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【連載】EXILEになれなくて #5|小林直己

第一幕 LDHに なぜ人は人生をかけようと思うのか?


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八場 引退

「HIROさん 12年間お疲れ様でした」

 サプライズで用意された横断幕が、客席からステージに広げられ、メンバー、そしてHIROの目に届く。HIROの横顔は澄み切っていて、清々しさと共に、大志と希望に満ち溢れていた。僕は、これからのアーティスト人生において、この人と、どんなことを達成できるだろうか。この景色を忘れちゃいけない。共に踊った最後の瞬間に生まれた、あの気持ちを絶対に忘れちゃいけない。「この日のために踊ってきた」。まっすぐ前を見つめると、5万人もの人たちが、素晴らしい笑顔と歓声を送ってくれていた。

「自分がいなくなったとしても、EXILEを残していくために」。HIROのこの言葉は、2009年に僕がEXILEに加入した直後から聞いていた。EXILEを作った人が、EXILEからいなくなる? その大きな決断に、僕は理解が追いつかず、実感を伴わず、ただ、その言葉の真意を探りながら、行動を共にしていた。

 演者として悔いのないように、かつ、組織を停滞させないように、HIROは孤独の中、EXILEとしては12年、それ以前からを合わせると20年以上にわたる演者としてのキャリアに終止符を打ち、新たなステージへの挑戦を決めていた。

 EXILEをこの先も残していくために。HIROは新世代の仲間をメンバーへと受け入れることを考えつく。EXILEを、グループとしての形にとどまることなく、生き方としてこれから訪れる時代の荒波にも負けないように。そしてHIROは、オリジナル・メンバーに新メンバー加入の提案をし、そのための土台を作った。誰かを困らせることなく、それ以上に、可能性が広がることを信じて、未踏の地へ挑戦するという決断に踏み切ったHIROの心中は、僕では推し量ることは到底できない。

 そして、翌年の2010年夏、EXILEのキャリア初となるスタジアム・ツアーが敢行された。1公演あたりの動員数が約7万人にもなるこの公演は、野外スタジアムを借りきってのライブである。

 まだ灼熱の日差しと暑さが残る夕方から開演し、夕陽が沈む空の下、満員の観客席と共に汗を流し、時間の経過とともに美しい星空がステージを包み、打ち上がる花火と共にフィナーレを迎える、一大スペクタクル・エンタテインメントとなった。そして、自らのピークを刻まんと挑戦をし続ける、HIROの鍛え抜かれた肉体に僕は唸った。体感気温が50度にも迫るステージの上で、3時間近くを踊り続けるこの公演に向けたトレーニングは、メンバーの一人として、想像を絶するもので、僕自身、時に音をあげることもあった。しかし、それを誰よりも黙々とこなしていたのはHIROだった。

 その姿に触発され、メンバー全体の士気は上がっていき、それぞれがたくましく仕上がった肉体を携え、このツアーを走り抜けた。それでも、公演後には、何リットルもの水分が体から消費され、呼吸もままならず、通路に倒れこむメンバーの姿を幾度となく見かけた。かくいう僕も、前日から行なった、体内への水貯めの甲斐なく、何度も脱水症状に陥ることがあった。それでも、終演後のスタジアムに残る、あの気迫と気合いの残像は、野外のスタジアム公演への情熱だからこそ生まれたものだと信じている。
 
 HIROが、そうしてキャリアの幕引きを行なっている中、誰もが予測できない事態が起こる。2011年3月11日、東日本大震災が発生する。甚大な被害をもたらしたこの天災は、付随する事故も誘発し、大きな悲しみに日本中が包まれた。未だ、全てが解決したとは言い切れないだろう。

 この件は、EXILE、そしてHIRO自身にも大きな影響をもたらしたと、同じメンバーとして、活動の端々から常に感じた。「Love, Dream, Happiness」を標榜し、エンタテインメントを通じ、多くの人に幸せを届けたいと願い活動してきたのだが、この被害に対しては、エンタテインメントが直接的に何かの助けになることはない、と僕自身も感じていた。(これはコロナ禍にも同様の思いを感じている)

 無力感に苛まれる中、HIROはこの瞬間にもできることがないかと、すぐさま多くのスタッフと連絡を取り、震災後にメンバーを引き連れ、炊き出しを行なった。そして、メンバーやスタッフには、「エンタテインメントが意味を持つタイミングが必ず来る。それまでは、いつ、タイミングが来ても動けるように準備しよう」と声をかけた。

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コメント (1)
ありがとうございます!今回も楽しく読んでいました!HIROさんは本当に凄い方ですね!いろんな事を考えながら行動するのはすごい!直己さんが書いたHIROさんはとても強くて、いつもEXILEの事引っ張る、でも優しくメンバーの意見聞く。文字からそんの暖かさを感じました!
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