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「季語」なし「切れ字」なし俳句ブームはフランスでも起きていた

文・中島さおり(翻訳家、エッセイスト)

 日本を発祥の地として世界的に広がりを見せる俳句。フランスも例外ではない。

 インターネットには数々のフォーラムが立ち、Facebookの俳句グループに毎日、人々が投稿している。フランス語による句会は、2007年に初めてパリに現れた後、リヨン、フランス南西部、ポワティエ、マルセイユへと広がった。フランス語の句集の選書を出す書店兼出版社 Pippa には、日本語からの翻訳とフランス俳人による創作がズラリと並ぶ。パリ郊外で俳句のブックフェアも開催され、パリ大学でフランス俳句のシンポジウムが行われ、フランス語圏の複数の都市で「俳句デー」が持たれている。

 このような隆盛は2000年代のはじめから徐々に準備された。フランス俳句協会が結成され、俳句誌GONGを出し始めたのが2003年。19年9月現在、64号まで出版されている。

 フランス俳句協会の初代会長で、2007年には俳句推進協会を設立しているフランス俳句の第一人者、ドミニク・シポー氏によれば、俳句人口は、コアな人々がおよそ1,000人くらい、その他に各地のワークショップに参加したり学校で実作したりする人が加わるとのことだ。

 フランス俳句には実は歴史がある。日本の俳句が最初に紹介されたのは1902年。W・G・アストンの『日本文学史』の仏訳による。チェンバレンの有名な俳句論『芭蕉と日本の詩的エピグラム』のフランス語への抄訳を経て、1906年に、ポール=ルイ・クーシューがフランスの読者に向けた初の本格的な俳句論『ハイカイ(日本の叙情的エピグラム)』を著す。

 フランス俳句は、クーシューの影響下に、翻訳を手本に生まれた。その短さ、簡潔さ、瞬間を捉える美学が、長く雄弁な西洋の詩に倦んだ人々を魅了した。ジュリアン・ヴォカンスが第1次世界大戦中に戦場で詠んだ前線俳句はその最初の結実だろう。1920年9月にはNRF(新フランス評論)が84号でジャン・ポーランやポール・エリュアールなど12人の詩人、俳人による「ハイカイ詩集」を組む。その後、松尾邦之助と親交のあったルネ・モーブランが俳句の旗手となった。

 こうして、新しい詩を求めていたフランス詩人たちが、日本の俳句に刺激を受けつつ発達させたフランス俳句だったが、現在のフランス俳句と直接には、繋がっていない。戦前のフランス俳句は1930年代になると、多くの前衛運動の中に紛れて勢いをなくし、戦争を挟んで、その流れは一度、絶えてしまった。

 現在のフランス俳句は、1970年代の終わりになって、再び日本の俳句に関心を持つようになった人々が、新たに日本語から翻訳したものが源流で、ジャック・ケルアックなどの英語俳句からの影響も受けている。翻訳は80年代、90年代を通じてどんどん豊かになり、2000年代からの実作を準備した。

 さて、フランス俳句とはどんなものか。日本人にとって俳句と言えばまず五七五と季語、次に「や」や「かな」のような「切れ字」が頭に浮かぶ。

 ところがフランス俳句には、季語がなく、五七五とは限らない。「や」や「かな」にあたるものは、フランス語の性質からして存在しない。一方、フランス俳句の規則のように見えるのは、3行で書かれていることだ。

 となるとフランス俳句は、日本の一般的な俳句とは形式的にかなり違う。3行で書かれる無季の自由律俳句である。

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