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カネのある男=一夫多妻 カネのない男=生涯独身という残酷すぎる真実

文・橘玲(作家)

 死者36人、負傷者34人という大惨事になった2019年7月の「京都アニメーション放火事件」の容疑者は当時41歳の男だ。同年5月に起きた川崎のスクールバス殺傷事件の犯人は51歳の男、6月に大阪で起きた警官拳銃強奪事件の犯人は33歳の男だった。ちなみに、川崎の事件の4日後に起きた元農林水産事務次官長男刺殺事件の被害者も44歳の男だった。

 社会を震撼させたこれらの事件には明らかな共通点がある。事件に関わったのが中年の男であることと、無職かそれに近い境遇にあり「孤立」していたことだ。

 哺乳類だけでなく鳥類でも、「オスが競争し、メスが選択する」という性戦略のちがいは広範に見られる。これはオスにとって精子をつくるコストがきわめて低く、メスにとって子どもを産み育てるコストがきわめて高いからだ。ここから、オスの最適戦略は出会ったメスと片っ端からセックスする「乱交」になり、メスの最適戦略はもっとも多くの資源(食料や安全)を提供してくれるオスを「選り好み」することになる。これが進化心理学の基本で、現在までに膨大な証拠(エビデンス)が積み上げられている。

 とりわけヒトの場合は、女性は受胎してから9カ月の妊娠期間があり、そのうえ出産後も数年の授乳・子育てが必要になるのだから、そのコストはすべての哺乳類のなかできわだって高い。これは「選り好み」がきびしくなるということであり、男同士の競争がはげしくなるということだ。

 その一方で、敵対する部族の脅威が大きい場合、戦闘力の高い「若い男」が部族内で殺し合うのはきわめて不利だ。ようやくヒエラルキーの頂点に立ったとしても、戦争に負けた結果が「皆殺し」なら、部族内で男たちが暴力的に争ってもなんの意味もない。

 これが、狩猟採集生活をつづける伝統的社会でも部族内の殺し合いが頻繁に起きるわけではない理由だろう。徹底的に社会的動物であるヒトは、部族内で女を(比較的)平等に「分配」するように進化したのだ。

 だが第2次世界大戦でアウシュビッツとヒロシマを体験した人類は、もはや国家間の総力戦を起こすことができなくなった(次の総力戦は「人類絶滅」だ)。こうして私たちは、人類の長大な進化の歴史のなかでありえないような「平和でゆたかな社会」を生きることになった。

「生存への脅威」がなくなれば、もはや部族のなかで平等に性愛を分配する必要はない。こうして「自由恋愛」の世界が到来した。

 自由恋愛では、原理的に、男女の性愛の非対称性が極端に顕在化する。「お見合い」や「紹介」などのかたちで共同体内でカップリングを行なう習慣が廃れたことで、「男の競争と女の選り好み」という戦略のちがいがよりはっきりと表われるようになったのだ。

 競争がはげしくなれば、そこから脱落する男が増えていくのは避けられない。これがネットスラングでいう「モテ/非モテ」問題で、性愛から排除された男たちの自虐的な表現として広く使われるようになった。

 婚活サイトのビッグデータを分析すると、男の関心が「若い女」に集中するのに対し、女の好みが「金持ちの男」に集まることがはっきりわかる。これが「人間の本性」であることは、歴史上のほとんどの権力者が若い女を集めてハーレムをつくってきたことからも明らかだろう。恋愛の基本形は「カネとエロスの交換」、すなわち売春なのだ。

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