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2022年8月号|三人の卓子 「文藝春秋」読者の感想文

安全な船旅を再び

私は、北海道知床半島の付け根にある町に住んでいる。4月23日に知床半島西海岸のカシュニの滝近くで観光遊覧船が沈没し、2カ月がたった。乗員乗客26名のうち14名が死亡し、12名がいまだ行方不明となっている。

沈没したカズワンは、瀬戸内海を運航していた船舶を改造したものだった。そのうえ、自然条件の厳しい中を、従来から勤務していたベテランの船長や乗組員を全て解雇し素人同然の船長に任せた。さらには運航時の管理者不在など、運航会社の数多の違反が国土交通省の監査で明らかになった。

私は2012年4月30日に、家族で羅臼町の鯨ウオッチング船に乗船した。今回の事故が発生した斜里町ウトロの対岸にあたる。そのときは、乗組員、そして船長さんの慎重な運航と安全への気配りのおかげで、知床の海のすばらしさを堪能した。

観光遊覧船の安全な運航には、運営会社の審査と許可後の的確な巡視、そして気候を常に注視したうえでの運航が求められる。

この度の事故原因の究明と犠牲者への哀悼は決して忘れてはならない。

「知床旅情」は、私にとって忘れられないふるさとの歌である。

全国の旅人が笑顔で乗船し、知床旅情を満喫できる船旅を取り戻さなければならない。

(岡部清治)

薬に頼らず

7月号の大特集『あなたの治療薬は大丈夫か?』を読みました。特に私はドライアイと診断されているので、目に関する項目を興味深く読みましたが、驚きました。

「目薬は『捨て時』が肝心」という記事で眼科医の平松類さんが解説されていた、「さす回数を増やすと危険」ということ。私が使用している目薬の使用量は1日4回くらいだと言われているので守っていましたが、時々目が疲れている日などはそれを超えてさしていました。これが目にとっては逆効果だったというのです。

大事なのは薬に頼りすぎないことでしょう。私のドライアイも、目薬をさすと楽になるので助かっていましたが、量をじょじょに減らし、最終的にはほとんど頼らないのが望ましいはず。目はもっとも大切な器官だと言われるので、これからは薬に頼りきりにならず体の免疫力そのものを高めていきたいと思います。

ジェネリックの危険性についても平松先生は触れてい ました。ジェネリックは「安くて安全」というイメージでしたが、全てが全てそうではないとのこと。薬をもらうときに「ジェネリックにしますか」と聞かれることがあり、安いという理由だけで「はい」と答えていましたが、今後は成分などをきちんと確認し、検討してから答えようと思います。

今後もこのような特集を何度か組んでもらい、最新情報を知りたいです。

(細江隆一)

作家と編集者

『大地の子』が毎週テレビで放送されていた頃、日ごろあまり感情を表に出さない職場の先輩が「この番組にだけは毎回泣かされる」と言っていたことを思い出す。

7月号に掲載されている創刊100周年の記念企画『山崎豊子と文藝春秋』は、時にユーモアも交え、とても読みやすい一本だった。山崎さんの担当編集者であった平尾隆弘氏によるものだ。

この大作家は途方もなく大きなテーマを持ち、取材、執筆活動に文字通り心血を注ぎ、足かけ8年の間、他のすべてのことをなげうって『大地の子』に没頭したという。平尾さんは最初、そのあまりの熱意に「内心ヘキエキ気味だった」そうだが、次第にその姿に心打たれ、できるかぎり力になる決意をする。

文中にちりばめられたエピソードがおもしろい。彼が初めて挨拶にいったとき、「私はヤマサキやからね、濁点をつけたらあかん。ヤマザキやと悪役になってしまうもん」と言われたこと。怪訝な顔をする平尾さんに、「私は悪役には濁点をつけることにしてるのよ」と続けられる。なるほど、財前五郎にはずいぶん濁点がある。

自宅にあった最新式親子電話で、秘書の野上孝子さんも交え四六時中かかってくる電話に面食らったことなども、平尾さんのユーモアのセンスによって見事なエピソードになっている。

以前、何人もの高名な作家の担当を経験した編集者に聞いたことがある。「誰が一番すごかったですか」。答えは、「みんな」だった。

しかし、作品は作家だけでは完成しない。縁の下の力持ちが必要である。作家を一心同体となって支える編集者のエピソードは、面白い。

(城六男)

竜ちゃんの姿

7月号の『上島竜兵はなぜ死んだ?』は、ビートたけしさん自身の「芸人観」を総括するものだったように感じる。

自身も大事故で一命をとりとめただけに、自ら育てた後輩の自死に対し、複雑なものがあったのかもしれない、と切ない。

一視聴者としてその姿を見てきた私でさえ、生前の体を張った明るい「竜ちゃん」の姿が頭から離れなかった。

志村けんさんのラジオのレギュラーとして上島さんが出ていたことを覚えている。和気あいあいとした雰囲気が楽しかった。

頼れる大先輩に茶々やツッコミを入れるイキイキとした様子に、「こんな一面もあるんだ」と驚いたものだ。

リスナー目線を忘れないパーソナリティで、ラジオでさらに人気が出るのでは? と秘かに楽しみだった。

これから年を取り、どんな芸に変わっていくのかと楽しみだっただけに貴重な才能の喪失は残念でならないが、雲の上で志村さんと再会している楽しい場面を想像し、謹んでご冥福をお祈りしたい。

(佐藤仲由)

遺伝子を打ち破る食生活を

生来、頑健とはいえない体質の私がなんとか米寿を迎えられたのは、脆弱な体質を見抜いた妻が私のために作ってくれる食事あってこそのことである。心房細動による脳梗塞や皮膚がんなどを経験しているが、この歳まで生きてきた。

このような経験があるだけに、4月号から始まった家森幸男氏の連載『世界最高の長寿食』には幾度となく目を通した。熟読である。

6月号の結論は「栄養や環境で遺伝子による運命を変えられる」という画期的なものだった。私の母方の祖母は高血圧に起因する脳梗塞に倒れ、母も高血圧による心不全で亡くなっている。私の身体にはまちがいなく循環器系の脆弱な因子が潜んでいるのだ。

残りの人生、大豆と魚を中心にヨーグルトや豊富な野菜・海藻の助けを借りた食生活を心がけたい。そして家森氏による画期的な提言を私の身体をもって実証したいと思う。

(郷原資亮)

私の「オヤジ」

各界の著名人たちが毎月執筆する連載「オヤジ」「おふくろ」を読みながら、人生の終末期になって自分も「オヤジ」を書いてみたくなった。

私の父は六尺豊かで病気知らずの頑健そのもの。豪放磊落で、水泳、剣道、柔道何でもござれの偉丈夫だった。スパルタ教育と称してすぐさま拳骨が飛んでくるから、病弱のくせに我儘でいたずら少年の私にとっては、怖くて苦手なオヤジだった。

庄内大地震で没落した商家の長男に生まれた父は、中学を終えると北京に渡って修行した後、人脈を生かして大連で起業し、満州中を駆け巡っていた。多忙な毎日で自宅を留守にするのが常。私が中学に進学した年の8月、日本は太平洋戦争に敗れた。どん底の生活から、一家4人丸裸で両親の故郷酒田に引き揚げた。

父のお家再興の夢は破れ、帰国後はいろいろな事業に手を出すも思うに任せず、私たちの生活は苦しかった。にもかかわらず息子をどうしても大学に入れたいとの執念が篤志家の資金援助を引き出し、各種奨学金と家庭教師などのアルバイトでの稼ぎを手に、やっと卒業式に漕ぎつけるという前日、父は58歳で急逝した。

生前、私がようやく20歳を過ぎたときには酒瓶を土産に帰省し、生まれて初めて父とさしで盃を交わした。

「お前も酒の味を覚えたか、愉快だナア……」

と震える声を詰まらせ、傾けた盃の酒が滴り落ちた。父の眼に涙が浮かぶのを見たのは、最初にして最後だった。あの時父が漏らした、「お母さんを大事にしろよナア」という言葉が忘れられない。

その母は夫と別れて10年後、嫁や孫に囲まれ、静かに61歳の生涯を閉じた。

(須田寛)

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