将来の予測が困難な状態。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)4単語の頭文字をとった造語。

○カシオは何故D2Cに注力しているのか
カシオ計算機は独創的な製品による社会貢献を目指してきた。しかし、デジタル社会で情報が溢れる現在は、優れた製品提供“だけ”では事業拡大が難しい。そこで、ユーザーと直接つながり、豊かで優れた体験を提供し続ける企業になることを目指す。

ユーザーと会社が分断され、顧客に価値を届けにくいバリューチェーンを見直し、直接つながりユーザー起点で全ての事業活動が成り立つような「ユーザー中心のバリューチェーン」を構築することが、カシオが目指すべきDX。その実現のためにはD2Cによって顧客と直接つながり、企業/ブランドへのロイヤルティを高めてもらうと共に、そこで生まれるデータを事業活動に活用することが重要だ。

○カシオのD2C戦略とは
D2Cは製品ラインアップが自社製品に限られるので、購入意向が低い人やブランドへの関心が薄い人は顧客として獲得するのが難しい。ECサイトをオープンしただけでは多くの顧客を獲得することは難しく、オンラインストアは小規模売り場の一つになってしまい販路拡大は実現できない。そのため、①ECサイトの価値を高めて指名顧客を増やす ②ブランド関与が低い顧客をサイトへと流入させる ③新しいサービスをきっかけにブランドへの接点を創り出す、3点の実現を目指している。

①では、限定品の発売や、人気モデルの抽選などを通じてD2Cにしかない購入体験を創出することで指名買いの訪問者を増やす。②では、腕時計など特定のカテゴリーを検討中の顧客をSEOなどを通してサイトへと流入させると共に、「腕時計だったら、まずカシオのサイトに行ってみよう」という存在になる。③では、ブランドへの関与が低い層を獲得するためには、単なる製品の購入を超えた“サービス”を提供し、D2Cサイトを訪問する新しい理由を創造することが必要(例・ユーザーがカスタマイズできる「MY G-SHOCK」)。

○ファンが喜ぶ体験を提供するD2Cを目指して
D2Cを通じてユーザーのLTV向上/事業成長を実現するためには、顧客の体験価値を高めて満足度を向上し、ブランドファンを増やすことが重要だ。事業における顧客体験には大きく「機会損失を防ぐ体験」「機会を創出する体験」の二つがある。

機会損失を防ぐ体験では、目的に辿り着くためのストレスを最大限取り除くことが重要であり、目的の製品への導線を最短距離にして、ビジュアル/製品名/機能等で辿り着ける機能、あらゆるところで購入意向が喚起した瞬間に「バッグイン」させるためのアクションを設けている。また、膨大な製品データを統合的に管理し、様々なタッチポイント/サービスと連携して適切に提示する。理性的で網羅的な検討と、テクノロジーがあれば実現できる。

石附さん②

機会を創出する体験は、“目的や期待を大きく超える想像以上の何か”をもたらさなければならない。よってCreativity/創造性を大事にすることが重要だ。先述の「MY G-SHOCK」は時計のカスタマイズを何時間でも楽しんでいられるような楽しい体験に仕立てることで、購入意欲を喚起する。

ただし、機会を創出するようなプラスの体験は、時間経過と共に徐々に価値が減衰していくことが大きな課題だ。機会創出体験においては、常に新しい何かを提供し、思いもしなかった偶然を生み出し、好奇心を喚起して顧客の行動自体を引き出すことが求められる。ウェブサイトやアプリ等で、新しい情報や偶然の出会いを演出し、体験価値を高める取り組みを模索し挑戦中。

顧客体験ファーストな取り組みで事業を成長させていくには、理性で障壁やストレスを取り除き、感性や創造力で出会いや気付きを生み顧客の想像を超える活動を継続することが肝要だ。

2022年7月7日(木) オンラインにて開催・配信



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