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【30-国際】【朝鮮半島の風向きは変わるか】金正恩の実妹 金与正の実力と限界|牧野愛博

文・牧野愛博(朝日新聞編集委員)

事実上のナンバー2、与正氏

北朝鮮の2020年は、最高指導者、金正恩(キム・ジヨンウン)朝鮮労働党委員長の実妹、金与正(キム・ヨジヨン)党第1副部長に注目が集まった年だった。北朝鮮は6月16日、北朝鮮・開城(ケソン)にある南北連絡事務所を爆破した。その予告をしたのが与正氏だった。与正氏は18年2月、平昌(ピヨンチヤン)冬季五輪の開会式に出席するために訪韓。控えめな笑顔と年長者を敬う態度に好感が集まった。ところが、20年の与正氏は北朝鮮から逃れた脱北者を「家のなかの汚物」と呼ぶなど、180度異なる悪女キャラクターを演じた。爆破を命じるにあたって「金委員長と党と国家から付与された私の権限を行使して」と説明したが、韓国の情報機関、国家情報院も国会説明で、与正氏こそ、正恩氏から最も多くの委任を受けている人物だと説明した。

韓国統一省の「2020年版北韓主要人物情報」によれば、与正氏は1988年、金正日(キム・ジヨンイル)総書記と在日朝鮮人だった高英姫(コ・ヨンヒ)氏との間に生まれた。与正氏は正恩氏と父母を同じくする兄妹で、金正男(キム・ジヨンナム)氏ら異母兄弟と異なり、強い愛情で結ばれているという。2014年に公式な活動を始めるまでは、金日成(キム・イルソン)総合大学を卒業した程度の情報しかない。

複数の北朝鮮関係筋によれば、与正氏は聡明な人物とされる。コンピューターに精通し、海外の情報に明るい与正氏は携帯電話事業の普及に慎重だった父親を説得し、北朝鮮が08年末から第三世代携帯(3G)サービスを始めるうえで、大きな役割を果たしたという。金総書記が09年1月、後継者に正恩氏を指名した際、与正氏は「私も政治に関わりたい」と名乗りを上げたとされる。

そして、与正氏はこれまで、兄である正恩氏の耳となり手足となってきた。18年の訪韓時に利用した韓国高速鉄道(KTX)を高く評価し、正恩氏に報告した。韓国政府関係者は「敵である南の鉄道を褒めることなど、与正氏でなければできない芸当だ」と語った。正恩氏は、党や軍に人脈が少なく、猜疑心も強い。与正氏は事実上のナンバー2として党務を仕切るとともに、正恩氏に様々な情報を伝えているとされる。

また、与正氏は常に正恩氏のそばに寄り添った。これには2つの意味があると言われた。一つは、与正氏自身の「日の当たる場所に出たい」という願い。もう一つは「兄の健康を守る」という目的だ。

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