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広瀬友紀「子どもに学ぶ言葉の認知科学」言語って何だ? 評者・梯久美子

言語って何だ?

「これ食べたら死む?」

「ほんとうに死まない?」

子供や孫がこんな言い方をするのを聞いたことのある人は多いだろう。幼児によくある言い間違いである。

私たちは、子供は大人が話すのを聞くことで言葉を身につけていくと考えがちだ。だが、大人がこうした言い方をすることはまずない。それなのに、多くの子供が同じ間違いをするのはなぜか。そんな話から本書は始まる。

実は子供は、大人が使っている言葉を模倣することによってのみ言葉を覚えるわけではない。こうした間違いは、幼児がそれまでに身につけた暫定的な文法知識が反映されたものだというのだ。

つまりこういうことだ。「死ぬ」は日本語では少数派の、ナ行で活用する五段動詞である。この言葉と出会った子供は、自分がすでに使いこなしている「読む」「飲む」などのマ行で活用する五段動詞をもとに類推を行う。そして「死む」「死まない」という言い方をするに至るのだ。

こうしたことは、子供が言語習得の過程で通る道であり、多くの言語学者や言語習得の研究者は「間違い」とは見なさないという。

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