分科会医師が見た「第三波」と「夜の街」 コロナとの“上手な向き合い方”
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分科会医師が見た「第三波」と「夜の街」 コロナとの“上手な向き合い方”

東京の感染症医療をリードする医師が感染急拡大の背景と「夜の街」の実情を語る。/文・今村顕史(都立駒込病院感染症科部長)

<この記事のポイント>
▶︎新型コロナの特徴は、「悪化するスピード」と「感染が広まるスピード」という“2つのスピード”だ
▶︎臨床の現場がかかえる問題は、ベッド数よりも人員である
▶︎感染拡大を防ぐカギの一つが、“急所”とみられてきた歓楽街との向き合い方

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今村医師

医療崩壊のリスクが高まっている

新型コロナウイルス感染症の感染者が増え、それに伴って重症患者の数が急速に増えています。

東京都の重症者数(11月30日時点)は70人と、1週間前の1.7倍に急増。大阪府では124人(同)と重症病床の使用率が60%を上回る窮状です。

ただ一方、この1年近くの間に大規模な感染拡大を2度も経験し、苦しい局面を経たことで一定のノウハウを蓄えてもいます。とりわけ東京のような大都市は、私が勤務するがん・感染症センター都立駒込病院(文京区)のほか、国立国際医療研究センター(新宿区)、都立墨東病院(墨田区)、荏原病院(大田区)、自衛隊中央病院(世田谷区)といった新型コロナの患者を受け入れる大きな病院がいくつもある。

これに対して、医療的な基盤が手薄な地方では、はるかに少ない重症者の受け入れによって、医療崩壊のリスクが高まってしまいます。

医療崩壊というと、病院で診療を待つ人が待合のベンチで横になっているような、一時期に武漢やイタリアから伝えられたようなイメージを持たれる方がいるかもしれません。

武漢市の医療施設 共同 2020022118678 2020年6月号素材

武漢市の医療施設

ただ、臨床の現場で感じている“最悪のシナリオ”は、ある意味、もっとシビアだと思います。

ベッド数の不足をイメージされることが多いのですが、問題はベッドというより人員です。

入院患者が人工呼吸器を装着するほど重症になると、診察する医師はもちろん、かなり多くの数の看護師が24時間体制で切り替わりながら対処する必要が生じます。

そのための人材は、感染症以外の一般医療から割くほかありません。日頃から目いっぱいまで対応しているがんや心疾患までも、医療の水準を落とさざるを得なくなる。国民全体の健康が、危機に晒されることになるのです。

都立駒込病院の感染症科部長である今村顕史氏は、日本エイズ学会理事も務める感染症のスペシャリスト。1月下旬に到着した武漢のチャーター便帰国者から現在まで最前線で治療にあたってきた。

また2月に設置された政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議に加わり、7月に衣替えした分科会では「大都市の歓楽街における感染拡大防止対策ワーキンググループ(WG)」の座長として報告書を取りまとめた。「第三波」とどう向き合えばよいのか、今村氏に聞いた。

2つの「スピード」の衝撃

武漢でのアウトブレイクから1年近くが経ち、私たちは新型コロナについて、高齢者における重症率の高さやクラスターを発生させやすい三密環境など、いくつもの知見を蓄えてきました。未知から既知に向かって進んできたのです。

加えて、実際に診療する私たち医師の肌感覚から分かってきたこともあります。とりわけインパクトが大きかったのは、この疾患が持つ2つの「スピード」でした。

1つは「悪化するスピード」。

2月、横浜港に停泊中のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」から外国人旅客の感染者が多く運び込まれるようになりました。

問診をしてみると、クルーズ旅行を楽しむ余裕がある階層だけあって4、50代でも慢性疾患を持つ人が割と多かった。そうした人たちが肺炎を発症すると、わずかな時間で次々と悪化したのです。

市中での感染者でも、歩いて来院したその日のうちに人工呼吸器の装着を迫られたこともありました。中等症の人も相次いで重症化していくのを目の当たりにし、危機感が高まったのを記憶しています。

通常、インフルエンザでも高齢者は重症化しますが、肺炎を起こすまでに数日から1週間程度のタイムラグを生じるのが一般的です。ウイルスが直接、肺炎を引き起こすのはまれで、細菌感染に対する抵抗力が落ち、二次的に細菌性肺炎を引き起こす――そんな段階を踏むからです。これに対して新型コロナはウイルスそのものが短時間のうちに肺炎を引き起こすのだと判ってきました。

3月には自衛隊中央病院のグループが、100例を超える陽性者の肺のCT画像から、無症状でもかなりの割合で肺炎像があると明らかにしました。ウイルス性肺炎は通常、肺炎像が出ていれば症状が出るのが一般的。咳や喉の痛み→肺炎の発症→悪化して肺炎像の出現、という順番のはずが、今回のコロナでは自覚症状がない段階でも肺炎像が現れた。

感染症が流行するかどうかのポイントは〈感染の広がりやすさ〉と〈どれだけの割合で重症化するか〉との掛け算になります。新型コロナでは、肺炎にかかっているのに元気に動き回る無症状や軽症の若者が、ウイルスを広めるということです。

2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)は、感染者のほとんどが肺炎を引き起こし致死率も高かったため宿主(しゅくしゅ)(患者)の死により感染にブレーキがかかりやすかった。これに対して新型コロナでは、軽症者が感染力を持っているために自ずと感染者が増える一方、感染者の一定割合は重症化し、死に至る。

国を揺るがす数の死者が出る感染症だと見えてきた瞬間でした。

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病床の拡充が間に合わない

痛感させられたもう一つは、「感染が広まるスピード」です。

駒込病院で入院患者が増えてきたのは3月半ば。30床の感染症専用病棟(一フロアのブロック)が満杯に近づいたので、月末の金曜日に「翌週から別の一般病棟をコロナ専用に変える」と決定しました。

ところが週が明けると、たちまちその病床も埋まり、翌週に追加で一棟、さらに次の週には3つ目の病棟を用意せざるを得なくなった。その後はいつ破綻してもおかしくない状況で、5月の大型連休のころ本格稼働した宿泊療養施設へ軽症者が流れ始めるまで、緊迫の1か月でした。

想定外だったのは、対応する病床を拡充するのが間に合わないほどの入院患者の増え方です。

新型インフルエンザを念頭に、パンデミックを想定した病棟の運用計画は存在しました。しかしいざ実行するには先に入っていた一般の入院患者を他の病棟に移す必要もあり、病床数確保に時間を要する。

一般病棟を感染症病棟に転用するとなれば、担当する看護師も個人用防護具(PPE)の着脱に始まり、作業量や制約も大きく、より多くの人数が必要となります。足りない人員をほかの病棟から補うと、その看護師がもともと担当していた病棟も、空けざるを得なくなるのです。

コロナ専用病棟での「人手を要する患者」の割合に応じて病棟ごとの看護師の配分も調整する――こうした作業に通常の病院なら2、3週間は要る。しかし、この新型コロナはそれを待ってはくれない疾患なのです。感染者が増え始めた、と気づいてからの対応ではとても追いつきません。

最終的な病床数が足りるかどうか以前に、病床を拡充する途中の段階で破綻してしまうのです。

こうした厳しい状況は東京だけでなく、7月半ばには沖縄や愛知で、11月下旬に北海道や大阪で起きています。

都はその後、かなりの規模で宿泊療養施設を確保しましたし、7月のいわゆる「第2波」では無症状や軽症の人が多かった。彼らに宿泊療養施設に回ってもらうことで、入院患者数の立ち上がりを抑えることができた。その振り分けについても年齢、症状や基礎疾患の有無によって効率的に療養施設へと振り分けられるように運用を工夫しました。

これまで医療が逼迫した経験が少ない県では、悪化してからでは対応できないと、全ての感染者をひとまず病院に入れるエリアもあるようですが、急増した時に対応できなくなるのではないかと心配しています。

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大阪・ミナミ

見えないクラスターが多発

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