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横尾忠則 三島由紀夫の心配ごと

文・横尾忠則(美術家)

『原郷の森』と題する3冊目の小説を文芸誌「文學界」で連載。500ページの単行本になって出版された。

Y(俺)が神明の森にあるアトリエの横の遊歩道を降りて行くと、そこは異次元の森に通じる「原郷の森」への入口になっている。ある日、アトリエで制作していたはずのYが、「ここは暗闇の森である」と描写されたあのダンテの『神曲』の森と重なっていることに気づく。

森の中で道に迷ったダンテをサポートするヴィルジリオ役を僕は宇宙霊人という人間を超えた存在に設定した。『神曲』と異なるところは宇宙霊人を肉眼では見えない存在にしたために、読者にはその存在は気づきにくいが、ここに登場する書き手のYには彼の存在は認識できる。そんな宇宙霊人と一緒に森の中で遭遇したのが三島由紀夫だった。

三島は生前Yと面識があるが、ふいに現れた三島にYは驚いた。「何も驚くことはない。この森を通じて、これから君に必要な人物を次々と紹介していくから楽しみにしたまえ」とざっとこのようなことを言ったかと思うと三島はいきなりマルセル・デュシャンを登場させた。続いて谷崎潤一郎、永井荷風、ピカソ、キリコと内心Yが私淑している芸術家を次々三島さんの演出によって、まるで演劇『原郷の森』の舞台の登場人物をひとりひとり紹介するかのように登場させてYを驚かせるのであった。

最初はアトリエを取り囲む神明の森の奥深くにつながる「原郷の森」と名付けられた異次元に通じる場所に案内されたが、その後、まるで世界旅行をしているように、かつて行ったことのある国の懐かしい場所であったり、全く知らない場所であったり、生まれ故郷の風土の中に連れていかれたりしながら、歴史上の人物に次々逢うことになった。

思いつくままに名を挙げると、ダ・ビンチ、ピカビア、ルソー、ダリ、小津安二郎、黒澤明、岸田劉生、今東光、二宮尊徳、シュヴァイツァー、ウォーホル、稲垣足穂、ルイ14世、ネロ、アラビアのロレンス、ホイジンガ、マン・レイ、夏目漱石、月岡芳年、ブッダ、キリスト、フェリーニ、チャップリン、世阿弥、ダンテ、ブレイク、モーパッサン、ブルトン、柳宗悦、北斎、コクトー、親鸞、モネ、伊藤晴雨、ランボー、セザンヌ、ドラクロア、カンディンスキー、ロブ=グリエ、ユイスマンス、澁澤龍彥、マグリット、ヒトラー、毛沢東、上田秋成、空海、利休、日野原重明、思兼命(おもいかねのみこと)、あゝ、キリがない。

次から次へと思わぬ歴史上の人物が出現するが、彼等の人選は、三島好みであったり、Yの中に存在する私淑する人や記憶の人々であったりする。

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