舞台になった「千と千尋の神隠し」夏木マリ×鈴木敏夫×ジョン・ケアード
見出し画像

舞台になった「千と千尋の神隠し」夏木マリ×鈴木敏夫×ジョン・ケアード

文藝春秋digital
湯婆婆はどんな出で立ちに?あの名シーンはどうなる?/夏木マリ(俳優)✕鈴木敏夫(プロデューサー)✕ジョン・ケアード(演出家)

画像1

(左から)夏木さん、鈴木さん、ケアードさん

初めての舞台化

3月2日から帝国劇場で開幕する、舞台『千と千尋の神隠し』(プレビュー公演は2月28日と3月1日)。宮﨑駿監督の不朽の名作が、ミュージカル『レ・ミゼラブル』の世界初演を手がけた、イギリスの演出家・ジョン・ケアード氏の手によって初めて舞台化される。

2021年11月9日、12月からの稽古を前に、ジョン氏、映画に続き出演する俳優の夏木マリ氏、スタジオジブリ代表取締役でプロデューサーの鈴木敏夫氏が語り合った。

鈴木 2001年に映画公開してから20年ちょっと。舞台化は感慨深いですね。

夏木 ジブリさんは舞台化の許諾が厳しそうなので実現しないだろうなと思っていました。それがまた「油屋」で働ける日が来るとはねえ。

ジョン 宮﨑さんのたぐいまれな想像力に満ちた世界を舞台化することは私にとって大きな挑戦ですが、大変光栄なことで興奮しています。

鈴木 ジョンがスタジオジブリに初めて来てくれた時、宮さんと非常に意気投合しまして。彼はジョンに「あなたの好きなように作ってください」と言っていましたよね。

ジョン とても楽しいミーティングでした。数分話した後、宮﨑さんが2つ返事で「いいよ!」と舞台化をご快諾してくださって。まさか、そんなすぐに許可をもらえるとは思ってもいなかった。だから、直後に「どうやるの?」と聞かれた時には一瞬パニックになりました(笑)。

鈴木 宮さんからしたら「もう俺の手は離れたから。あんなに多くの人に支持されたんだから、もう俺のものじゃない」という想いがあるんだと思います。

映画『耳をすませば』を作る時、参考にしたのが、イギリス人が撮ったドキュメンタリーでした。日本の中学生に密着した内容で、彼と「イギリス人が撮るとこんなに面白くなるんだ」と感動しました。ジョンも間違いなく素晴らしい作品を作ってくれると思っています。

夏木 ジョンとは『レ・ミゼラブル』(1997・98)のマダム・テナルディエ役で出演して以来のお仕事ですね。

ジョン 第一印象は狂った女……ジョークですよ(笑)。

夏木 役柄にあわせてトゥーマッチメイク(厚化粧)して稽古に現れてね。ジョンがビックリしたことを覚えています(笑)。

ジョン マリさんはとてもチャーミングでアイディアマンでした。すごく楽しかったです。

油屋という劇場空間

鈴木 僕も夏木さんとの初対面は鮮烈でした。まるで昔から知っているかのようにタメ口で話しかけてこられて。気が付くとこちらもつられてタメ口で喋っていました。すぐに心を掴まれちゃいましたね。

夏木 お褒めのお言葉、ありがとうございます。

原作では、少女・千尋が、八百万の神が訪れる湯屋「油屋」の世界に迷い込み生きる力を呼び醒ましていく。夏木氏は映画と同じく、油屋を支配する魔女の湯婆婆とその双子の姉銭婆を演じる。

ジョン 映画はとても演劇的ですよね。

夏木 私も、初めて映画の台本を読んだ時、シアター(演劇)の台本みたいと思ったんです。舞台演出できる要素がけっこうあるなって。

ジョンも、映画を観て絶対舞台にしたいと思ったでしょ?

ジョン すぐにやりたいとは思いませんでした。小説と比べて映画原作の舞台って稀で。ましてやアニメの舞台化はそれほど成功している印象がなかったですから。

きっかけは、東宝のプロデューサーから帝国劇場で何かショーをやらないかというお話をいただき、日本色の強いお話をやりたいなと考えたことからでした。日本の舞台作品って家族劇が多い。帝劇の大きいスペースを満たすような、スケールの大きい話がなかなか見当たらなかったんです。そんな時、『千と千尋』の油屋がある! と。

鈴木 油屋がある?

ジョン 『風の谷のナウシカ』や『もののけ姫』では、主人公がいろんな場所をあちこち動き回るので舞台でやるのは難しい。『千と千尋』の場合、基本的には油屋で物事が起きる。つまり、油屋それ自体が能の舞台や相撲の土俵のように、日本的な劇場空間になっているんです。

鈴木 なるほど。

ジョン その油屋を舞台に八百万の神が集い魅力的なキャラクターたちが入れ替わり立ち替わりで登場する。湯婆婆から下働きの湯女やカエル男まで明確なヒエラルキー(階級)があるのも面白いです。

「可愛すぎて食べちゃいたい」

鈴木 演出家らしい視点ですね。僕はね、宮さんならではのスケールの大きい作品を演出できる人って日本にはいないのかもしれないと思っていたんです。

夏木 そうだと思いますよ。オリンピックを見ればねえ……ジョンに開会式も演出してもらえば良かったのに。

ジョン たった1回の演出のために何年間も働かなきゃいけないなんて、私はやりたくない(笑)。ちょうどオリンピック期間に来日して、隔離期間の間に観ていましたが、パラリンピックのセレモニーは面白かったです。

夏木 ホントそうでした。

鈴木 製作発表で主演の千尋役のお二人に会って驚きました。千尋は、僕たちが家族ぐるみで親しくしている、映画プロデューサーの奥田誠治さんの娘さんがモデルなんです。上白石萌音さんは、千尋のモデルである娘さんによく似ていて、橋本環奈さんは、そのお母さんに雰囲気がそっくりなんです。

ジョン 萌音さんとは『ナイツ・テイル―騎士物語―』という作品でご一緒しましたが、本当に素晴らしい役者さんです。根っからの善良さ、素朴さがそなわっていて、それが演技ににじみでてくる。彼女なら、すぐに千尋になっていくと思います。

環奈さんも才能あふれる、とてもエネルギッシュな役者さんですね。

夏木 二人とも可愛くていじめがいがあります。もう可愛すぎるから食べちゃいたいですもん。

鈴木 会見での写真撮影でどのカメラを向けばよいのだろうかと、キョロキョロしていたら、環奈さんが「あのカメラに向かって笑うんですよ」と親切に教えてくれました。

ジョン それは確かにお母さんみたいですね(笑)。

主演の2人

主演の二人

カオナシの裏話

鈴木 ちなみに、湯婆婆のモデルはというと……僕なんです。

夏木 ジブリの湯婆婆なんですよね(笑)。宮﨑さんから言われたことをよく覚えています。

「スタジオジブリには、鈴木敏夫という人間がいる。お金の勘定をしている。特定の人にとっては悪く見えるけど、一生懸命仕事をする人間なので、湯婆婆も一生懸命仕事をして、湯屋を守ってください」と。

鈴木 その通り、ジブリも油屋みたいなもんですからね。

ジョン マリさんがおっしゃるように、湯婆婆は善とか悪で切り分けられないのが魅力です。彼女の経営する油屋は危険なところなんだけど、それと同時ににぎやかで生き生きとしていて、楽しみもある。だからこそ、お客様である神々がいっぱいやって来るんだと思います。

夏木 そう、単なる魔女じゃなくビジネスの才能もあって坊に対してはすごく母性が出る。いろんな一面があるから演じ甲斐がありました。

鈴木 宮さん本人が完璧な人物ではないですからね。気が付けば45年位付き合っていますけど、いつもいい人ってわけじゃないもん(笑)。自分の不完全な部分も認めているから、どの話も単純な善悪の二項対立、勧善懲悪にはならないんです。

ジョン どの登場人物も型にはまってなくて、いろんな顔を持っていますよね。とりわけ、カオナシ(黒い影のような体にお面らしきものをつけたキャラクター)は非常に興味深いです。

単なる「黒くて怖いもの」ではない。最初は、雨が降る中、誰からも無視され油屋に入れてもらえず、そんな孤独な様子がとても可哀そう。それが自分の身体から金をたくさん生み出した途端、油屋の従業員が「お得意様」としてもてなすようになる。そして、料理を貪り食いまた金をバラまき、自制を失っていく——。人間の強欲さ、キャピタリズム(資本主義)の象徴といえますが、その一方で心優しくて共感できる部分もある。とても人間的な奥深さを感じます。

鈴木 カオナシって最初は名前すらなかったんですよ。それが、制作に行き詰った時、宮さんが「橋の欄干で神様に混じっていたやつで何かやる?」と言って、油屋で大暴れする話を思いついたんです。それは面白いと思って、僕は宣伝でもカオナシを前面に押し出した。すると、宮さんが「なんでカオナシで宣伝しているの?」と不思議がっている。「だって、千尋とカオナシの話でしょ」と言ったら呆然としていました。宮﨑駿が天才たるところで、全ストーリーを自分が支配していない。だから、彼の口癖は「なんでこうなったんだろう」なんです。

夏木 鈴木さんと宮﨑さんの関係って面白いですよね。

鈴木 狐と狸の化かし合いみたいなもんです(笑)。

ジョン そういえば、僕と鈴木さんは同い年なんですよね。

鈴木 そうそう。僕が1948年8月生まれでジョンがその1カ月後生まれ。

ジョン 何が言いたいかというと私たちは湯婆婆と銭婆です(笑)。

夏木 宮﨑さんと初めて会った日のことは忘れられない思い出です。宮﨑さんは会うなり、目の前で線画を描きはじめられて。「ちょっと声を聞かせて」とおっしゃるから、なんだろうと思っていたら、最初に湯婆婆が次に銭婆が出来上がったんです。それで「双子にしちゃお」と、おっしゃる。まるで私に合わせて湯婆婆を描いてくれるような錯覚になって非常に興奮する瞬間でした。

ジョン それは羨ましい!

舞台版湯婆婆は2頭身?

鈴木 最初は湯婆婆と銭婆は別々の顔だったんです。

ジョン そうなんですか!?

鈴木 当初は、銭婆は湯婆婆の背後にいるさらに強い魔女で、千尋はハク(湯婆婆の下で働く謎の美少年)の力を借りて2人でやっつける——そんな冒険活劇にしようとしていました。ただ、それだと3時間の大作になってしまうから「同じ顔でいいか」って(笑)。それで双子になったんです。

夏木 これから稽古がはじまりますが、一体、どんな舞台が出来上がるのか。ジョンの頭の中にあることだからまだ何もわかりません。

私がやっぱり一番気になっているのは、湯婆婆の出で立ち。映画と同じく2頭身なのでしょうか?

この続きをみるには

この続き: 3,108文字
この記事が含まれているマガジンを購読する
月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に幅広いテーマの記事を配信しています。政治家や経営者のインタビュー、芸能人の対談、作家のエッセイ、渾身の調査報道、一流作家の連載小説、心揺さぶるノンフィクション……月額900円でビジネスにも役立つ幅広い「教養」が身につきます。

一流の作家や知識人、ジャーナリストによる記事・論考・ルポルタージュなどを毎日配信。執筆陣のオンラインイベントも毎月開催中。月額900円で記…

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
文藝春秋digital

記事へのご意見・ご感想をお待ちしています。「#みんなの文藝春秋」をつけてご自身のnoteにお書きください。編集部がマガジンにピックアップします。皆さんの投稿、お待ちしています!

ありがとうございます!
文藝春秋digital
月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に、一流の作家や知識人による記事・論考を毎日配信。執筆陣のオンラインイベントも毎月開催中。月額900円で記事読み放題&イベント見放題のサービスです。