
安藤百福 研究小屋には失敗作の山 安藤宏基 100周年記念企画「100年の100人」
チキンラーメンやカップヌードルを開発して国民食に育てた日清食品の創業者・安藤百福(1910~2007)。現社長の安藤宏基氏は、衰えない情熱を持った父の背中を見続けてきた。/文・安藤宏基(日清食品ホールディングス社長)
安藤氏
研究室とは名ばかりの家の離れの小屋で、創業者がチキンラーメンの開発に没頭していた時、私は小学生でした。黒焦げの麺、湯をかけても戻らない麺……失敗作が山になっていたことを思い出します。カップヌードル開発の際には様々な試作品のカップを毎晩持ち帰り、夜触り、朝起きて触り、「どう思う?」と私にも聞いてきました。何度失敗してもあきらめず、完成するまで続ける人でした。戦後の貧しい中、「食が満たされてこそ世の中が平和になる」という熱い思いがそれを成し遂げさせたのでしょう。「できる立場の者がやらないのは罪だ」と後年も繰り返していました。
チキンラーメンもカップヌードルも、「最初からここまで考えられていたのか」と未だに驚くことがあります。例えば、創業者はチキンラーメンを作る際、スープを麺に染み込ませることにこだわりました。スープの包装袋をなくすことで、CO2排出削減に役立つことになるのです。しかも、試行錯誤の末に発明した技術にもかかわらず、「野中の一本杉より森のほうが強い」と言ってその特許を公開し、世界中で製造されるようになりました。どこかで災害が起きると、現地の製造事業者が非常食としてカップ麺を拠出する世界的な枠組みまで作り上げたのです。
安藤百福
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