下町の縫製工場が立ち上げたファッションブランドがコロナ禍でなぜ売れるのか? 中小企業が低成長時代を生き残るヒント
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下町の縫製工場が立ち上げたファッションブランドがコロナ禍でなぜ売れるのか? 中小企業が低成長時代を生き残るヒント

長引く外出自粛でファッション消費が縮小している。アパレル業界が苦境に陥っている中、「動きやすさ」をウリに成長中のファッションブランドがある。東京の下町にある縫製工場、丸和繊維工業が展開する自社ブランド『INDUSTYLE TOKYO』だ。以前は下請け縫製を専門とする会社だったが、国内工場の利益率低迷という逆境を脱出するため自社ブランド事業に挑んできた。

丸和繊維工業は2回の失敗を経て、ようやく成功を掴んだ。

老舗中小企業が次世代の事業を築いたストーリーには、低成長時代を迎えた日本で中小企業が生き残るためのヒントがある。逆境の中、丸和繊維工業はどうやって勝ち筋をつかんだのか——。

“極上の着心地”で外出自粛中のニーズに応えた

墨田区に本社を置く縫製工場の丸和繊維工業は、1956年の創業以来、ニット製衣類の下請け縫製に専念してきた中小企業だ。業界では“技術の丸和”として知られており、高い技術が求められるニット製衣類の製造を国内工場で支えてきた。

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本社工場

自社ブランド『INDUSTYLE TOKYO(インダスタイル・トウキョウ)』の製造販売にも取り組み始めたのは2011年。低コストの海外工場に押され、下請け事業の利益率が低迷していたからだ。社員が頑張っても給与で還元するための利益が少なかった。縫製工場は手仕事が中心なので人材にお金をかけられない状態が続けば存続が危ぶまれる。在庫を抱えるリスクがあっても利益率が高い自社ブランド事業を模索する必要があった。INDUSTYLE TOKYOはメイドインジャパンの工場の生き残りをかけて誕生したブランドだった。

INDUSTYLE TOKYOの主力商品はニット製ドレスシャツ。価格は1万5000円(税抜)からで、一般的に売れ筋価格とされる9000円の1.5倍以上だが、発売当初、新宿の伊勢丹メンズ館のシャツ売上で6週間連続の1位を記録した。人気の理由は、百貨店バイヤーも認めた“極上の着心地”である。強気の価格に納得の着心地なのでリピート購入率が高い。ファンが徐々に増え、現在では自社ブランド事業が全売上の2割を占める経営の柱の一つとなった。

インダスタイル

INDUSTYLE TOKYOのドレスシャツ

“極上の着心地”の秘密は「動体裁断・動体縫製」という衣服の設計技術にある。一般的に衣服は直立の姿勢に合わせて設計されており、スリムなシルエットほど窮屈だ。一方、INDUSTYLE TOKYOは動いた姿勢に最適化されており、スリムなシルエットでも動きやすい。さらに、腕を大きく動かしても布が引きつれず、裾がズボンからはみ出ない。このメリットが服装の印象を気にする消費者の心を強くつかんだ。

同社の深澤隆夫代表取締役社長によれば感謝の手紙をいただくこともあると語る。

「シャツが裾から出ていると学校の先生は保護者から厳しいクレームを受けるそうです。INDUSTYLE TOKYOのドレスシャツを着たところ服装の乱れが減り保護者からの評価が良くなったことに喜んでもらえました」

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下がINDUSTYLE TOKYO。腕を上げても裾の位置がほとんど変わらない

「動体裁断・動体縫製」はハイレベルな技術だ。型紙の枚数が通常の約3倍に増えるため、1mmの設計ミスが膨大な修正の手間につながる。またカーブが多い型紙なので縫製も難しく、他社が容易に真似することができない。

近年、多くのアパレルメーカーが着心地に力を入れているが、素材の特性を活かした温感・伸縮性・肌触りといった切り口が多い。設計の側面から”極上の着心地”を追求したINDUSTYLE TOKYOは異彩を放つ存在といえる。

コロナ禍でアパレル業界が苦境に陥る中、なぜINDUSTYLE TOKYOは好調なのだろうか。深澤社長は「価値観の変化に応えられたから」と分析する。

「人に見られる機会が減り、自分で感じる着心地の重要度が高まりました。着心地は個人差が大きいためニッチなニーズですが、いつ・どこで・誰に着てもらうかを明確にすれば市場に無限の奥行きが見つかります」

例えば、墨田区にある同業者の丸安毛糸から車椅子ユーザー向けジーンズの開発を請け負ったとき「着席時の快適さ」というニーズに気が付いたそうだ。このアイデアをもとに、2020年、リモートワーク向けスラックス『チェアワークパンツ』を開発した。

「ずっと座っている人はジャージなどゆとりがある服装を選びがちです。しかし、できれば好みの服装で快適に過ごすことを望んでいると知りました。テレワーク中の皆さんもゆとりがある服を選びがちですよね。チェアワークパンツは、長時間座っても快適ですが、見た目がきちんとしているのでちょっとした外出時に恥ずかしくありません」(深澤社長)

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チェアワークパンツ

2回の失敗を経て「着心地」に原点回帰

INDUSTYLE TOKYOは丸和繊維工業の経営の柱に育った。だが、以前には自社ブランド事業に2回続けて失敗してきた苦い経験もある。

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