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出口治明の歴史解説! 総領事館閉鎖で対立深刻化…米中は最終的にどちらが勝つ?

歴史を知れば、今がわかる――。立命館アジア太平洋大学(APU)学長の出口治明さんが、月替わりテーマに沿って、歴史に関するさまざまな質問に明快に答えます。2020年7月のテーマは、「アメリカ」です。

★前回の記事はこちら。
※本連載は第38回です。最初から読む方はこちら。

【質問1】昨年の貿易戦争、コロナ禍の責任追及、香港問題と、米中対立が日増しに強まっているように見えます。その先にはおそらく世界の覇権争いがありますね。アメリカと中国のどちらが勝利するのでしょうか?

どちらかが勝利するのか、このままずっと均衡状態(G2)が保たれるのか、まだ誰にも見通せないでしょう。

世界の覇権国になるということは、他国にいろいろな無理がいえる立場にもなります。しかし、前回の講義で解説した「世界の警察官」もある程度は引き受けないといけません。また覇権国には「あなたのいうことなら聞きましょう」という賛同国、従ってくれる有力な国も必要です。

覇権国となるには、GDPの大きさ、経済成長率、通貨の強さ、国際的な信頼、軍事力、有力な賛同国……など評価ポイントがいくつかあります。つまり、総合的な国力ですね。国力の源泉は、国民です。とくに人口が増えつづけること、国民が賢くなる(知的レベルが高くなる)ことは重要です。いくら資源が豊富でも、国民が少なく、さらに知的レベルが低かったら、すぐ他国に支配されてしまうでしょう。

世界の歴史を見ると、人口が増えた先進国は必ずといっていいほど栄えています。これはニワトリとタマゴの関係ですから、国が栄えると人口も増えるともいえます。ところが、人口の増加が止まることがあります。原因は異常気象、大災害、飢饉、疫病、政策の誤り……とさまざまで、たいていは自然環境の変化からはじまります。

反対に人口の減少は国力を弱めます。国民は少しずつ貧しくなる。だから、日本の人口減少は中長期的な国力を弱める大問題なのです。

アメリカの人口は3億3000万人ほどで、中国、インドについで世界第3位です。先進国のなかでは珍しく、唯一人口の増加がつづいている国です。

しかし近年は、アメリカの人口増加率はやや鈍化しています。合計特殊出生率は1.8を切り、移民の流入も減っています。新型コロナの影響で、さらに減る方向に向かうかもしれません。

国民の知的レベルという点では、アメリカは世界的に優位な状況にあります。それは、大学の国際競争力が強く、世界中から優秀な頭脳を集めているからです。外国人留学生は、200カ国以上からおよそ110万人。トップクラスの天才たちにはアメリカの企業が「うちで働かへんか?」とスカウトします。年俸は数千万円以上、「あなたが働きやすい環境を用意するで」といった条件つきです。

これがGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)やその予備軍とされるユニコーンが、アメリカで次々と生まれてくる理由の1つです。優秀な留学生が周りにたくさんいれば、アメリカ人の学生も競争に負けられないと勉強に励みます。つまり国全体の知的レベルが底上げされるのです。

ちなみに、アメリカにいる留学生110万人のうち、中国人はおよそ37万人もいます。中国は共産党の一党独裁の国で、言論の自由はありません。しかし、アメリカに37万人も留学できるのですから、一定の移動の自由はあります。日本へ観光やショッピングに来ることもできます。ここが旧ソ連とは大きく異なる点です。自由に移動できれば、いつでも外の空気が吸えて、異文化にも触れられます。これが中国国民がそれほど現在の体制に不満を抱いていない理由の1つかもしれません。

以上のように考え、結論を述べれば、僕はアメリカの覇権はそう簡単には揺るがないと思います。また、中国にNo1になるという明確な意思は見られません。中国にとってNo2、G2というポジションはけっこう居心地がいいのではないでしょうか。

【質問2】出口さんから見て、歴代のアメリカ大統領のなかですごい人、ダメな人を挙げるならそれぞれ誰でしょうか?

アメリカには、1789年に初代大統領となったジョージ・ワシントン(1732~1799)から数えて45代、44人の大統領がいます。1人少ないのは、グロバー・クリーブランド(1837~1908)が連続しないで第22代と第24代の大統領に就任したからです。

そのなかで僕がナンバーワンだと思うのは、第32代大統領のフランクリン・ルーズベルト(1882~1945)です。彼は1933年3月から、脳卒中で死んだ1945年4月まで大統領を務めました。アメリカ史上で唯一、4期務めた大統領です。

彼は世界恐慌後の政策「ニューディール」や第二次世界大戦中の大統領として知られ、かなり毀誉褒貶が激しい人物です。「あいつはあかんかった」という悪口も相当なものです。

再三、紹介してきましたが、リーダーの第1の条件は、将来にむけた遠大なビジョンやグランドデザインが描けるかどうかです。

この連載で秦の始皇帝(B.C.259~B.C.210)、ナポレオン・ボナパルト(1769~1821)、阿部正弘(1819~1857)などを天才的リーダーとして紹介してきたのも、彼らが現在まで通用するグランドデザインを描いたからです。

ルーズベルトのグランドデザイン力は相当なものでした。彼がニューハンプシャー州のブレトン・ウッズに連合国45カ国の代表を集めたのは戦争の真っただ中の1944年7月です。戦争終結の1年以上前に戦後の国際金融機構について協議し、米ドルを基軸通貨とする固定相場制、国際通貨基金(IMF)と国際復興開発銀行(IBRD)=世界銀行の設立を決めました。

国連の設立より国際金融機構の設立を優先したのは、1929年に世界大恐慌が起きたあと、各国がブロック経済圏をつくって第二次大戦を招いたという反省からでした。つまり、その時点で国際金融の重要性を誰よりも強く理解していたのです。

戦後の国際秩序については、1943年11月のカイロ会談で「4人の警察官」構想を主張しました。戦争が終わったら、アメリカ、連合王国(イギリス)、ソビエト連邦、中華民国の4人が警察官となって、世界の平和を維持していくアイディアです。

連合王国のウィンストン・チャーチル(1874~1965)は、ルーズベルトの案に対して「4国だと2国ずつに意見が分かれたときに収拾つかん。フランスも入れて5国にしたら、ソ連と中国を押さえ込めるやろ」とファイブ・ポリスにしました。国連の常任理事国が誕生したのです。

ルーズベルトの構想は、80年近く経っても生き続けています。ブレトン・ウッズ体制は、1971年のニクソンショックで一応終わったとされるものの、IMFはきちんと機能しています。今回のコロナ禍でも、世界が恐慌に陥らなかったのは、ルーズベルトが構想した国際金融機構のおかげです。現在では、G20と姿こそ変えていますが。

ルーズベルトから80年後の現在も、僕たちは彼が描いたグランドデザインの上で暮らしているということです。そこまでの構想力と実行力があったアメリカ大統領は、ほかには思い浮かびません。

すごい大統領とは反対に、最もひどい大統領は誰かといったら、第45代のドナルド・トランプ大統領だと思います。

トランプ大統領のリーダーとしてダメなところは、数えあげたらキリがありませんが、次の一文に集約されているでしょう。2019年1月まで国防長官だったジェームズ・マティス氏が雑誌に寄せた文章の一節です。

「ドナルド・トランプは私の人生で初めて、アメリカ国民を団結させようとせず、その素振りさえ見せない大統領だ。その代わり、彼はアメリカを分断しようとしている」

グランドデザインとはすなわち、人々や国々を一つにまとめあげる構想のことです。それが、皆目できていないのですから、トランプ大統領はやはり、ぶっちぎりのワースト1だと思います。

(連載第38回)
★第39回を読む。

■出口治明(でぐち・はるあき)
1948年三重県生まれ。ライフネット生命保険株式会社 創業者。ビジネスから歴史まで著作も多数。歴史の語り部として注目を集めている。
※この連載は、毎週木曜日に配信予定です。

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